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第1161話 『水浴びに誘ったよ』



 キャンプから少し離れた所に大きな崖があった。その脇には、泉のある洞穴があり、私はゾーイと一緒にそこへ水浴びにやってきていた。


 そう言えば、キャンプを離れる時には、誰かに一言言っておかないとと思ったけれど、ルシエルとノエルには水浴びに行くと伝えたし、大丈夫だろうと思った。


 でないと、もしキャンプに私がいないってルキアが気づいて、水浴びに行っているって事も知らなかったりしたら、きっと私がいないって大騒ぎしそうだしね。そうならないように、誰かに言っておくのは大切なこと。


 夜空には沢山の星が輝いていて、月明りもあった。だから多少の薄暗さはあるものの、辺りは結構ちゃんと見えた。だけど流石に洞穴の中は真っ暗。一応、ランタンを持ってきたんだけど正解ね。


 ゾーイと共に洞穴に入ると、早速適当ないい感じの岩を見つけて、その上にランタンを置いた。



「私は水着だからこのままでいいけど、ゾーイはその服を脱がないとね」


「そうですね」


「ついでにここで服も洗っていったら? ずっと今日は荒野にいた訳だし、その服もかなり汗を吸っているでしょ?」


「そうですね」



 つれなーーい。ぜんぜん、つれない。


 やっぱり王女と臣下っていう立場の違いが、彼女と仲良くなれたらいいなっていう気持ちに対して邪魔をしているのかな。


 でもそれを言うなら、ローザとは親友になる事ができた。私は王国の王女で、ローザは王国の騎士だったけれど、今はルシエルと共に友情を深め合う事ができる間柄であり、親友になれた。


 じゃあ、ゾーイと何が違うのか。


 そうだよね。私とエスメラルダ王妃の関係が良好じゃないって話は、クラインベルト王宮内では、今や誰もが知っている事だし……彼女は、その私と仲が良くないエスメラルダ王妃直轄の騎士団なんだもんね。ガンロック王国では、彼女とも戦ったりしたし……私もその際に、お腹に鉄球ぶつけられたりもしたけど……そんなのはおそらくは関係がない。


 だって、それを言うなら私はノエルとだって戦ったから。戦ったけれど、今はかけがえのない仲間だと、私……ううん、私達は思っている。


 ゾーイは、あの物凄く頑丈そうで重そうなレガースを脱ぐと、続けて服も脱いだ。脱いだ服はちゃんと畳んで、岩の上に置くとその隣に、剣、短剣、鉄球と並べ置いた。この子は、ちょっと近くに水浴びに行くのにどれだけ武器を装備していくのだろうか。


 この場所は、知らない土地だし、危険な荒野でもある。私がちょっと警戒しなさすぎかもしれないけれど、私なんて今は身につけているものなんて水着だけだし、愛刀『ツインブレイド』も自分のザックと一緒にテントに置いてきちゃった。


 一応、護身用にミャオのお店で入手した果物ナイフを2本持ってきているけどね。


 ふーむ、私がかなり、警戒心なさすぎなのかな? でも私の場合だけど、いざとなったら一応攻撃魔法だって使えるし。そりゃマリンと比べられたらアレだけど、そこらの【ウィザード】よりは黒魔法を巧みに扱えるはず。


 フフ、今にして思えば、よくこんな魔法が苦手なタイプの私に、爺はこれだけの魔法が使えるように教育してくれたものだと思う。本当に偉大な魔法使いだ。悪い事をした時とか、心配をかけたりした時だけだけど、お尻を叩かれたりと、結構なスパルタ部分もあったけどね。


 愛の鞭っていうのは、ちゃんと理解しているんだけど、爺は他の兵士とか誰がいても特にかまわずに私のお尻を剥き出しにして叩くから、痛み以上に本当に恥ずかしくて耐えられなかったよ。


 そう言えば皆と一緒に、ノクタームエルドからクラインベルト王国へ戻った時もそうだったな。皆の前で、お尻を叩かれたんだっけ。


 ひいー、思い出しただけで、なんかお尻の辺りがピリピリしてきた。爺の中では、私は未だにあのお母様にあまえてばかりいた、小さな女の子のままなんだよね。



「アテナ様」


「え? なに?」


「泉には、入られないのですか?」


「ほえ? あっ、そうだったそうだった」



 これから気持ちよく水浴びするという時に、色々と思い出してしまった。うっかり、うっかり。今は、ゾーイと一緒に水浴びをしに来ているのに。



「それじゃ、早速行かせていただきまーーす!! っとう!!」



 勢いをつけて泉にダイブ。


 バッシャーーーン!!



「ぷはーーー、冷たいけれど、やばいこれ。とーーっても気持ちいい! やっぱり暑さで身体がずっと熱を帯びていたからかもしれないけれど、一気に冷却されている感じ。気持ちいい。それに癒される。ほら、ゾーイも早くこっちへ来てよ!!」



 明らかに、凄くはしゃいでしまっているけれど、ゾーイと2人だけだしそんなの気にしない。って彼女の方を振り向くと、私が泉にダイブした飛沫でビショビショになっていた。



「ご、ごめんなさーーい」


「い、いえ。別に」



 ゾーイは、そう言って泉に足をつけた。一瞬、ビクッとする。泉の水は、湧き水でとても冷たいから。



「あれ? ゾーイ」


「はい」


「下着のまま、入るの? 他には誰もいないし、遠慮せずに脱いじゃえば……って流石に知らない泉で、いきなり全裸になって泳ぐのはレベルが高いか。あははは」



 ゾーイは振り返って向こうをむいて、私に顔を見られないようにしつつ泉に入る。前髪パッツンだけど、後姿を見ると、改めて髪が長いって事に気づく。そして王宮メイドのセシリアの事を思い出す。


 セシリアも長い綺麗な黒髪だった。いつも涼し気で、知的な雰囲気がかっこよくて……フフフ、セシリアがかけている眼鏡。あれをかければ、もしかして私も少しは頭が良く見えるんじゃないかって、借りてかけてみた事があったなー。セシリアは、笑っていたっけ。


 ふー、セシリア、今はテトラと一緒にいるんだよね。元気かなー。


 気が付くと、私はまた色々と考えてしまっていた。慌ててゾーイの方に向き直り、彼女に声をかけた。



「ゾーイ、そうやっていつまでも隅にいないで、こっちにおいでよ。折角なんだし、ちょっと泳ごうか」


「はい」



 ここの泉、結構深さもあるみたい。


 私はゾーイとやっと目を合わせると、水底を指さした後に一気に潜った。

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