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第116話 『再び出立 その2』





 馬車から第一王女が、顔を出して言った。 

 


「アテナ、ルシエル、ルキア! それにカルビだっけ? おはよーーう!」


「ミシェルー!! それにエレファも!!」



 二人は馬車から飛び降りる。少し遠くに、二人の護衛だと思われる者達を見つけた。二人は狙われているのだから、こうして城から外出すると護衛が付くのは当前だよね。



「アテナ、昨日はここで父様と会ったんでしょ?」


「うん。最初会うなり、フルプレートの騎士姿で火を頂戴って言って現れたから、かなりびっくりしちゃった」



 笑い転げるミシェル。エレファも笑っている。



「それで、もう今日旅立つんでしょ? 私はさあ、アテナに譲った本を少し立ち読みしていたから、次の行先を知っているんだよね。それでね、ここからそこまでは少し距離があるから、この馬車を使ってもらおうと思ってさ」



 ミシェルがそう言った途端、ルシエルがクルックピーに抱き着いた。こら、まだ何も乗るともお礼も言ってないのに!



「ええーー!! いいのか!! やったなー、アテナ! それでこの2羽のクルックピーには、名前があるのかな?」


「ルッピーとピピーよ」



 エレファが答えた。



「ルッピーとピピーかあ! 良いな名だなー!」



 ルシエルが再び、2羽のクルックピーに抱き着いた。



 クルルッピッピー!



「ありがとう! ミシェル、エレファ! でもこの子達と馬車を借りてたとしても、私達の次の目的地を知っていると思うけど、途中で乗り捨てなくちゃいけなくなるから…………だから、気持ちだけありがたく頂いておくわ」


「えええー! 嘘だろ? 嫌だよ! オレ、この2羽と旅したいー!!」



 ルシエルが駄々をこね始めた。



「でもしょうがないでしょ。荒野のど真ん中に、この子達を置き去りにする訳にもいかないんだから」


「それなら問題ないぜー」



 ん? ヘルツの声。その横に、見覚えのある女の子がいた。



「よっ! 戦友! アチキは、チギー・フライド! 覚えているだろ? カッサスで一緒にデスレースに参加して、刃を交えただろ?」


「チギーー!!」


 

 チギーの登場に、私よりも先にルシエルが驚いた。


 覚えている。ルシエルと一緒に賞金獲得の為に出た、カッサスの街で行われたクルックピー特別レース。それで、ジェニファーやチャンピオンのボルト・マックイーンと同じく優勝を得る為に戦った選手。そしてジェニファーのライバルだったよーな気がするけど。でも、なぜ彼女がこんな所に。ヘルツの顔を見た。



「いや、俺ッチはいかねーよ。アテナちゃん達と一緒に旅はしたいけどさ、俺ッチは俺ッチで、また冒険者の仕事があるしさ。だが、俺ッチの代わりといっちゃなんだが、このチギーが同行するそうだぜ。チギーはこのフェスで、俺ッチのライブを聴きに来てくれてさ、それから知り合い意気投合して、仲良くなったんだけどよ。間違えなく、信用できる奴さ」


「え? いったいどういう事? ミシェル?」


「アハハハ。ごめんごめん。わかりやすく説明すると、馬車とクルルッピーは乗り捨てて貰っていい。っていうか、御者をこちらで手配しているから、その御者が扱うこの馬車に乗って行ってもらえば問題ないかなって。それで、馬車の必要がなくなった所で、その御者がそのまま馬車を回収するという訳。それなら、何も問題ないでしょ?」

 


 確かにそれなら、全く問題はないけど。でも、御者ってまさか……


 エレファがチギーの手を握った。



「チギーさんは、その御者を募集したら一番に来てくれた人なの。ね? チギーさん」


「お……おう! あんたら行きたい所まで、アチキが送ってやるからさー。まあまかせなよ」


「えーー! そんな事言って、あなたレースはいいの? 一緒にいた、ガルドって人は納得しているの?」

 

「ガルドとは、ちょっとあのレースの後、喧嘩が続いてさ。それで、気まずくなって飛び出して来たのさ。それで、飛び出しついでに、前から気になっていたフェスに来たのさ。もう暫く、カッサスにも戻るつもりもないし――だから、こっちは問題ない」



 ルシエルが腕を組んで、頷く。



「なるほどなるほど。飛び出して来たと言っても、先立つものもいるだろうしなあ」



 チギーが親指を立てて自慢げに言った。



「おうとも。フェスでも、散々っぱらにお金使っちゃたし、正直もう底を尽きかけているよ」


「それでお金も無くなって、どうしようかとしていたら、ミシェルが出した御者の募集広告を見つけたもんで、飛びついたんだな。オレ達との再会は、偶然だろうけど……これは面白い巡り合わせだな」



 偶然。だけど確かにルシエルの言うように、チギーとの再会は巡り合わせともとれる。



「うーーん、ルキアはどう思う」


「え? 私ですか? 私は別にいいと思います。チギーさんとは別に敵って訳じゃないですし、レースで争ったのだってそれは、正当なものでしたし」


「そうだね、よし! うん、わかった。じゃあ、チギー! 暫くの間、よろしくね」


「やったー! こちらこそ、よろしくっネーー!!」



 チギーの喜びはかなりのものだった。もしかして、御者の報酬はかなりのものなのだろうか。いや、きっと凄い金額なんだろう。だって、ミシェルとエレファ、王女二人からの依頼だもんね。


 私達は、ミシェルとエレファ、そしてヘルツに別れを告げると、チギーが手綱を握る馬車に乗り込んで次なる目的地へ向けて出発した。

 

 馬車の中で、ルシエルがつついてきた。



「それで、次の目的地はどこなんだよ?」



 ルキアも耳をピクっとさせる。



「フフフフ。気になるよねー」


「おいおいおい、もったいぶるなってー!!」


「はいはい。次の目的地は、ここガンロック王国から北東に位置するところよ。いくつもの険しい岩山が立ち並ぶ世界、ノクタームエルド」


「ノクタームエルド……聞いたことあるような、ないような国だな」


「それは、どんな国なんですか?」


「フフフ。ドワーフ達の王国があるところよ」



 私は、そう言ってリンド・バーロック著者の『キャンプを楽しむ冒険者』2巻を開いて、二人に見せた。


 二人がそのページを、食い入る様に見て興奮している様子を見ると、私は自然と笑顔になっていた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇チギー・フライド 種別:ヒューム

アテナ一行がカッサスの街に寄った時に、クルックピーレースで戦った選手の一人。相方のガルドと喧嘩をして出てきたのと、憂さ晴らしにガンロックフェスを楽しみに王都までやってきた。ミシェルとエレファの依頼で次の目的地に向かうアテナ一行の御者を請け負った。


〇ルッピーとピピー 種別:魔物

クルックピーという足の速い鳥の魔物。ガンロックでは、馬のように利用され親しまれている。因みにこの2匹は、ミシェルとエレファがそれぞれ子供の時から騎乗していたクルックピーなのだ。それだけ、ルッピーとピピーの事、そしてアテナ達の事を信用しているのだ。


〇ノクタームエルド 種別:ロケーション

クラインベルト、ガンロックに続いてアテナ一行の次の冒険の先。巨大な連なる山脈で埋め尽くされた土地でそのしたには、大洞窟世界が広がっている。決して陽の差し込まない大洞窟世界を人々はノクタームエルドと言った。語源は、夜想曲「ノクターン」からきているとも言われている


読者様


当作品を読んで頂きまして有り難うございます。

ブクマ、評価、イイね等、つけて下さいました方には重ねてお礼申し上げます。

物凄く、励みになっております。


なんとかここまで来ることができました。

今回の話をもちまして第二章完結でございます。

まさか、ここまで続ける事ができたなんて、自分自身驚いております。


二章のタイトル、「力の証明」と言うのは、二人のヒロイン、アテナとテトラに向けて付けました。アテナはガンロックという自分の知らない新しい世界への挑戦と、テトラはダメダメな所から這い上がっていってくという、二人の力の証明が上手く描ければと思ってつけました。それが少しでも伝わればいいなーと思っておりますが、まずは作品を読んで下さった読者の方々に、感謝の気持ちをお伝えしたいです。


また引き続き、少しでも楽しんで頂けるものを書いていけるように頑張っていきますので、よろしければ応援よろしくお願い致します。m(_ _)m

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