第1159話 『おーーいしいいいーー!!』
ラプトルのお肉に続いて、ガルーダのお肉も焼き上がった。
私達はまず、ラプトルのお肉を食べた。その後で、貝のお刺身。それはこれから食べる訳なんだけど、ちょっと緊張をする。だって食べなれていないし、貝の生食っていうのがまた衝撃的だった。でもエスメラルダ王妃やゾーイは、ぜんぜん平気だって言うし……それならチャレンジしない訳にはいかないよね。何事も、経験経験。
全員に二枚貝と巻貝のお刺身が行き渡ると、私は早速二枚貝の方から頂く事にした。お箸で摘まむとお醤油に少しつけて、思い切って口の中へ。そして噛む。
「もぐもぐもぐもぐ……」
「ど、どうですか?」
「どうなんだ? 美味いか? とても美味いのか?」
ルキアとルシエルが、私の顔を覗き込んできて言ったので、にっこり笑顔で返した。
「うん、めっちゃ美味しいよ!! 口の中に入れたら、溶けちゃう感じ。しかも甘味もあるし」
感想を言った瞬間、皆慌てて食べ始めた。ルシエルが声をあげる。
「おーーーいしいいーーーーい!! なんだこりゃ、めっちゃ美味いじゃねーか!! これは、ノエル君! 間違いなくお酒と合う事この上なしだよ!!」
「うおっ、本当だな! これは、確かに酒と合うぞ」
貝の美味しさに皆、舌鼓を打ち始める。そしてルシエルとノエルが酒盛りを始めたので、ルキアとクロエはこっち側に避難させた。だって教育上良くないからね。
「あの、アテナさん」
「なに、クロエ?」
「このコリコリする方なんですけど、歯ごたえもよくて美味しいですね。これは、どっちの貝ですか?」
「ああ、それは巻貝の方ね。そうなんだ、そっちはコリコリするんだ」
フフフ、クロエも気に入ったみたい。私も食べてみると、確かにコリコリするし、二枚貝に負けない位の美味しさだった。皆と同じように、貝のお刺身を食べながら葡萄酒を飲んでいたエスメラルダ王妃は、私とクロエの方を向いて言った。
「そうでした。そう言えば、思い出しました」
「え? 思い出したって何をですか?」
「二枚貝はミルキーシェル。巻貝は白巻貝という名前です」
「へえ、そんな名前なんですか。また食べたいから、その名前を憶えておこっと」
ルキアとクロエも頷く。
「そうですね! 名前とこの味と形、覚えておけばまた見つけた時に、あったー! ってなりますもんね!」
「わたしも名前、覚えました。ミルキーシェルと、白巻貝。こんな美味しい貝があるなんて」
エスメラルダ王妃は、無邪気な2人の反応を見てフフと軽く笑う。
「この貝は先ほど、ヴァレスティナ公国ではよく食べられているみたい事をわたくしは言いましたが、実際一般流通もしています。けれど高級食材には違いないですからね。あなたがたがもしこの先、またこの貝が食べたくなる事があれば、わたくしのいる所へ来なさい。食べさせてあげましょう」
「ありがとうございます、王妃様。やったね、クロエ」
「え、ええ。王妃様にそのような事を言って頂けるなんて、わたしはとても幸せです」
「うっひょーー!! マジっかーー? じゃあ、このオレも近くまで寄ったら王妃様ん所に寄らせてもらおっかなーー。その時は貝料理だけって事はないだろうし、いろんなご馳走とお酒を用意してもらえそうだな。キシシシ」
横からいきなり話に入って来たルシエル。エスメラルダ王妃は、そんなルシエルを無視してルキアとクロエの傍に移動した。そりゃ、そうだよね。私だってこんな貪欲エルフ、無視して放置する。相手したら余計に面倒になりそうだし。
「なんだよー、王妃様はオレをシカトすんのかー? そんなんしたら、アレだぞ。ルシエルちゃん泣いちゃうぞ。泣いてもいいのか、泣いたらアレだぞ、泣かした方もかなしーくなるんだぞ。だからもっと、うーーんと優しくしなされ。なんせオレ様は、硝子のような繊細なハートをしているからな。ギャハハハハ」
「おい、酔ってんか。いい加減にしろ」
「ひゃーー、引っ張られる」
ノエルに襟首を掴められて、向こうに引きずられていくルシエル。エスメラルダ王妃とか、あまりルシエルの事を知らない人は皆、うざいとか面倒くさいとかそういう風に思うんだろうな。確かにそうなんだけどルシエルは、実は人より何倍も寂しがり屋さんなんだよね。だから、常にかまってほしくてこういう態度をとる。
「よーーし、それじゃ今度はガルーダのお肉を頂こうかな!! いいかな、ルシエル、ノエル?」
「おーおー、いいぞいいぞ!! もういい感じに焼けているから、食えるぞ!! 早速、アテナのあの秘伝のタレで食べようぜー」
「おいこら! 焼いたのは、あたしだろ! あたしが仕切ってガルーダの肉が美味くなるように、気を遣って絶妙な感じに焼きあげたんだ」
「なんだよ、オレだって手伝っただろーが」
「はいはい、2人共仲良くしてー。ほら、そっちに寄って。そっちに座るから」
ノエルが呟く。
「やっぱり、ドワーフとエルフは、相容れない間柄だ」
「なんだとー! うっかりでもそんな悲しいこと言うなよ!」
「うっかりじゃない! いい加減、お前の態度には、うんざりしているんだよ。あたしを始め、ここにいる皆がな!!」
「嘘だ嘘だ嘘だーー!! 皆、そんな事、思ってないわーーい!! オレは、皆のアイドルなんだ!! そうだよな、アテナ!! オレは皆のアイドルだよな!! そうだろ?」
「はいはい、あんまりこっちに迫らない。アイドルかどうか私には解らない」
「そんなーーー」
「はっ! ほら、見てみろ」
「でも皆、ルシエルの事は嫌いじゃないと思うよー。さっきのノエルの言った事だって、根拠はないし」
ノエルが慌てて反論する。
「いや、でもドワーフとエルフが仲が悪いっていうのは、昔からよく言うし……」
「そうかな? 一部ででしょ? それにあなた達はハーフドワーフとハイエルフでしょ。正確には、ドワーフとエルフではないんじゃない。ノエルなんか半分はヒュームなんだし」
揃って『あっ』っていう声をあげてポンと手を叩く二人。ほら、やっぱり実は息がぴったりなんじゃないって私は思ってしまった。
さてと、それよりもこのガルーダのお肉。凄く弾力がありそうで香ばしく、食欲をそそる猛烈な匂い。もう我慢できないわ。
私は網の上にドーーンと豪快に乗っているガルーダの骨付き肉を掴んで、そのまま噛みついた。すると、とんでもないジューシーで肉汁たっぷりの極上のお肉の味が、口の中いっぱいに広がった。
私は、さっきのルシエルみたいに大きな声で「おーーーいしいいーーーーい!!」って吠えた。本当に美味しいものを食べている時は、本当に美味しいものを食べているんだって自分にもこの世界にも叫んで言い聞かせたかった。
ルシエルのように、呆れた目で見られたとしてもね。フフフ……




