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第1158話 『白い貝を食べてみよう その3』



 やや斜めにナイフの刃を入れて、貝の身をスライスしていく。貝柱も大きいのは、三等分にして、身と一緒にお皿に乗せると、続けて巻貝の方も調理を進めた。



「えっと……これは……」



 エスメラルダ王妃に視線を向けても、わたくしに聞いても調理方法までは解りませんからって顔をされた。それで今度はゾーイの方を見る。するとゾーイは、枝を手に取りその先端を自分のナイフで削って尖らせた。串。



「これをお使いください。巻貝はこれで身を繰り抜いて、それからカットするといいです」


「うんうん、なるほど。そういう風にする訳ね。巻貝なんて、なかなか自分で獲って食べたりしないから。でも面白いねー」



 ゾーイにそう言って笑いかけると、彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せた。それもそのはず。私はクラインベルト王国の王女で、彼女は私の義母エスメラルダ王妃直属の配下なのだから。それにガンロック王国では、私を王妃のもとへ連れてくるという命令を受けて、剣も交えた。


 だから今回ゾーイは、エスメラルダ王妃の護衛をする事になり、今こうして以前戦った私達と一緒する事になって、とても複雑な気持ちになっているのかもしれない。


 でも過去は過去で、今は今。あの時、私と一緒に戦ってくれたルシエルやルキア、カルビだってゾーイには、今は敵意の欠片もなければ、全く気にもしなていないんだから。あの時は、立場がそうさせていただけと理解している。


 巻貝を手で掴むと、身が縮んで蓋が奥へギュウウっと下がった。二枚貝の方もそうだけど、まだ生きている。近くて目を丸くして見ているルシエルとルキアは、興奮した声をあげた。



「うおおお! まだ生きてんぜ! すっげーな。これを焼きもせずに食べる訳か。なんだかあれだな。緊張するな」


「貝を生で食べるっていうのも凄いですし、最初はちょっと怖かったんですけど……こうやって見ていると、なぜか口の中に唾液が溢れてきますね。身体は、これが美味しいものだって解っているって事なんですかね」


「うん、これはきっと美味しいよ! ちょっと待っててねー。今、身を引き出してナイフでカットするから」



 蓋の隙間にゾーイが作ってくれた串を滑り込ませる。そして突き上げた。ゾーイが言った。



「巻貝は、身が殻の中で螺旋上に入っていますので、その身を取り出す時はこうやって回しながら気をつけてやってください。ゆっくりと、慎重に。でないと身が途中で千切れて、残った部分は巻貝の中にそのままになってしまいます」


「なるほど、解ったわゾーイ。説明ありがとう。それじゃやってみるわね」



 くりっと串を回して慎重に、慎重に……


 プリイイン!


 身が上手に取り出せた。それを見たルシエルは、悲鳴をあげる。



「うわああああ!! な、内臓だ!! 貝の内臓がプリイイインゆーーて、出てきよったわあああ!! ヒイイ、なんかプリンプリンして恐ろしい!!」



 身を丸まらせ、蹲って小刻みに震えるルシエル。それを見ていたノエルが、呆れた口調で言った。



「なんだそれ。内臓なら別に狩りとかしてんだから、獲物の解体で散々見てんだろ。なにを今更……」


「いや、やめて!! そんなん言わんといて!! オレが狩る獣系のやーつは、あんなにプリンプリンしてないもん!!」



 エルフ特有の長く尖った両耳を塞いで、ノエルから顔を背けるルシエル。ノエルの溜息。でも再び貝の調理を再開すると、ルシエルは今まで何事もなかったかのようにすっくと立ちあがり、こちらを興味深く覗き込んできた。



「それじゃ、スライスするわね。ゾーイ、このお尻っていうのかな? もう一度確認するけど、この黒い部分も食べられるの?」


「それは貝の内臓です。生でも食べられます」


「内臓!! ヒンッ!! そんなプリンプリンしたドス黒いのん、怖い!!」


「それじゃ、ルシエルさんは食べないのね」


「ヒンッ! 食べる!」


「食べるんかーい!!」



 手にはよく斬れるナイフを握っていたので、もう片方の貝を握っていた方の手でスナップを効かせてルシエルを軽快に突っ込んだ。



 「うおおおおお、危ねええええ!! って、ぎゃあああ!! やめろ、そっちの手でも突っ込むなああああ!! 生臭いのが、服についちゃったよおおお!!」



 ルキア、クロエ、ノエルが爆笑をする。エスメラルダ王妃は相変わらずだけど、ゾーイは微かに口元が緩んだように見えた。



「さて、それじゃやり方も解ったし、どんどんお刺身を作って行っちゃおうか。皆食べるだろうし、全員分は作らないといけないからね」


「それじゃ、私達もやってみていいですか?」



 ルキアとクロエ。



「うん、ありがとう。それじゃ、お願いしまーーす。ノエルとルシエルは、ガルーダのお肉を美味しく焼き上げてね。ゾーイは、私の荷物にお醤油があるから、それを人数分お皿に注いでくれる?」


「焼き物は得意なんだ。あたしに任せろ」


「イエス、マム!」


「解りました」



 うんうん、皆いい子達だね。


 ふとカルビに目をやる。するとまたスナネコと遊んでいる。


 ふう、あのスナネコ、あれからすっかり警戒心が溶けちゃってずっとここにいるけど……お母さんとかお父さんとか心配をしていないのかな。


 二枚貝と巻貝のお刺身、二種盛り。それができると、ノエルがいそいそとお酒の用意を始める。ルキアとクロエ、ゾーイ。


 こんなリラックスして、大好きなキャンプをエンジョイしまくっちゃっているけど、実はこれでも一応、今はモラッタさんとの対決真っ最中なので、私はお酒を遠慮をした。


 なのでノエルとルシエル、そしてスメラルダ王妃がお酒を飲むみたい。


 あとノエルが気を遣ってくれて、エスメラルダ王妃に「葡萄酒と蜂蜜酒ならありますが、飲まれますか?」と丁寧に聞いてくれたのも驚いたけれど、それに対して「ありがとう。頂きます」と返したエスメラルダ王妃にも、かなり驚いてしまった。


 ここに来て私は、少し思ってしまった。


 私は彼女の事を、きっと今までは側面からしか見ていなくて、それが全てだと思い込んでいたのかもしれない……と。

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