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第1157話 『白い貝を食べてみよう その2』



「うんめえええええ!! こりゃ、うめえええ!! とんでもなく、美味いぞ、ほら皆食って食って!! 遠慮すんなって!! アテナの母ちゃんも、ほら!! はっはっはっはーー!!」


「ちょっと口の中に食べ物が入っている状態で喋らないで、ルシエル!! お行儀が悪いし、何か色々口から飛んでるでしょ、っもう!!」


「えっ、そう? はっはっはっ、これは失敬失敬! まあ、そうこまけー事は気にすんなよな。長い人生、生きてりゃ色々あらーさ」



 注意するも、遅かった。ルシエルの口から何かが飛んで、エスメラルダ王妃の服についた。きっと物凄く怒る……って思ったけれど、エスメラルダ王妃はルシエルの口から発射されて自分の服についたそれを、手でピッと払うと何事もなかったように食事を続けた。


 どうしたんだろう。本当にパスキア王国に来てからの彼女は、これまでの彼女と比べて別人みたいに見える。エドモンテは、この事に気づいているのかな。



「もっむもっむもっむ……ごくんっ! うわー、本当に美味しいですね、このお肉。まさかこれが、あの狂暴なラプトルのお肉だなんて思いませんね」



 ルキアが、お肉を調達してきたルシエルとノエルに向けて言った。



「だろー! なんせ、このオレ様とノエルが頑張って狩ってきた肉だからな。まずい訳がないんだよなー。わははは。あっ、そっちの焼けてんじゃん。もーらい」


「こら、てめえ! それは、あたしが精魂込めて育成に育成を重ねて育てた肉だぞ!! それを奪いやがったな、この肉泥棒が!!」


「うははは、うんめーーー!! こりゃうんめーは!! 肉も最高だが、やっぱこのアテナの作った究極のタレが、またとんでもなくこの肉とマッチして美味くなっちゃうんだよなー」


「はい、ルシエルとノエルが狩ってきてくれたラプトルのお肉は、弾力があってジューシーでとても美味しいですけど、アテナの作ったタレも最高です。お肉と凄く合いますね、これ」


「えへへ、気に入ってもらってよかった。秘伝のタレだよ」



 醤油、みりん、砂糖、ごま油にゴマそのもの、ニンニク、唐辛子、ショウガ、蜂蜜、あと柑橘系の果実を中心に何種類か使って作っている。レシピ材料だけでなく、調合の仕方や使う素材の分量や順番など、ちょっとした工夫とこだわりがあって、師匠がまた作るのが上手いんだよね。因みにその師匠っていうのは、言わずもがな伝説級冒険者ヘリオス・フリートね。最強のキャンパーでもある。


 そう、このタレの作り方は師匠から教わった。最初はこういう焼肉に使用する為に、知り合いの料理人とかそういう人に聞いてヒントを得て、自分で開発したらしいけど、できあがったらお肉だけじゃなく、サラダとか他のものにもドレッシングとしてとか結構合うって。それを初めて聞いた時、師匠に作ってって言ってお願いして食べさせてもらったら、一口目で私も気に入っちゃったから、作り方も教えてもらったという訳。それからはストックがない時、暇があれば作り置きしてザックに他の調味料と共に忍ばせていたりするのだ。


 ルシエルが私の方を見て、はしゃぐように言った。また開いた口の中には、呑み込んでいない分が見える。そんな絶望的に行儀が悪い彼女に、激しく怒る。



「だから、ルシエル!! そんなに口の中に入っている状態でお喋りしない!!」


「モッチャモッチャ、はいはい、解ってますよー。なあ、ノエル」


「一緒にするな。仲間だと思われる」


「なんだよ、つれないなー。それじゃ、こっちもそろそろ、ガルーダの肉を焼き始めるからよ。アテナもその例の奴をだな……」


 ワウウー!! 


 ギャウギャウ!!


「うわーー、いきなり背後からカルビとスナネコが襲ってきた!! 解った解った、お前らにも肉をやるからよー!!」



 会話を聞いている、ノエルやルキアの手も止まる。皆、あれも楽しみにしている。



「はいはい。エスメラルダ王妃と、ルキアとクロエが獲ってきてくれた貝ね。それじゃ、食べてみようか」


「はい、お願いします」



 待ってましたとばかりに、ルキアが貝の入った鍋を私の目の前に持ってきた。私は手頃なサイズの板状の石を置いて、その上に草の葉を敷いてまな板にする。更によく斬れるナイフも準備した。二枚貝からまな板にのせる。



「さて、始めるよ。じゃあ、まずこれは開けばいいのかな?」



 皆、私に注目している。お刺身ってどうすればいいのか、エスメラルダ王妃に視線を送ると彼女は察して答えてくれた。



「わたくしが食べる物は、全て専属の王宮料理人が作っているものです。作っている所は目にした事はありませんし、厨房にも入る事はありません。でも出来上がったものは、当然ながら目にしています。それは、こう……一口でも食べられるほどのサイズと厚みにスライスされていましたね。それを醤油につけて、食べるのです」


「なるほど。その情報だけでも、だいたいどういうものか解ったかな」


「本当か、アテナ!!」


「まあ、ルシエルはそこで見てて! って、ガルーダのお肉の準備も進めてね」


「ああ、解ってる解ってる」



 明らかに準備を中断して、こちらに注目してしまっているルシエル。ノエルが溜息を吐いて、1人でガルーダの肉の準備を始めた。でもノエルも、やっぱりこっちが気になるのかチラチラと見ている。



「さて、それじゃ……」

 


 まずは二枚貝の方を手で掴み、もう片方の手でナイフを持つ。ゾーイが割り込んでくる。



「アテナ様。二枚貝を開くには、こうやって二枚の貝が接触して引っ付いている部分に、このようにナイフを滑り込ませるように入れて、繰り抜くように押し込んでいきます」


「く、繰り抜くように押し込む……って、結構難しい事を言うわね。でもなんとなく、言っている意味は解るかもだけど」


「それで滑りこませたナイフの刃を立てるようにして、貝を開いてください。その際、ご自身の手をくれぐれも傷つけないように慎重に」


「なるほど、あっ、ゾーイの言うようにやったら開いたわ!!」



 二枚貝を開くと、そこにはプリプリとした貝の身が現れ、もう片方の貝にはがっしりと貝柱がついていた。貝も白ければ、その身もとても真っ白で輝いて見えた。周りで見ているルキア達も、弾んだ声をあげる。



「よーし、じゃあこれであとは貝を取り出して、食べやすいようにいい感じにスライスすればいいのね」


「はい。やや黒い部分は貝の内臓で、やや苦みはありますが……酒飲みには、たまらない味のようで、好きな人は好きです」


「ゾーイ、あなたは?」


「私はあまり得意ではありませんが、今申しましたように、酒飲みなどこの部分を美味しいと言う者はそれなりにいます。そう言えばゾルバ団長や、ガイ副長も好物だったと思います」



 酒飲みはこの部分を美味しいという。ゾーイのその説明を聞いて、どこからかゴクリと唾を呑みこむ音が聞こえてきた。それは、誰確認せずとも解った。もちろん、ルシエルとノエルだ。


 あーあ、マリンもここにいたら、大好きなお酒と一緒にこんな高級そうな貝を楽しめたのになって思った。

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