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第1155話 『助けてクロエもーん!』



「ルシエル!!」


「おう、肉はラプトルもガルーダも、全部切り分けてあるぞ!!」


「ノエルは!!」


「火の温度はばっちりだ! 枯木……っていうか、薪もちゃんと今晩足りる位には確保している」


「ゾーイ!!」


「とりあえずキャンプ周辺を見て回ってきたが、今のところは危険な魔物などはいないようだ」


「よーーし、それじゃクロエは、食器とかコップとかそういうのを人数分用意して並べてくれる。ルキアは、エスメラルダ王妃のテントに行って、食事の準備ができたからって言って呼んできて」


『はいっ!!』



 ふっふーーん、これで良し!! これでやっとこさ、夕ご飯を食べる事ができる。


 はあ、お昼も何も食べてないし、考えてみればよくここまで頑張ったよ私、あはは……まあ、皆だってそうなんだけどね。


 あれ? そう言えばカルビは? って思って辺りを見回すと、丁度私とルシエルの設置してあるテントの間で、スナネコとじゃれついて遊んでいた。あのスナネコもずっとここにいるけど、大丈夫なのかな? なんて思う。


 ルキアに連れられてエスメラルダ王妃がこっちへやってくると、ゾーイが彼女の為に手頃な石を運んできて、その上にシートをかぶせた。それは、即席の椅子の代わり。エスメラルダ王妃は、無言でそこに座った。ルシエルやノエル、私もそうだけど他の皆も石やら薪などを持ってきて、お尻の下に敷いている。



「王妃様、どうぞ」



 ルキアが彼女の為に、取り皿と箸を目の前に置く。その間にクロエが彼女のコップに、水を注いで同じように置いた。



「2人とも、ありがとう」



 あれ? ゾーイには何も言わなかったのに、ルキアとクロエには言うんだ。2人にちゃんとお礼が言えるなら、ゾーイにも言ってあげればいいのに……って思いつつも、何よりお礼の言葉自体を彼女が自然に口に出している方が不思議に思えた。


 それと、これもそう。まさか……まさかあのエスメラルダ王妃や、その側近でもあるゾーイ・エルと一緒に、私達がこうやってキャンプをして、仲良く食事をする事になるなんて……パスキアに来るまでには、逆立ちしたって想像もしなかったと思う。


 お父様やルーニだってこの事を知ったら、信じられないって呆然とするかもしれない。


 王都で待っているエドモンテやゾルバだって……ってあの2人は、王宮でフィリップ王達と一緒に、私達のこの姿を見ているんだっけ……って思った。


 空は暗くなり始めている。その暗くなった空を、見覚えのある大きなテントウムシがブーーンと羽音を鳴らして飛び回っていた。もっと数がいたとは思うけれど、今は見ている者にとってはあまり面白くないかもしれない食事時だからね。他のは、何処かで休んでいるか王都へ一旦戻らせているのか。


 もしくは、モラッタさん達の方だってこちらと同じように中継されている訳だし、そっちで今面白い事があって、テントウ虫の大半はそっちの映像を映しに行っているのかもしれない。


 ルシエルが勢いよく盛大に手を叩く。その行為に、エスメラルダ王妃は嫌そうな顔をした。もちろんルシエルは、そんなの全く気にとどめないし気にもしない。



「はいはいはい!! それじゃ、早速盛大に肉を焼いて行こうぜ!! こっちのエスカルゴ王妃の獲ってきた貝も焼いて食べるんだろ?」



 イラっとして、ルシエルに何か言おうとしたエスメラルダ王妃。でも先に私が突っ込んだ。



「エスメラルダ王妃だからね」


「あっ、そうだ。悪い悪い。最初にそっちで覚えちまったからつい。まあ気をつけるわ。はははは」



 絶対口だけ。そう思ったけれど、もう突っ込まない。



「それじゃ貝は、まだ食べられるか解らないから、私から試食してみる。それで大丈夫だったら、皆で食べてみよう」


「はあー? そう言ってアレだな。食いしん坊のアテナの事だから、そんな上手い事言って、美味しい貝を全部自分で食べちまう気だな!! そうはいかねーぞ!! 最初に食うのは、オレだ!!」



 ムキになってそんな事を言うルシエルに、ノエルとルキアが言った。



「アテナをお前と一緒にするな。それに一番の食いしん坊は、ルシエル。お前だろ」


「そうですよ! アテナはちゃんと考えているんですから! 駄目ですよ、そんな事を言っちゃ」



 2人に同時に責められて、猛烈に怒るルシエル……って思ったら、急にクロエに抱き着いて泣き始めた。こういう所、いつも予想の斜めを行くのよね。



「え? ええーー!? ど、どうしました、ルシエルさん!?」


「わわーーーん!! ノエルとルキアの、ちんちくりんシスターズがいたいけな美しいエルフ、ルシエルちゃんを虐めるんだよおおおーーー!! 慰めてくれーーい、クロエもーーーん!!」


「ク、クロエもん……!?」



 きょとんとするクロエに、大泣きするルシエル。それを死んだ魚のような目で見ているノエルとルキア。なぜかちらりと、カルビとスナネコの方を見たゾーイ。そしてクロエもんってネーミングがツボってしまい、吹きだす私。



「あははははは!! クロエもんって……あははは、クロエはとっても可愛い女の子なのに、クロエもーーんってさーー。めっちゃ面白いんだけど」


「キシシ、うけた。それじゃ、盛り上がった所でよ、アテナ。これから宴を始めっぞって事で、ビシっと頼むわ」



 ルシエルの言葉で、全員が私に注目する。私は、頷いたあと一度立ち上がって皆に言った。



「えっと、それじゃ……エスメラルダ王妃。よろしくお願いします」


「え!? わたくしが⁉」


「ええ、そうです」



 意外そうな顔をするエスメラルダ王妃。だけど顔をプイっと横に向けた。



「なぜ、わたくしがそのような事を……ここにいるのは、あなたの仲間でしょ! なら、アテナ。あなたがすればいいでしょ!」


「ゾーイはエスメラルダ王妃の護衛でここにいますし、確かに今ここに集まっているのは、凄く大切な私の仲間。だけどあなたにだって、例外じゃないかもしれない」



 そう言ってクロエとルキアに目を向けると、エスメラルダ王妃も2人に目をやった。皆が彼女がどうするのか、注目している。目の前には、もうあと焼くだけのお肉が並べられていて、焼き場の炎がメラメラと心地よい音を奏でていた。



「わ、わかりました。いいでしょう」



 エスメラルダ王妃は、そう言って立ち上がり皆の顔を見回した。私は彼女に後を託すと、自分の居場所に座って彼女の言葉に耳を傾けた。

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