第1154話 『焼き場?』
例の洞穴の泉。私達の水の補給場所なんだけど、なんとそこでエスメラルダ王妃が貝を見つけて、獲ってきてくれた。
エスメラルダ王妃は、それを私に渡すようにルキアとクロエに指示するとこちらを一瞥して、また自分のテントに入ってしまった。
ルキアとクロエが、仲良く大量に獲った貝をこちらに運んでくる。
「アテナ、これ見て下さい! 王妃様が泉の底に何かいるって見つけてくれて、沢山獲ってくれたんですよ!」
「食べられる貝でしょうか?」
「おおー、これは凄いね。お肉は大好きなんだけど、正直それだけだとちょっと偏っちゃうなーって思っていたんだよね。まあ貝もお肉じゃないって言われたら、なんともなんだけど」
2人は、持ってきた貝を私の目の前に置いた。本当に、ズシリとしているって感じる量。向こうでガルーダの解体作業をしているルシエル、ノエル、ゾーイの3人もこちらを覗き見た。気になるよね。
私は貝の沢山入った鍋の近くにしゃがみ込むと、中に入っている貝を適当にむんずと掴み上げて観察する。
「どれも大きくて立派な貝ね。しかも白くて綺麗」
ルキアが楽しそうに、貝を指さした。
「皆、白くて綺麗ですけど、二種類いるんですよ」
「え? ほんとに⁉ ちょっと、待って……あっ、ホントだ!! 二枚貝と巻貝!!」
ルキアの言う通りだった。二種類の貝。その事に驚いた声をあげると、ルキアとクロエは仲良く嬉しそうな顔をした。
「あと、白いお魚もいて」
「ホントに⁉ あの泉に、魚なんていたんだ!」
「はい! 小さくて可愛いお魚で、この貝と同じで白かったです」
「ルキア、ほら、あと……」
「え? あっ、そうだったねクロエ。それと泉の底に白い岩とか石が沢山あって、その辺りに貝もお魚もいました」
「へえー、そりゃ凄いね。スナネコを追って行って、ルキアと一緒にあの泉を最初に見つけた時には、そこまで発見できなかったもんね。ふーーん、そうなんだ。よし、後で泉に行って確かめてみよう」
「え? アテナは泉に行くんですか?」
「うん。今日は日中ずっとここに居て、もう汗だくだからね。ちょっと水浴びしてすっきりしたいなーって思って。それにルキアとクロエが見つけたその楽しそうな泉の底も、ちゃんと見てみたいし」
「王妃様もですよ」
「うん、そうだった。エスメラルダ王妃も一緒に行ったんだったね」
ほんわかほのぼのしていた時に、唐突に彼女の名前を聞いて、自分の気持ちが強張るのが解った。確かに私は、これまでエスメラルダ王妃との仲も最悪だったし、実際に仲良くはない。顔を見れば嫌味を言われて、それに反抗している。
そんな大人げない自分に、なにより少し悲しくなってしまった。
「アテナ?」
「アテナさん?」
可愛い2人の少女の頭を撫でて、にっこりと笑う。
「よーーし、それじゃこの貝を食べてみようか」
「え? 食べられるんですか?」
「知らない貝だけど、食べれそうな感じ……かな。とりあえず、食べてみなければ解らないし、食べなかったとして、もしもこの貝がとても美味しかったら、後悔極まりないでしょ」
クロエが両手を合わせ、震えた声で言う。
「で、でもアテナさん。見た目が綺麗な貝でも、もしも毒があったりなんかしたら……」
「それでも折角、ルキアやクロエ……あとエスメラルダ王妃が頑張って獲ってきてくれた貝だからね。食べられるかチャレンジはしないと。大丈夫、私はこういうのに慣れているし、少し試してみれば食用にできるかどうか解るから。それでも、まず最初は火を通して食べるけどね」
『はいっ!!』
貝をどうするか決まった所で、私の名を呼ぶルシエルの大きな声がした。
「おおーーーい!! アテナーー!! ガルーダの解体、終わったぞーー!! 次は、どうする?」
「はいはーーい。それじゃ、ノエルとゾーイは焚火の準備……っていうか、焼き場の準備をして」
「焼き場?」
首を傾げるゾーイ。それをノエルは、何も解っていないなという、嘲りにも似た表情で見る。あはは、もうすっかりノエルも私達の仲間なんだなって思った。
「焼き場っていうのは、文字通り焼き物をする場所ってことね。ラプトルのお肉やガルーダのお肉。ルキア達が泉で獲ってきてくれた貝も、焼き物にするからその作業をできる場所を作って。焚火って言ってもいいんだけれど、あえて焼き場と言った理由は理解してもらえているかしら?」
「解りません」
ゾーイは素っ気なくそう言って、また首を傾けてみせた。それを横目で見ていたルシエルとノエルは、ゾーイの事を「マジかよー、こんな事も解らないのかよー」っと言って明らかに見下した。ゾーイがそんな2人に対して、イラっとしているのが解って思わず吹き出してしまった。
笑っている私の代わりに、ルシエルが私の言おうとしていた事の続きをゾーイに話した。
「まったくゾーイはアレだなー」
「アレってなんだ? もしかして、この私を馬鹿にしているのか? まさか、アレって言った所に、馬鹿って単語が入る訳ではないよな」
「怒んなよ、そんなカッカしなさんなってー。鉄球も取り出さなーい、必要ないからな、今はそれ! それより、アテナが言いたい事。このオレ様が、代わりに説明をしてしんぜよう」
「別にいらん」
「まあ、聞けって。つまりアテナが言いたいのは、皆で肉を焼いて楽しく食べようって事だ。その場合、通常の焚火のような円形より、長方形みたいな形が好ましいだろう? 長方形の形に石を積んで、その下に薪などの燃料を入れて火をつける。そしてその積んだ石を利用して、そこに網を水平に置いて肉やらを焼く場所を作るんだ。どうだ、ワイルドだろ?」
ルシエルの言葉を聞いて、頷くノエル。でもゾーイは、やはり首を傾げて――
「それ、人に説明するなら、バーベキューするから……っでいいんじゃないのか? やりたい事が解れば、それに合わせて準備ができる」
「こらーー!! そんな簡単な言葉で片付けちゃいけねーんだよ!! もっと楽しめよ!! もっとこうキャンプも料理も食事も楽しむんだよおおおお!!」
「や、やめろ!! なんだ、貴様は!!」
ルシエルはそう叫びながら両腕を振り上げると、ゾーイの肩をポカポカと叩き続けた。鬱陶しくなってゾーイが逃げ出すと、その後をしつこく追いかけるルシエル。キャンプを何周もクルクルと走って駆けて、追いかけっこする2人。私は、そんな2人に大声をあげて止める。
「ほーーら、もういいから!! お腹減ったから、どんどん準備していっちゃおーー!!」
『おおーーー!!』
拳を作って振り上げる皆。ルシエル、ノエル、ルキアにクロエ。そしてノリ悪くプイっと横を向くゾーイ。だけど彼女は、腕を振り上げないまでも、こっそりと拳を作っていたのを私は見逃さなかった。
皆でワイワイ、キャンプして料理して――自分ではまだ気づいてなくても、彼女も多少なりとは楽しんでくれていたんだなって思って、また嬉しくなってしまった。




