第1153話 『皆で一緒にやるよ』
夕暮れ時。結局、お昼ご飯には間に合わなかったけれど、夕食として思えばベストな時間。
ルシエル、ノエル、ゾーイは大きな獲物を狩って無事に揃ってキャンプに戻ってきてくれた。そして戻ってくるなり、私はルシエルに駆け寄って行き、それなりに心配していた事を伝える。
「良かった、無事に戻って来た! ちょっと遅いから、皆心配していたんだよ」
「そりゃ、すまんこってす。でもしっかりと、肉は調達してきたぞ! って、ルキアもそうだが、アテナはなんで水着なんだ? しかもミューリやファムと、地底湖で泳いだ時の奴だ」
「えへへ、いいでしょ。流石に炎天下の荒野で、なんとか暑さに負けないようにって考えたらこれしかないなって思って」
「あーーん、それなら例の洞穴の泉に水浴びに行けばいいし」
「全員で行けないでしょ。そうしたら、誰がキャンプと旗を見張っているの。だから泉には、ルキア達に先に行ってもらって、私は残って留守番していたの。だからご飯食べたら、私も後で行こうかと思って」
「ふーーん。いいねそれ」
「いいでしょ」
「そんならオレも行こうっと!」
「うん、一緒に行って汗を流そうよ!」
「って、いうかアテナ……」
「うん?」
「毛が出ているよ」
!!!!
「あっはっはっは!! 冗談冗談!! 冗談だよーーん!! っていうか、傑作!! 流石はアテナだよな。毛が出てるって言って、まず最初に見るのが自分の股だもんな!! こんなおもしれー王女様、世界広しと言えど、他にいるかっていうんだよなーーー!! うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
ポカッ!
「あいて! 何するんだよ、アテナ!」
「もう、知らない!」
なんていう最低最悪のセリフ。
まんまと引っかかっちゃった私も悪いけれど、まったくもうルシエルは!! とんでもないエルフ少女だよ、っとにもう!!
お下品な彼女に対して、次から次へと怒りは溢れだして収まらないけれど、まあそれはそれとして、ルシエル達が調達してくれたお肉は凄い量だった。
ラプトルのお肉に、なんとガルーダのお肉。どちらも食べた事がないけれど、ラプトルの方に関してはもうちゃんと食べられるかどうかは、検証済み。
早速私は、ルシエルに対する怒りでプリプリしながらも夕食作りの為、辺りに指示を飛ばした。
「それじゃ、ルシエルとノエルはそっちでガルーダの羽をむしって下処理をしてね。あと内臓は、こっちの鍋に分けておくこと」
ルシエルが怪訝な顔をする。
「おい、大丈夫かー」
「大丈夫、大丈夫。ラプトルは解体して、お肉の部分だけ持って帰ってきてくれたんだろうけど、それで正解かな。この暑さだし、内臓の処理をしていなければ、きっと今頃腐っちゃっているだろうから。だけどガルーダは、狩ってそのままの状態だけど、鮮度的にきっとまだ大丈夫だと思う」
「なんでーー?」
「ラプトルもそうだと言えばそうかもだけど、ガルーダは魔物だからね。豚や牛とかっていう一般的な動物とは、腐り方も一味違うって言っておこうかしら。兎に角、こういう荒野や砂漠なんかで生息している魔物は、ちょっとしたそういう腐敗耐性のような力を宿していたりするの。だからと言って大丈夫かどうかは、食べてみるまで解らないけれどね」
「結局、そうなんじゃん」
「いいのいいの。人生は、冒険と経験でしょ。料理だってそうなの」
「ふえーーーん」
「なに、それ。気の抜けた返事ね。まあいいわ。兎にも角にも、さっさと作業に取り掛かりましょう。じゃないと、夕食がどんどん遅くなるわよ」
「そりゃ、いかん! ういっす! ってガルーダの解体作業とかこれからすんなら、オレも水着に着替えようかなっと。服に血がついたら、あとでめんどくさいからな」
ルシエルは、そう言って自分のザックを漁って水着を取り出すと、この場で着替え始めた。慌ててルキアと共に止める。
「こら、こんな所で着替えない!!」
「わ、わーー!! 何をしているんですか、ルシエルはーー!!」
「ほえ? 別にいいだろ。どうせここには、女しかいないんじゃん。もしもカッチョええ男子が居れば、そりゃレディーとして、恥じらいの1つでもお見せ致しやすがねー」
「あのね、レディーがお見せ致しやすがねーっとか、そういう事を言わないから」
「そうですよ、ルシエル。それに忘れましたか? 私達はあの大きなテントウムシに、常に見られていて、王宮にここの映像を中継されているんですよ」
「ほえ? あああああ!! そうだった! そうだったな!! やっべー、マジやべーー。もうちょいで、オレの自慢の身体を王宮にいるオッサン共にただで見せてしまう所だったわ!! あっぶねーー!! 金も取らんのに、冗談じゃねーぜ! ったくよー」
きょろきょろと空を見回して、テントウムシを探すルシエル。そしてすぐさま、自分のテントに飛び入んでいくとゴソゴソと水着に着替えだした。
まったくもう、ルシエルは……思わずルキアと同じ困ったポーズで、全く同じ事を思っていると、ルシエルの準備が完了するまで待っていたノエルと目が合った。
「ノエル?」
「確かに水着……いいな」
「うん、王宮で見られているって考えるとちょっと落ち着かないかもだけど、服を着ている時よりは、暑さをマシには感じるかな」
「ふーーん、いいな。あたしも持っていたら着替えてもいいんだがな、生憎と持ってはいないからな」
「うーーん、でも荒野や砂漠は昼間は灼熱だけど、夜は打って変わって冷えるから。これからどんどん暗くなるし、水着じゃ寒くなってくると思うよ」
「そうだな」
そう言って寂しそうな顔をするノエル。
うーーん、待てよ。そう言えば……
「ノエル、ちょっとこっち来て」
「なんだ?」
私のテントに連れて入る。そして自分の荷物をゴソゴソと漁り、予備の下着を取り出した。
「なんだ、それは? もしかして……」
「残念だけど、これは予備の私の下着。だけど、この下着なんだけど作りもしっかりとしているし、水着に見えないかなって」
「た、確かに見える。水着と言えば、そう見えるな」
「でしょ。これをノエルに貸してあげるから、これを着ればいいよ」
「そうか、貸してくれるのか。いや、でもこれを着て解体なんてやったら、汚れ……って、おいおいおい!」
私はノエルの言葉も聞かずに、彼女の服に手をかけて脱がし始めた。そしてその水着に見える下着を着せる。
「ほら、可愛い!! どう見ても可愛い水着!! ね、いいでしょ」
「あ、ああ。確かにいいな。本当にいいのか、これを借りても? きっと汚すぞ」
「いいのいいの。どうぞ」
ノエルも気に入ってくれたみたい。そう言ってノエルから手を離すと、彼女の胸を覆っていたブラがするんと下に落ちた。
「あっ」
「あっ」
ありゃりゃ。ノエルは、私よりも年上だけど、まるで少女のような体型だから……
明らかに肩を落としている彼女に対し、今どうやって慰めればいいんだろうという事に、私の脳はフル回転していた。




