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第1151話 『手懐けられるかな その2』



 キャンプには、今私しかいない。だからこそ、居眠りをしてしまっては駄目。駄目だと解ってはいても、眠いものは眠い。


 そんな事を思いながら、私は眠気と壮絶な死闘を繰り返して、うつらうつら……敷いたシートの上でだらしなく転がっていた。



「きゃっ! あはは、ちょっとくすぐったい!」


 ギャウー!



 スナネコに干し肉をプレゼントした。スナネコがそれを食べ終える頃には、あれだけ警戒していた私とスナネコの距離は、驚く程縮まっていた。


 ちょっとすり寄って来たかと思うと、それを皮切りにエスカレート。暑いから寝転がって休もうとすると、スナネコは私に身体を摺り寄せてくる。そして今は、大胆にも胸に抱き着いてくるか股の間に潜り込んでくる。


 スナネコの見た目は物凄く可愛くて、抱き着かれたり、すり寄られるのはとても光栄なんだけど……胸に抱き着かれればこの暑さで余計に暑くなるし、股の間に潜り込まれるとくすぐったいし変な声をあげてしまい困ってしまう。だけどとても愛くるしく、無邪気に甘えてくる可愛らしいスナネコを、追い払うなんてことは私にはとてもできなかった。



 ガウガウ!


「こ、こら、もう! そこは駄目って言っているでしょー! 本当に君はーー!!」



 起き上がと、戯れてくるスナネコの両脇に手を入れて、持ち上げた。



 ギャウ!


「やけに胸とかお股に入り込んでくると思ったら、やっぱり君は男の子だったか」


 グウ……



 言葉が通じているかは怪しいけれど、なんとなくシュンとしているようにも見えた私は、この子を抱きしめて頭を優しく撫でた。するとスナネコは、ペロペロと私の顔を舐めた。まったく、この子はーー。


 まるで愛しい我が子のように、その可愛い頭に頬ずりをする。頬ずり頬ずり、そしてまた抱きしめて転がる。



「えへへ、可愛いなー、君は。君が男の子って事は解ったけれど、果たして大人か子供なのか。スナネコに関しては、全く知識がないから解らないし、他にもいれば比較対象になるんだろうけど……辺りには君しかいないしね。どっちなんだろうね」


 ギャウ。


「っもう、ギャウって何よ、ギャウって! ちゃんと答えないなら、もう干し肉あげないよー。うりゃうりゃうりゃーー」



 抱きしめているスナネコに再び頬ずり。


 あっつい……とても暑い。とても暑い灼熱の荒野で、あえてフッカフカのヌイグルミでも抱いているかのような感じ。スナネコの鼻にキスをして、もう一度顔をこすり合わせた所で、何かを感じて振り返る。するとそこには、棒立ちになってこちらを見ているカルビの姿があった。



「はっ!! カルビ!!」


 …………



 目が合う、私とカルビ。そして、カルビの目線はスナネコに移る。



「違うの……違うのよ、カルビ!! これは違うの!!」


 クーーーン、クーーーーン。



 消えそうなかすれ声で、何かを訴えているカルビ。


 私はそそくさと、抱きしめていたスナネコを目の前のシートの上に置くと、カルビの方を向いて両手を広げて微笑んだ。



「カルビ、おいで。大丈夫だから」



 一歩下がるカルビ。やっぱり、かすれたような声で、クーーンと鳴く。



「ちょっと待ってカルビ! 違うの!! これは、違うのよ!! 私にはカルビしかいないんだからーー!! ま、待ってーー!!」


 ワウウーーーー!!


「いや!! 待って、カルビーー!!」



 この場から立ち去るカルビの後を追う。カルビの名を何度も叫んで追う。でも人の足では、ウルフに追いつける訳もなく、どんどんカルビは離れて行く。それでもカルビを追いかける私。



「待ってって!! カルビ、待って!! これは違うのーー!! このスナネコは、ちょっとさっきまた出会ったから、ちょっと仲良くしようと思っただけで……!!」


 ワウウウーーーー!!


「待ってったら、カルビーー!! ああん!!」


 ドサッ!!



 だからと言って何処に行く訳でもなく、キャンプの周囲をグルグルと走り回るカルビ。その後を追って走って、躓いて派手に転ぶ私。身に着けているものが水着だけなので、思ったよりも痛い。


 うう……カルビ。違うのよ。別にこれはカルビを裏切ったとかそういうのじゃなくて……あの臆病で警戒心の強いスナネコが、こんなにも懐いてくれたから……こんなチャンスなかなかないから……カルビ……


 地面に突っ伏した状態から、顔をあげると目の前にはルキアがいて私の顔を、不思議そうに覗き込んでいた。



「あれ? ルキア」


「アテナ! どうしたんですか? 水着を着ていますし、走り回ったりして?」


「え? いや、あははは。ほら、ちょっと暑いでしょ。だから少しでも涼しくなればいいなーって」


「なるほど、それで水着に着替えたんですね。そう言えばミューリとファムと地底湖で泳いだ時の水着、私も持っていました。あれを持って泉に行けば良かったです」


「え? でも随分と洞穴の泉に行っていたよね。あっ、もしかして裸で泳いだとか?」


「え? あ、はい! でもクロエも王妃様も、それにカルビも泳いだんですよ」



 え⁉ まあ、カルビはもとから裸だから何も突っ込み要素はないけれど、エスメラルダ王妃も裸になってルキアやクロエと泉で泳いだって事!? 本当の事だとすれば、私の知っているエスメラルダ王妃とは、イメージが随分とかけ離れているんだけど。



「何をやっているのですか、あなたは。一国の王女ともあろうものが、このような荒野のど真ん中で、そんな破廉恥な水着姿になって!」



 声の方に目を向けると、エスメラルダ王妃とクロエが立っていた。もう、皆戻ってきてくれたんだ。



「破廉恥!! あのね、破廉恥ってこの水着の何処がそうなのよ、とっても可愛いでしょ!!」


「肌の露出が多すぎます! あなたは、王女なのですよ!」


「これはビキニなんだから仕方がないでしょ! それにこういうのは、今の流行りだし何もおかしくはないの!」


「へえ、そうなの。こんな荒野の真ん中で水着になって走り回っている王女……これがおかしくないのですか?」



 キーー!! ムキキーー!! またああ言えばこう言う!!



「もう、こんなに暑いんだから仕方がないでしょ!! だから、いいの!」



 そう言ってスナネコが転がっているシートの上にダイブした。私を見ていたルキアの視線が、私からスナネコに変わり、ルキアは「スナネコがいます!!」と大きな声をあげた。これには、クロエも驚く。


 私は2人の方へ向き直る。スナネコを膝の上に乗せた後、ルキアとクロエにこっちにおいでと手招きした。



「フッフッフ、じゃーーん。ルキアと泉を見つける途中に出くわしたスナネコ君です。ご紹介しますので、お二人ともこちらへどうぞー」


「ええーー、アテナ凄いです!! ね、クロエ」


「え? ええ、スナネコって見た事がないからどんなだか解らないけれど、凄い……っていうのは、解るわ」



 ルキアとクロエ。2人が私とスナネコのいる方へ来ると、エスメラルダ王妃は不機嫌な顔をして自分のテントへ入っていった。


 泉で泳いでいたっていうのは驚きだけど、それが本当なら少し疲れたのかもしれない。

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