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第115話 『再び出立 その1』





 

 ――――ガンロック王国のだだっ広い荒野、そのど真ん中での起床。


 荒野を容赦なく照り付ける太陽が、テントの中を蒸し風呂のような環境にする。あ……暑い……


 朝、起きてテントの中で、汗に塗れた身体をタオルで丁寧に拭く。そして外へ抜け出す。大勢の人の声。


 辺りを見渡すとフェスに参加していた人達が、大行列になって王都へ向かって移動している光景が目に入った。大音楽祭も終わりを迎え、皆もとの生活に戻っていくのだろうと思うと少し寂しさを感じる。



「次はいつまた、フェスに参加できるかな」



 ――呟いた。


 フリルのついたミニスカートに、可愛いベストにリボン。あんな大勢の前で、スカートをひらめかせ、顔を赤くさせながらも歌って踊った数日前の出来事が、もう遥か昔のように思える。



 ぐーーーーっ



 思いに浸っていたら、お腹の音が鳴った。ルシエルとルキア、カルビも起きて来た。ルシエルは、起きて早々に私の顔を見るなり、「朝ご飯だな」って言った。もしかして、さっきの私のお腹の音を聞かれたのかもしれないって思ったけれど、ルシエルの表情からは読み取れない。……いや、ちょっと口元が笑っている。


 むう! でも、もういいや。いつもの事だし、ルシエルの方が食いしん坊なのは、誰に聞いても明白なので気にしないようにした。気にしたらまたきっと、面白がるに違いない。私は澄ました顔で言った。



「じゃあ、朝ご飯にしましょうか」



 すると、ルシエルはおもむろに晴れ渡る青空を見上げて、斜に構えるようにポーズを作るとカッコを付けた感じで呟いた。



「…………次はいつまた、フェスに参加できるかな。フッ。………………。ぐーーーーーっ」



 !!!!



 私は、フっ……って鼻で笑ってなんかないのに、より効果的に挑発する為に アレンジしているのが腹が立つ!! しかも、やはりお腹の音も聞かれていたか!! 本来なら、ルシエルの方が食いしん坊のイメージなのに!! もうっ! この食いしん坊エルフめ!!


 みるみると自分の顔が、火照ってきているのが解った。



「ワーーッハッハッハッハ!! やめろって! アテナは、オレを笑い死にさせる気か!! はっはっはっは!!」


 

 文字通り、地面にのたうち回り、笑い転げる金髪のエルフ。



「ル……ルルル、ルシエルーー!!」


「ハッハッハッハ!! アテナってあれだよな! たまにすんげー、面白い事するよな! ッハッハッハッハ!」


「ムキーーーー!! 面白くともなんともないわよー!! またそんなの、マネしてからにーー!!

ちょっと待ちなさい!!」


 

 ルキアとカルビが、まだ起きたてで、寝ぼけた顔をして目を擦っている。その横で、私はルシエルを追いかけ回し捕まえて背負い投げた。



「ぎゃっ!!」


「フフフ、これで悪さをするエルフも、少しは懲りたでしょう」



 私の気も済んで、ようやく落ち着きを取り戻して来たので食事をする事にした。



「あそこで何か売ってるみたいだから、ちょっと行って買って来るね」


「私も行きますよ」


「いいから、いいから。直ぐ帰ってくるし、ルキアはルシエルとテントを畳んだり出発の準備を整えておいて」


「はい、解りました」



 食べ物を買ってくると、ルシエル、ルキア、カルビと皆揃って朝食を食べた。フェスは終わりを迎えたけれど、一部まだ露店が機能していたので、そこでハンバーガーとポテトを購入したのだ。



「私達がいない間に、そんな事があったんですね!」


「そうなの。私も最初、変な騎士だなー、変だなー変だなー、怖いなー怖いなーって思ってたら……」


「アハハハハ! アテナ!! それジュンジーさんだから、それジュンジーさんだから!!」



 腹を抱えて笑い転げるルシエル。フフフ……


 私は、更に昨日の騎士の事を話し始めた。



「それでずーーっと何か思い出せないか頭を巡らせていたら、急にふっと言ったその騎士の言葉で、正体が解っちゃったの」


「え? 誰なんだ?」


「誰なんです?」



 ルシエルとルキアが、仲良く同時に身を乗り出す。



「フフフ。実はその変な騎士がまさか、この国の王様、ベスタッド・ガンロックだったの。ミシェルやエレファの事を娘って言ってたし、間違いないと思うわ。その話しぶりから、お父様の事も知っているみたいだったし」


「本当かー⁉ 王様ってそれは、凄いなあ!! まあアテナの国とこの国は、隣国だもんな。王様同士、アテナの父親と顔見知りって事も、そりゃあるだろうな」


「それはそうなんだけどね」



 私は再び、ベスタッド王が言っていたヴァレスティナ公国とドルガンド帝国が繋がっているという話を思い出した。ルシエルとルキアにも、その話はした。


 カッサスの街から追撃をしてきた鎖鉄球騎士団の事や、その騎士団を動かしているのが、私の義母であるエスメラルダ王妃だという事。そのエスメラスダ王妃が、以前はヴァレスティナ公国のエゾンド公爵の娘だったという事。


 ミシェルとエレファを攫おうとした、ちょび髭のポールという男と、貴族令嬢のようなシャルロッテという女の子も、きっとヴァレスティナ公国の者だ。何か裏で大きな事が起きようとしているのかもしれない。だから、今なにが起きているかという事は、ルシエルやルキアとちゃんと情報共有しておかなければと思った。


 朝食を食べ終わり、荷物を纏めて旅の準備をする。いよいよまた私達は、次なる目的地へ向かって旅立つのだ。いつも思うけど、この新たなる冒険に身を投じる瞬間っていうのは、何物にも代えがたいものがあっていい。



「アテナ。ミシェルからリンドなんとかって人の本を入手したんだろ? 次なる目的地はどこなんだ?」


「そうだね! それを発表しないとだね! さて、次の私達の目的地は――――」



 言葉を続けようとした刹那、1台の馬車がそばまで来て停車した。引いているのは馬ではなく、2羽の可愛いクルックピー。乗っているのは、なんとこの国の、二人の王女様だった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ハンバーガーとポテト 種別:食べ物

最強のコンビ。何かしながらでも食事ができる。お肉も馬鈴薯も厳選したものを使用。ああ、食べたくなってきた!!

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