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第1149話 『ひとりで、ごろりん』(▼アテナpart)



 ルシエル達は食糧調達に出て、ルキア達は水場のある洞穴へ水浴びに行った。キャンプには、私一人が残っている。



「ふうー、暑いなー。荒野とか砂漠って、なんでこう暑いのかしら。汗も止まらないしー」



 テントの近くに数本の枯木。独り言……というか愚痴りながら、そこにタープを張ると、その下に入って座り込んだ。太陽から降り注ぐ光。じっとしていても、汗が噴き出してくる。止まらない。



「えーっと、私のザックは何処だったかなー」



 テントの傍に置いてあった。折角座り込んだけど、また立ち上がりザックの近くまで歩く。そしてザックを手に取ると、中を漁ってタオルを取り出した。汗まみれになった顔や首、身体を拭く。



「はあー、もうビショビショだよ。私もルキア達と一緒に、水浴びに行きたかったなー。ちょっと後悔」



 エスメラルダ王妃……は、兎も角あの冷たくて快適そうな洞穴の泉で、ルキアとクロエとカルビがキャッキャしながら楽しそうに泳いでいる姿を思い浮かべる。



「うーーん、そうよね。よし、ルシエル達が戻ってきたら、入れ替わりで私も水浴びに行こっと!」



 ザックをまたテントの横に置き、タオルを首にかけると、私達のキャンプの周囲をぐるっと一周歩いた。異常がないかどうか調べる。


 幸い大きな岩山とかそういうのは、いたるところにゴロゴロとあるけれど、ここは荒野だから遠くまでの見通しはとても良い。


 本格的なモラッタさん達との勝負は、明後日からだろうけど、それまでこの荒野には危険な魔物も多いから、それなりに警戒をしておかなくちゃいけない。だけど拓けている分、何か危険が近づいてきても森などよりは察知しやすい。


 遠くの方で、ブラックバイソンのような生き物を数頭確認した。距離もかなりあるし、こちらには何の興味もなさそう。



「よし、あっちもこっちも異常なしね。って、うう……やっぱり暑い。ちょっとでも涼しい所へ避難しないとね。それじゃ、まだテントの方へ戻ろうかな」



 この暑さ。容赦なく照り付ける太陽、留まる事のない気温の上昇は、以前旅したガンロック王国の砂漠のような過酷な環境を思い出してしまった。あの時、ナジームと偶然出会わなければ、苛酷なガンロックの環境に屈してしまっていたかもしれない。そうしたら最悪、皆あそこで全滅していたかも。


 でも私達はあの時、偶然にでもナジームに助けられて多くの事を学んだ。生まれ育った緑の多い、クランベルト王国にはなかった環境。厳しさ。


 あれからの私は、旅する時には必ずその場所の気候や環境などを見て考えて、行動しようと思う事にしている。それがちゃんとできているかどうかは、ちょっとまだ解らないしできていないよりかもしれないけれど、それでもそういう事を意識しているか、していないかで大きく違うと私は思うから。



「だあーー、それにしても暑い! 寒さはまあ焚火したり、厚着をすればなんとかなるかもだけど、暑いのはどうする事もできないわね。これは、何か考えないと耐えられないよ」



 また自分のザックに手をかけた。何かいいものは、ないか。あった! 今度は、中からシートを取り出した。それを屋根代わりに張ってあるタープの真下に敷く。そして風が吹いても飛ばされないように、適当な石を拾ってきて四隅に設置した。



「辺りには、誰もいないみたいだけれど……でも流石に表で着替えるのは、ちょっとアレかな。一応これでも、年頃の女の子だしね」



 テントに入って、いそいそと水着に着替える。ミューリとファムに出会い、ノクタームエルドを一緒に旅した時に、地底湖で泳いだ時に来た水着。さっきまで来ていた服や下着は、もう汗でビショビショなので後で洞穴の泉に行って洗おうと思った。


 とりあえず、脱いだ服は向こうによけておこう。



「はあーー、ここがもしも川とか湖とか水場の近くなら、もっと涼しく感じるかもしれないけれど……でも水着になるだけでも、ちょっとマシになったかも」



 洞穴の泉から汲んできた水をマグカップに入れると、それと愛読書をもってタープの真下に敷いたシートの上に寝転がった。うつ伏せ。首にかけていたタオルを丁度、地面と両肘の間に入れる。マグカップに入った水をひと口飲むと、本を読み始めた。



「はあーー。考えてみれば暫く、こうやってゆったりと寝そべって読書するなんてなかったから、最高のひとときかもしれない」


 ブウウウウウウン……



 ちょっと暑かったけれど、水着になって寝転んで大好きな読書をしていると、段々と幸せな気持ちになって来た。近くに水辺があると言うことないんだけれど、これでも随分と居心地良くなった。


 やっとこさそう思えてきた所で、何か耳障りがするというか……虫の羽音のようなものが聞こえてきた。うつ伏せから仰向けになって、空を見上げると数匹の大きなテントウ虫。



「あっ!!」



 そうだった!! すっかり忘れてしまっていたけど、そう言えばこれってモラッタさん達とのキャンプ勝負で、この今の私達のキャンプの状況ってリアルタイムで、王宮の人達にモニタリングされていたんだっけ!?


 たまにこういう、しっかりしておかないといけない事を、うっかりと忘れてしまっている時がある。危ない危ない。今、私のこの姿はパスキア王宮にいる沢山の人達が見ているんだった。


 そう考えると、その事をすっかりと忘れてしまっていたのに、よくもまあちゃんとテントの中で着替えたものだと思った。まさに、セーフ。表で水着に着替えていたら、大変な事になっていたよ。事なきを得る。


 再びゴロンと寝返ってうつ伏せになると、何事もなかったように私は本を読み始めた。このだらしないというか、そういう姿をフィリップ王やパスキアの大臣や将軍達が見ている。でもそんなの、長期戦でいちいち気にしていられないし、気にしていても気が持たないからね。そもそもこれはキャンプなんだから、私が普段キャンプしているようにやらせてもらう。


 そうはいったものの、やっぱりこの水着姿の状態で転がって本を読んでいる姿はとても王宮なんかにお届けしていいものなのだろうかと迷った。うーーん。


 うん、あはは、でもいいよね。私が見せたいって訳でもないし、向こうが勝手に見たいってテントウ虫を飛ばしてきているんだから。関係無いよね。うん、私は気にしなーーい。

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