第1148話 『VSガルーダ その2』
荒野を走っている。あの大空から落下した先の崖。そこからどんどん遠ざかるようにして、荒野を爆走していた。だけどあたしらを襲った怪鳥ガルーダは、諦める事無くずっと追跡してくる。
グエエエエエ!!
「はあ、はあ、はあ! な、なんだ、あいつ!! ぜんぜん諦める気配がないな、はあ、はあ」
「はあ、はあ、その背負っているラプトルの肉が詰まった麻袋をくれてやれば、追ってこないんじゃないか」
「冗談じゃない。これはあたしらが仕留めて、荒野のど真ん中の炎天下の中で、汗水垂らして解体作業までして手に入れた肉だぞ。はあ、はあ。ただでやるなんて、絶対嫌だね」
「はあ、はあ。そうか、なら何処まで走って逃げる? ノエル、お前は走るのは苦手だろ?」
「それはあたしの足が短いって言っているのか? それともドワーフという種族に対して言っているのか?」
「お前が少女のように小さい身体をしている事は事実ではないか。だったらそれに比例した足の長さにもなるだろう。事実を言ったまでで他意はない」
「はあ、はあ……」
時折、ガルーダが矢のほうに放ってくる数本の羽。それを回避しながらも、ゾーイと並んで走って逃げる。逃げながらもこんな会話を続けている事自体、あたしもゾーイもまだまだ余裕があるという事だろう。
「ノエル!! この先が崖になっているぞ!!」
「それほど大きな崖じゃない!! 飛び越えるぞ!!」
「飛び越える? ジャンプするのか!!」
「そうだ! いくぞ!!」
グエエエエエ!!
また羽を飛ばしてくるガルーダ。加速して攻撃を避けると、そのまま崖に向かって全速力で走って跳んだ。
「ぐっ!」
跳ぶ瞬間に、背中に痛みが走る。ガルーダの飛ばした羽が一本突き立っていた。致命傷のような傷ではないが、その痛みで思うようなジャンプができずに、そのまま跳躍してしまった。結果向こうの崖までは届かずに、落下する。
「うわあああ!! ちくしょーーー!!」
「ノエルーーー!! 掴まれーーー!!」
ジャンプに成功したゾーイは、失敗して落下するあたしに向かって鎖鉄球を投げた。鉄球が顔の近くをかすめる。あぶねえええ!!
左手は肉の詰まった麻袋を掴んでいるので、もう片方の手で背負っているバトルアックスを握ると、思い切り振りかぶって崖壁に斬り下ろした。そうして崖壁に刺さったバトルアックスに掴まり、落下を免れる。逆の手で握る麻袋を崖上に向かって思い切り放り上げると、それをゾーイがキャッチした。
よし、これで手がフリーになった。
「ノエル、早く上にあがってこい!! ガルーダがまた狙っているぞ!!」
「な、なんだと⁉」
振り返ると確かにガルーダが、あたし目がけて向かってきている。このまたしても崖にぶら下がった状態で、あいつとやり合うのは条件が悪すぎる。さっさと這いあがって、せめて平地で勝負するべきだ。
「ぬおおおお!!」
左手でゾーイが垂らしてくれた鎖を握ると、崖壁に突き刺したバトルアックスをズボリと引き抜いた。飛んでくる羽。
「ノエル!!」
「うわああああ!! ちょ、このガルーダめ!! なんて卑怯な奴だ!!」
ダダダダダダ!!
何本もの羽が崖壁に突き立つ。当たりそうな羽は、バトルアックスで弾いたけれど、全部はかわし切れない。あたしは、動体視力がいい方じゃないし、スピードよりもパワーで勝負するタイプだ。何本かが命中し、太腿の他に腕、そしてなんと尻にまで命中してしまった。
「いてえええ!! こ、こいつ、あたしの尻にまでーー!!」
「そこでガルーダに狙われたまま、悠長に身体に突き立った羽を抜いている暇はないぞ。我慢して、そのまま上に登ってこい!!」
「言われなくても解っている!! そっちもしっかりと、鎖を持って離さないでくれよ!!」
痛みを我慢して、崖を這いあがった。ガルーダは、そうはさせまいと直接爪で襲って来ようとしたが、その頃にはさっさと上まで這いあがっていた。
「おーー、いてーー!!」
「治療は後だ。向こうに、大きな岩がいくつか見えるだろ。あそこまで行けば、こちらが有利になる」
「解った、急ぐぞ……ってあいたーー!!」
言って走ろうとした刹那、ゾーイはあたしの身体に突き立つ羽5本全てを掴んで抜いて捨てた。もちろん突き立っていても痛いが、抜くときの痛みもある。
恨めしい顔でちらりとゾーイの顔を見てやったが、何も気にしていない。ふう……痛みがあったとはいえ、羽を抜いてくれている訳だし、感謝こそすれ……そりゃそうだよな。
グエエエエエエ!!
ガルーダは、あたしらの真上に羽ばたき移動すると大きく首を一回転させる。それこそが、奴が奥の手を放つ合図の動作だった。そこからカパッと嘴を拓くと、あたしらに向かって火炎放射してきた。
ブオオオオオオオ!!
「うわああああ、あち、あち、あちーーー!!」
「走れ、ノエル!! あの岩の陰に身を隠すぞ!!」
「ああ、解った!!」
気が付くと、ラプトルの肉の詰まった袋は、ゾーイが背負っていた。2人並んで走る先。そこにはいくつかの大きな岩がある。逃げ込むなら、ここだ。火炎放射されても岩の背後に回り込めば、身を守る事ができる。
ガルーダに追われながらもその場所に到着。するといくつかある大きな岩のうちの1つ。その上に誰かの姿が見えた。あれは!!
「ルシエル!!」
「ほっほーーい、やっと追いついたぜ。おめーら、いったい何処まで連れ去られちゃってんだよー。マジないわーー。あと、ここまで来んの、メチャ大変だったわー。まあでも、オレが来たからには、もう心配いらんぞえ。大船に乗ったつもりで任せんしゃい」
ルシエルの方へと駆けながらも、ゾーイが突っ込む。
「大船? 泥船じゃないのか? お前にあれがやれるのか?」
「へっへーん。愚門だね。オレのクラスを知ってっか? 一応これでも【アーチャー】だぜ。それを頭で理解した上で、もう一度考えてみよう。今、ノエルとゾーイを血眼に追っているガルーダのような鳥系の魔物。そいつらの一番の天敵ってなんだろーな?」
なるほど、【アーチャー】か。確かにここは、ルシエルの出番って訳か。このままあたしがこいつを始末してやってもいいが、そういう事なら仕方がない。獲物をルシエルに譲ってやろう。
ゾーイと顔を見合わせると、一緒にルシエルのいる大きな岩の前まで駆けて行き、左右に別れた。手前まで追ってきていたガルーダは、あたしとゾーイ、どちらを追えばいいのか一瞬当惑する。
その瞬間を狙ってルシエルの目がキラリと光った。ルシエルは、ガルーダに狙いをつけると、思い切り矢を絞って放った。




