第1147話 『VSガルーダ その1』(▼ノエルpart)
結構な高い場所を飛んで、移動をしているなと思った。
だがこのガルーダは、このヘーデル荒野に生息している魔物だ。何処かへ連れて行かれるとしても、ヘーデル荒野の何処かだろうし、この荒野は一般的な荒野と呼ばれる場所に比べては規模も小さめだという。
行先はまだ解らないが、何処かに降り立てばすぐさまこのガルーダをやっつけて、ルシエルのもとへ戻ればいいと思った。
グエエエ、グエエエ。
「なんだ、おい。どうした」
あたしと肉の詰まった麻袋を掴んでいるガルーダは、飛行しながらも大きく身体をゆすった。鎖。あたしを掴んでいる足に巻き付いた鎖――その真下に視線を向けると、ゾーイがその吊り下がった鎖の先を握って、ぶら下がりついて来ていた。
ガルーダは、ゾーイを振り落とそうとしていると思った。だけど餌にするつもりのあたしと、ラプトルの肉の落下を恐れて、今以上には身体を振れないでいる。あたしは、足元の遥か真下にいるゾーイに向けて叫んだ。
「大丈夫かーー、ゾーーイ!!」
あたしの方を見上げるゾーイ。表情は、まだ余裕そうには見える。
グエエーーグエエーー!!
それにしても、このままあたしらは何処に連れていかれるのだろうか。って、だいたいの予想はつくけども。恐らくあたしらは、このままこいつの巣に連れて行かれて、餌にされる。そうでなければ、あの場で殺すつもりだっただろうしな。わざわざ連れ去る意味がない。
「そうと決まれば、このまま大人しくしているのも癪になってくるな」
拳を作ると、あたしの身体をがっしりと掴んでいるガルーダの足をゴツゴツと殴った。
グエエ!! グエエエ!!
急に揺れるガルーダ。ははは、どうやらゲンコツが効いたみたいだな。あたしは、ガルーダの足を、更にしつこく殴った。ガルーダは、こりゃたまらないとあたしを大人しくさせる為に、飛行し続けている身体を大きく左右へ振った。だが殴り続ける。揺れはもっと大きくなり、ついにガルーダは痛みに耐えられなくなってあたしを離した。
落下する直前にガルーダがもう片方の足で掴んでいる、ラプトルの肉がパンパンに詰められている麻袋へ両手を伸ばしてキャッチ。そこから身体を激しく捻って、麻袋を奪い返して再び落下した。
麻袋を大事に抱きかかえると、地上に目をやる。このまま落下し続ければ、そのうち地上には辿り着く訳だが、この高さから地面に直撃する事になると、いくらタフネスに自信のあるあたしでもどうなるか解らない。あたしを待ち構えている地面は、柔らかそうな土ではなくてひび割れた痩せた大地。
「ノエルーー!!」
ゾーイの声に目を向ける。
「なんだ、ゾーーイ!!」
「私に身を委ねろーー!!」
ふん、そうなのか。何か手があるのか。
このゾーイ・エルという女の事は、あたしはよく知らんが、アテナの国の騎士団でありながら、旅を続けるアテナを道中追い回して攻撃を仕掛けたと聞いた。騎士団というからには、上からの命令で動いているのだろうが、それでも自分の国の王女に攻撃を仕掛けるなんてのは、どういう了見だ。
そんな女を信じてもいいものか、どうか――
ゾーイがあたしに向けて叫んだ直後、一瞬そういう思いが頭の中に浮かんだ。けれど同時に、そんなゾーイの事を穏やかな優しい目で見ていたアテナの顔も思い浮かぶ……
……そういや、あたしも最初はアテナ達の敵だったっけな。
「いいだろう!! 考えがあるなら、やってくれ!!」
そうゾーイに返事をするやいなや、彼女は直ぐにガルーダの足に巻き付けていた鎖鉄球を外して、自分の方へと巻き戻す。この空で、何もぶら下がる方法がなくなったゾーイは、あたしと同じく落下をし始めた。しかもその落ちるスピードを意図的に早くして、こっちへ迫ってくる。同時に鎖鉄球をブンブンと振り回し、振りかぶる。
ガシイイッ!!
ゾーイは、あたしの身体を抱きかかえると、鎖鉄球を何処かへ向けて勢いよく投げ放った。その先には、崖があり1本の枯木。その枯木に鎖鉄球が巻き付くと、あたしとゾーイはあやわという所で崖にぶら下がる形になった。
「ふう、助かった」
「ノエル。その肉の入った袋をもらおうか」
「いや、大丈夫だ。腕力には自信があるんだ。だから片腕でも這いあがれる」
「そうなのか? それじゃ先に上にあがれ」
「わかった」
あたしとゾーイが崖の上に這いあがると、大空を飛び回るガルーダの姿が見えた。上空を旋回している。何処かへ行かない所を見ると、まだあたし達を狙っているのか。
グエエエエエエ!!
あたしらを襲ったガルーダは、ある程度あたしらの頭上の遥か上空を旋回すると、急降下して接近してきた。そして両翼を大きく開いて、羽ばたかせる。
「ノエル!! 私の後ろに来い!!」
「なんだ⁉」
麻袋を背負い、慌ててゾーイの後ろへ回った。ゾーイが鎖鉄球を正面で回転させると、連続して金属音が鳴った。目をやると、地面にはいくつものガルーダのものと思われる羽が複数突き立っていた。
ガルーダは大きく翼を羽ばたかせ、あたしらに向かって何本もの矢のような羽を放ってきたのだ。それをゾーイは、鎖鉄球を回転させてさながら盾のように使用し、飛んでくる羽の全てを弾き返したのだ。
「やるな、ゾーイ。なぜ、羽がくると思った」
「ガルーダは、前にガンロック王国で戦った事があったからな。その時は、こちらには武装した仲間が何十人といて苦戦する事もなかったがな」
「なるほど、既に経験済みという訳か」
「気を抜くのはまだ早い。こいつはまだあきらめる気がないらいし。それにこいつの武器は、鋭い嘴や爪、羽を飛ばすだけじゃない。火炎も吐くぞ」
「そうなのか。でも予めタネを聞いていれば、ビビらないで済む」
グエエエエエエ!!
「来たぞ!! とりあえず、ここで戦うのは不利だ!! 隠れる場所の多い所へ奴を誘導しよう!!」
あたしとゾーイは、ガルーダに追われながらも崖とは反対方向へ走って逃げた。何処までも追いかけてくるガルーダ。
戦うとすれば、こいつが吐くという火炎から身を隠せる岩などが転がっている場所がいいんだけどな。果たして近くにそんな場所があるかどうかだな。




