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第1142話 『バブー』(▼ルシエルpart)



 アテナ達がいるキャンプから、方向的に東へ向かって歩いていた。そう、獲物を探しに。


 このヘーデルとかいう荒野に、どれくらい食糧になる獲物が生息しているのかは解らんけど、アテナは今回の対決を企画したトリスタンのおっさんが、この場所をキャンプ対決にと選ぶくらいだから探せば必ずいるとも言っていた。


 そんな事よりも、思う事がある。正直いうとこれは、もはやキャンプ対決ではなく、サバイバル対決なのでは? そんな言葉が脳裏に浮かんだけど、それを今隣に歩いているノエルや、後ろを歩いているゾーイに言っても仕方のない事だから、ごっくん言うて呑み込んだ。まあ、オレは大人だからな。多少の疑問は、察してやろう。


 額からの汗が顔をつたって、足元に落ちる。それを見て、足を止める。タオルを取り出して顔を拭った。あっはーー、いい香りがするタオルだなーー。ちょっと癒された。



「おっ! なんだ、お前がそんなタオルなんてものを持ち歩いているなんて、ちょっと驚いたな」



 ノエルが本当に驚いたという顔で、オレに言った。オレがタオル持ってちゃ、変なのか? 失礼なやっちゃな。



「なんだとー、どういう意味だそりゃ! オレだって、乙女だぞー。汗拭きタオル位持っとるわーい。そういうノエルは、どうなんだ? 持ってないんじゃないか? あーーん?」


「あたしは、別にいいんだ。汗は滴るものだからな。滴りたいなら、滴らせてやるさ」


「はあ? なんだそりゃ。なんか、かっこよく言おうとしているけど、おかしいぞそれ。それになんかそのセリフ、舌を噛みそうなセリフだな」


「兎に角あたしは、いいんだよ。別に気にしていないから」


「ふーーん、お前も一応女の子なんだから、その点ちゃんと気にした方がいいぞ。もしノエルが、きゃーーっかっこいいーいうて思う人と、今ここで出会っちゃったりなんかしたら、どうしちゃうわけだよー」


「はあ? そんなの別にどうもしねーよ」


「これだからお前は、レディーになれんやっちゃ」



 他愛のない会話は、気を紛らわす為だった。太陽がキツイ。じっとしていても、汗が流れてくる。


 辺りをキョロキョロと見回すと、大きな人が首をもたげているような形の岩を見つけた。日陰ができているので、そこへタタタと歩いて行って入る。するとノエルとゾーイも、オレの後をついて来て一緒に日陰で休んだ。


 2人はキャンプから携帯してきた水筒を取り出すと、ガブガブと飲んで身体に水分を補給した。



「それでよー」


「はあ? なんだよ」



 ノエルにまた視線を向ける。



「さっきの話の続き。ここでノエルがもろにタイプの男子に会ったとするだろー。そんでもしも汗臭かったりなんかしたら、折角の出会いが丸潰れだと思わん?」


「心配しなくても、間違ってもそんな事にはなんねーよ。ここは荒野だぞ。しかも、パスキアの連中の話しぶりでは、結構危険な場所な感じだったからな。こんな場所に、好みのタイプの男がひょっこり現れるなんてありえない」


「ありえないとはなんだ、ありえないとは。そんなの解んないだろー。もしかしたら、1パーセントは可能性があるかもしれないだろ。それに、オレはもしって言いましたー。もしって言うのは、仮定って事だ。解るか、クマさんパンツのドワーフちゃんよ」


「知らねーし、クマさんパンツのドワーフちゃん言うな。あたしには、ノエルって名前があんだよ。って、お前の相手をしていると余計に暑くなる」

 


 ノエルはそう言って、首元に流れる汗を拭った。



「ほら、やっぱタオルとか持ち歩いた方がいいんじゃねーか?」


「必要ない」



 ノエルの首元に、顔を近づけてクンカクンカとニオイを嗅ぐ。



「ば、馬鹿!! やめろ、バカエルフ!! いきなり何してんだ!!」


「いや、汗臭くないかなーって思っちゃって。デュヘヘ」



 後頭部を摩ってにっこり笑い、誤魔化した。因みにノエルのニオイは、汗臭さみたいなもんはなかったけど、ほんのりと甘いミルクの優しい匂いがした。前もこいつ、こんな匂いがしたんだよなー。


 …………


 はっ!!


 ま、まさか、ノエルの奴……こう見えてもしかして、赤ちゃんだったりするのか? 


 自分じゃ、アテナより年上とか言ってっけど、どう見ても見た目はルキアとかクロエ位のもんだしなー。それにあくまでも仮りの話だが、オレらのパーティーで一番誰がオムツが似合うかっていう、とびきりマニアックな選手権を開催した場合……オレは、ノエルが圧勝すると思う。


 …………


 そうだ。それにオレだって、アテナとかローザとかミャオと見た目は変わらんけど、実年齢は圧倒的114歳なんだ。エルフっちゅーのは、長寿でそういうもんなんだ。ハーフドワーフにも、きっとそういう特性みたいなやーつがあーるのかもしれなーい。


 ノエルをじっと見つめる。こいつは、ハーフドワーフなどではなく、ドワーフベビーかもしれんぞなもし。



「な、なんだ?」


「ノエル、一つお願いがあるんだけどな。いいかな?」


「なんだよ」


「その前に、オレの願いを聞いてくれるって約束をして欲しい」


「なんでだよ」


「頼む、大事な事なんだ」


「……解った。解ったよ。それで、なんだ、言ってみろ?」


「うん。ノエル、ちょっとバブーって言ってみて?」


「嫌だ」


「なんだとー!! ノエル、貴様このオレをたばかりよったなー!! オレの願いを聞いてくれるって約束をしたのにいいい!!」


「知るか。ただでさえ、暑いのにくだらん事につき合わせるんじゃねーよ。バカエルフが」


「ああーー!! またバカエルフって言ったーー!! 森の知恵者って設定が色濃くあるハイエルフ様に向かって!! っもう、許さないんだからねーー!!」


「は? なんだよ、それ」


「え? アテナの真似だったんだけど……似てなかった? 因みに、っもう、許さないんだからねー……のところね」



 …………



 オレとノエルを無視して、辺りを1人警戒していたゾーイが初めてオレ達の方を向いた。



「コントは終わったのか?」


『コントじゃねーー!!』



 ノエルと同時に立ち上がって、声を合わせて怒鳴ってしまった。ノエルめ、ゾーイに息ぴったりと思われて、お恥ずかしいだろーが! って言おうとしたその時、ゾーイが叫んだ。



「貴様らのコントはここまでだ!! 身を屈めて、この岩の陰に身を隠せ!!」


「え? なんで?」


「まだ気づかないとは、随分と鈍感なエルフなのだな。あれを見ろ」



 ゾーイが指した先は、荒野だった。何もない延々と荒地が続く大地……って、向こうの方からドス茶色い煙のようなもんが、凄い勢いでこっちに向かって押し寄せていた。


 あれは、砂嵐だ!!

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