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第1136話 『涼しい場所へ その2』



 照りつける太陽。焼けた大地。


 キャンプを出て100メートルも歩いていないのに、王妃様は怒り始めた。



「なんと言いましたか、あなた!!」


「は、はい?」


「名前です!」


「あっ、ルキアです」


「ルキア!! まだですか? このような場所、わたくしには長く耐えられませんよ」



 モラッタさん達との第二回戦。場所はヘーデル荒野となった時点で、その事は王妃様も知っているはず。なのにどうしてこの対決に、参戦してしまったのだろうかと思ってしまった。


 どうみても王妃様は、こういう事に慣れていないみたいだし、キャンプも好きにはみえない……なのに、どうしてだろう……


 私でも思う事なのだから、アテナはもっと思っているに違いないと思った。



「ルキア……はあ、はあ。まだですか? これ以上は、とても耐えられませんよ。わたくしが倒れでもしたら、大変な事になりますよ。どうにかなさい!」



 王妃様は、照りつける太陽に打ちのめされている様子で、物凄い汗をかいていた。それに服だけでなく、肌も砂や土で汚れている。今は冒険者風の格好をしているけれど、普段はドレスを着ている。だから私達よりも、もっと耐えられない心境なのかもしれない。



「もう少しですよ、王妃様。頑張ってください。ほら、向こうに崖が見えてきました。その崖の傍にあるんです」



 ふと見ると、クロエもかなり息があがっている。体力がなくても、それほど気にしなくてもいい距離のはずだった。でも容赦なく照り付ける太陽の熱と、荒れてひび割れた地面から立ち昇る熱気。それにやられている。



「クロエも頑張って。もう少しだから」


「え、ええ。大丈夫。これ位はぜんぜん大丈夫だから、心配しないでルキア」



 強がっていても、足元がふらふらし始めているクロエ。クロエは身体も痩せているし、体力もある方ではない。だけどこの位の距離なら、特に問題はないはずなのに……やっぱり、この暑さじゃ皆まいってしまう。


 私達はまだいいけど、狩りに出たルシエル達は大丈夫だろうかと、物凄く心配になる。


 ワウーー?


 隣を歩くカルビが私の足にすり寄ってきて、顔を見上げてきた。心配してくれているようにも見えるけど、何か言いたげな目。


 少し考えて、それが何か解った。



「うん、ありがとうカルビ。でも大丈夫よ。大きくなって、クロエと王妃様を運んであげるって言ってくれているのね。でも大丈夫だから。もう到着するし」


 ワウウ。



 ノクタームエルドでの事があってから、カルビは一時的に大きくなれる。それで私達を背に乗せて、水場まで移動してくれようとしていたみたいだった。カルビの優しい気づかいに嬉しくなる。だけどカルビは本来は子供のウルフで、今のように小さな身体の状態が本来の大きさで、大きくなるのには結構な体力を消費するみたい。


 この暑さの中で、カルビもきっとこたえているだろうし、体力を使わせるのはよくない。それにもし危険な魔物に襲われたりしたら、カルビに頼るしかなくなってしまう。だからそれも含めて、カルビには無理をして欲しくなかった。



「まだですか、ルキア!! もう駄目です!! このままでは、ミイラになってしまいますよ!! ミイラです!!」


「は、はい! もう着きましたよ、王妃様!」


「本当ですか⁉ 何処です? 何処にあるのですか、その水場は?」



 よほどこの暑さに苦しんでいたのか、急に我先に行く王妃様。私は慌てて王妃様を追いかけて、叫んだ。



「ま、待ってください、王妃様!! そっちは、崖があって危ない……」


 ガラガラーー!!


「きゃあああああ!!」



 崖の近く。言った傍から、王妃様はバランスを崩して、倒れ込む。しかも崖の方へ――



「王妃様!!」



 クロエを置いて、私とカルビは思い切り地面を蹴った。そして王妃様の方へ飛び込むと、崖から滑降する一歩手前の王妃様の腕を掴んだ。カルビは、襟首を噛んで引っ張っている。



「ひいいいいい!! た、助けなさい!! わたくしをそっちへ引いて、助けなさい!!」


「は、はい!! で、でも、ちょっと暴れないでください!!」


 ガルウウウ……



 カルビと一緒に王妃様をこちらへ引いて助けた。危なかった。もう少しで王妃様は、崖から下の方へ滑り落ちていたかもしれない。もしそうなっていたら、これだけ急な斜面だし怪我では済まなかったかもしれない。



「ふう、助かりました。礼を言いますよ、ルキア」


「は、はい。危ないところでした。崖は危険ですので、あまり近づかないようにして頂けますか?」


「言われなくても、解っています。それで、水場は何処なのですか?」


「あそこです」



 今、王妃様が落ちそうになっていた崖。その正面に水場はあった。洞穴になっていて、その奥にあるのだけど、私はそこを指でさして答えた。



「ここなのですね。洞穴の中……いいでしょう。早速、中へ入ってみましょう」



 もう我慢ができない王妃様は、先に洞穴に入ろうとした。私は慌てて王妃様よりも先に、洞穴に入る。


 少し前にアテナと一緒に、この場所には水を汲みに来たばかり。キャンプとの往復をしたけど、特に危険なものはなかった。でもこの短い時間の間に、何かがいるかもしれないと一応は警戒をする。


 以前、アテナが教えてくれたこと。こういう水の少ない場所にある水場っていうのは、川や湖近くと同じで他の魔物や動物たちも集まると。そしてその中には、とうぜん恐ろしい魔物がいる場合もある訳で、ちゃんと警戒をしなきゃいけないって教わった。


 だから私がまず洞穴に入り、安全を確かめた。


 中には拓けた場所があり、泉が湧いていた。私達の他には、何かがいる気配はしない。


 王妃様は一直線に泉に近寄ると、両手で水を救って顔に浴びた。とても幸せそうな顔。



「ふうーー。とても冷たくて、気持ちがいいです。さあ、クロエもこちらに来なさい。綺麗な水ですよ」


「は、はい」



 ふう、私でもなんとかクロエと王妃様をここまで連れてくる事ができた。安堵の溜め息が漏れる。そして気持ちよさそうに水を浴びる2人を見ていると、そこへカルビがタタタと近づいて行く。

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