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第1135話 『涼しい場所へ その1』(▼ルキアpart)



「ルキア、ちょっといい?」


「はい、なんですか?」


「モラッタさんとの旗の奪い合いは、明後日からよね。だけどこのゲームを仕組んだトリスタン・ストラム卿は、この対決は対決だけにあらず、試練だという事も言っていたわ」


「は、はい。そうですね。確かに言っていました」


「試練というのが、旗を守るという事は間違いないと思うの。だからやっぱりこの旗がある場所で、誰かが常に旗を見張っていないといけないと思うの」


「はい!」


「そういう訳で、ちょっとお願いねルキア」


「え? 何をですか?」


「あなたなら場所も知っているし、もう何度も水を汲むのに行き来したでしょ。暑さでヤバいって言っている人を、あの場所へ連れて行ってあげて欲しいの」



 アテナはそう言って、とても不機嫌そうな顔をしている王妃様を親指で指した。



「それじゃ、行ってらっしゃい。ここには私がいるから、ゆっくりとしてくればいいんじゃないかな。もちろん、クロエとカルビも連れて行ってね」


「え? でも、それじゃアテナは?」


「だから、誰かがここに残らなきゃだし。砂嵐もそうだけど、トリスタン・ストラム卿がいう試練っていうのは、きっとそれだけじゃない気がするし、しっかりと警戒しておかないとね。モラッタさんと旗の奪い合いをする前に旗を失って、戦う前から失格になんてなりたくもないし」


「でも私、アテナと一緒に……」



 わがままを言っていると思っている。だけど私は、あの日……あの日から、アテナとずっと一緒にいたいと思っている。


 『闇夜の群狼』という盗賊団が私の住むカルミア村に来て、皆の命を奪い、家や畑を焼いた……それから私は、クウ達と一緒に奴隷にされて、馬車で運ばれて……


 馬車の中では、水も食べ物ももらえなくて鎖に繋がれていた。おトイレだって、させてもらえずそのままだった。馬車の中は、とても凄い酷い事になっていて、気が付いた時には一緒に攫われたレーニとモロは動かなくなっていた。


 絶望と恐怖……悲しみ……


 お父さんとお母さん、あの時は妹のリアも盗賊に殺されたと思っていた。


 私の中で、こんな苦しい思いをするならいっそ死にたいって思いと、やっぱり死ぬのは怖いって思いが葛藤し始めていた。でもやがて、諦めという気持ちが心の中に生まれて強くなってくる。


 そんな時に、私達を運んでいた馬車の前にアテナが現れて私達を助けてくれた。暖かいスープや食事、毛布などもくれて……


 私はアテナの事が大好きになった。そう、お父さんやお母さん、リアと同じ位に大好きになった。


 …………あれから私は、アテナの事を本当のお姉さんだと思っているし、アテナもそう言ってくれている。大好きで大好きで片時も離れたくない。その思いがどんどん強くなって……


 だからパスキアに来てから、もしもアテナがこのままカミュウ王子と結婚して、私達と旅を続けるのをやめると言ったらどうしようと思って、気が気じゃなくなった。


 しかも王都には、クロエとマリンはアテナと一緒に行くことになったけれど、私はお留守番。ルシエルやノエルやカルビもいるし、心細さや寂しさは無い……はず。でもアテナといつも一緒にいたいというのが本音だった。


 カミュウ王子との縁談――いつまでかかるか解らない。結婚。それが本当になってしまったらどうしよう。そんな不安に呑まれながらいたら、こうしてそれ程経たずにアテナと合流できた。折角合流できたのだから、もっと一緒にいたい。


 それは自分ではわがままだって解っているけれど、やっぱりどうしても抑えようのない気持ちだった。


 そんな私の頭をアテナは、優しく撫でてくれる。まるで女神様のように暖かい微笑み。安らぎをくれる。



「ちょっとそこまで行ってくるだけでしょ? ルシエルとノエルが狩りから戻って来たら、また行こうよ。ね?」


「……はい」


「あはは、そんなに落ち込まないの。それにルキアとカルビ、2人にはクロエとエスメラルダ王妃の事、しっかりと頼んだからね」


「わ、私とカルビだけで大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。もしもの時は、思い切り叫んで。飛んでいくから」


「はい、解りました」


「あっ、そうそう。それと、これだけ暑いんだから、水浴びすればいいと思うよ。何度か水汲みに行ってその度に見てみたけど、危険な生き物とかそういうのはいなさそうだったし」


「水浴びですか……」



 それはいい考えだと思った。身体中、汗や砂まみれになっているから。でもそれなら、アテナや皆と一緒に行きたいな。



「まだですか、アテナ!! この暑さをどうにかできるのなら、早くどうにかしてちょうだい!!」


「はいはい、ちょっと待ってよ」



 王妃様が、とても怒っている。どうしようってなっていると、アテナは何枚かタオルを取り出してそれを私のザックに入れた。



「ほら、ここは私に任せて行ってらっしゃい。何かあったら、叫ぶかカルビをここへこさせてね。解った?」


「はい、解りました!」



 本当はアテナとも行きたかったけど、また後でルシエルとノエルが戻ったら一緒に行くみたいだし……それなら……



「そ、それじゃ、王妃様、クロエ。これから涼しい場所に移動しますので、ついてきてください」


「涼しい場所? 涼しい場所とはもしかして、飲み水を汲んできた場所ですか? ここから近いのですか? 暑い荒野を長々と歩くなんて、わたくしにはとても耐えられませんよ!」


「はい、直ぐのところです。とても涼しい場所なので、気にいると思いますよ。私が案内しますので、行きましょう」



 王妃様は、涼しい場所と聞くと立ち上がる。そして「この暑さと、この砂にまみれた身体をどうにかできるのなら、行ってみましょう」と言って、クロエの手を握ると私の後についてきた。


 ワウ。


 私の隣には、カルビ。


 キャンプを出る前にもう一度振り返ると、アテナが私達に向かって手を大きく振ってくれていた。



「くれぐれも、気をつけていってらっしゃーーい」


『はーーーーい!!』



 手を振り返し、大きな返事をする。すると、クロエと声がかぶってしまって……なんだか可笑しくなって、お互いに笑ってしまった。

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