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第1133話 『水の置場問題』



 まずは、水の調達。


 あの湧き水の豊富な洞穴へ、ルキアと向かう。水筒や鍋など、水の入れられる物を持てるだけ持って、水を汲んでキャンプと洞穴とを往復する。



「ふうーー、とりあえずこの位、水があればいいかな」


「はい、そうですね。でもまた汲みにこなくちゃいけないですね」


「そうだね。夜はいいけど、昼間はこの暑さだから水が悪くなっちゃうだろうし。それに砂嵐にも気をつけないと、運んだ水がそれで飛ばされたり、砂まみれになったら飲めなくなっちゃうからね」


「トリスタンさんの言っていた試練って、こういう事だったんでしょうか? だとしたら、ここに水場がある事も知っていて、私達がキャンプと水場を往復する事も知っていて、その距離まで考えられていたんですかね」


「そうかもしれない。遠くはないんだけど、水を運んだりするには、ちょっと億劫な距離だよね。絶妙な距離。でもトリスタン・ストラム卿は、とても公平で誠実な人みたいだから、きっとモラッタさんの方も同じような条件と環境だと思うよ」


「それはそうかもですが……でもモラッタさん達は、30人で参加しているでしょうから、私達よりももっと楽に水を運んだり薪を集めたり、食糧の調達をやっていると思います」



 ルキアの眉間に皺が寄る。それに気づいた私は、彼女の頭を優しく撫でた。



「にゃっ!」


「怒らない、怒らない。今更怒っても仕方がないし、今は真昼でとても暑いでしょ。余計にしんどくなっちゃうよ」


「うー、確かにそれもそうですよね」



 今日一日、全員で過ごせる分の水をキャンプへと運び終える。砂嵐もそうだけど、辺りには砂埃がまっていたりするので、エスメラルダ王妃のテントの中へ水を運び入れた。


 ここなら大丈夫。エスメラルダ王妃のテントは、とても大型のテントだし、お金に物を言わせて購入しているからとうぜんなんだけど、とても丈夫で頑丈。ちょっと前に襲ってきた強烈な砂嵐。あれで私達のキャンプが大量の砂に埋まった時にも、完全に潰されずに砂の下にあったし、ルシエルの竜巻魔法にも耐えていた。


 だから水を貯蔵するなら、現段階で一番良い場所と考えられるうってつけの場所。



「ちょっと、待ちなさい! 勝手にわたくしのテントに入ってきて! しかも、大量に何を運びこんでいるのです!! アテナ、これはなんなのですか!?」


「なんなのですか!? って水を汲んできたのよ。飲み水がないと、困るでしょ」


「そんな事を聞いているのではありません。あなたのやるべき事は、わたくし達をこけにしている、いまいましいパスキアの王族や貴族に思い知らせてやる事です。つまりこの対決に勝つ事なのです。見てください、これを!!」



 エスメラルダ王妃はそう言って、テントの外へ出ると空を見上げて指をさした。そこには、私達がこのヘーデル荒野の環境に対して悪戦苦闘している姿を撮影し、王宮に中継しているテントウ虫の魔物の姿がいくつもあった。空を飛び回っている。



「見えますか、あのテントウ虫! まったく、いまいましい。わたくし達は、クラインベルト王国の王族なのに、このパスキアでは完全に見世物になっているのですよ。王族や貴族を楽しませる娯楽のね」



 悪気はないのかもしれないけれど、フィリップ王の態度も気になっていた。


 この国に到着した時のこと、いきなりこの国自慢の武人、パスキア四将軍ロゴー・ハーオンとの手合わせもさせられたけど、当人のロゴー・ハーオンは、私に酒場での屈辱を晴らしたいって気持ちで溢れているのが解った。そんな私怨を含む勝負を見物する王様含め、この国の人達はまるで余興感覚だった。それは、確かに私も感じた。

 

 でもだからと言って、邪気のようなものは感じない。あの宮廷魔導士ガスプーチンは別として、フィリップ王やメアリー王妃に邪気とかそういうたぐいのものは感じなかったのだ。だからただ、そのまま感じた事を言わせてもらえれば……王族としての振る舞いが気になるというか……上に立つ者として、どうかと思うあさはかさに似たものがあった――



「それについては、あなただけでなく私もそうだし、皆だって気持ちよくは思ってない。でも、今はそれを言っても仕方がないでしょ。我慢するしかないわ」


「仕方がないのは、解っています。それが勝つ為なら、尚更です。ですが今は、その事を言っているのではありません。今あなたは、なぜわたくしのテントの中に汲んできた水を並べて置いているのですか? 見てください、わたくしのテントの中を。それなりに広さもあったのに、こんなものを並べられては、多少なりと圧迫感を感じますし、落ち着きませんよ! それに誰かが喉の渇きを覚える度に、水を飲む為にこのテントに入ってくるのでしょ?」


「それはそうでしょ。だって、ここに水があるんだもん」


「我慢できません! 汲んできた水は、外に置けばいいではありませんか」


「外だと砂が入っちゃうし、陽で温まっちゃうでしょ。それに砂嵐がきたらまた全滅する」


「それなら他の手を考えなさい」


「嫌よ。ここに置く」


「何を言っているのですか、あなたは。さっさとこの邪魔な水の入った鍋やらなんやらを、外へ移動させなさい」


「だから嫌。ここが一番、水を置くのにいい場所なの。あなたもこの対決に参加している訳だし、私に勝って欲しいなら少しは協力してください!」


「…………」



 エスメラルダが、下唇を噛むのが解った。やっぱり彼女とは解りあえない。彼女は、ティアナ前王妃……私とモニカの本当のお母様の代わりなんて、なれる訳がない。


 お互いに目を反らし、暫し沈黙して固まっていると、私達の醜い言い合いを見て戸惑っていたルキアとクロエが口を開いた。



「えっと……ほら、アテナ。まだ薪集めとか色々とやる事がありますよ。水はもう今日は十分な量を運び終えましたし、次の作業に取り掛かりましょう。ルシエル達も今頃、この暑い中を獲物を探して頑張ってくれていますよ」



 ……そうだった。



「王妃様。お願いです。お水をここに置かせてください」


「クロエ。あなたもそのような事を言うのですか? ここに置かなくても、別に置き場はありますよ」


「でも、ここが一番いいとわたしも思うのです。王妃様がこのテントにわたしとグーレスを招いてくれて、とても安心しています。だからここが一番安全だって思うんです」


「……」


「お水がないと、大変な事になるからアテナさんは、一番安全なここにお水を置かせて欲しいと言ったんだと思います。わたしもそれが一番いいと思います。どうか、置かせてください」


「解りました、クロエがそこまでいうのなら、特別に許可しましょう。一国の王妃であるこのわたくしのテントの中へ、水を飲んだり使うたびに人が出入りする。本来ならば、許されない事ですがね」



 私でもこんな感じになるのに、クロエはエスメラルダ王妃を説得してくれた。


 ありがとう、クロエ。それにルキアも。


 もっと私も大人にならなくちゃいけないのに……エスメラルダ王妃やエドモンテとは、いつも喧嘩をしてしまう……


 ハア……

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