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第113話 『ガンロックフェス その3』






 ルシエルに追いつくと、ミシェルとエレファはすでに助け出されていた。エレファとルキアは、後衛で守りを固めていて、前衛でルシエルとミシェルが何十人もの敵と戦っている。しかも、驚くべき事に手を取り合い戦う二人の息はぴったりだった。


 そして更に驚くべき事があった。


 ルシエル達と人攫い達の戦いはエスカレートし、ついには誰かのライブステージに上がり込んでバトルを繰り広げていたのだ。そこで演奏しているグループは、そんなハプニングにもかまわずロックライブを続けていて、集まっている客もルシエル達が戦っているのは催し物の一部かと思って大盛り上がりしている。そして歓声が湧き上がる。


 私は恐るべし、ガンロックフェスだと改めて思った。



「やるなー、ミシェル! なかなかやるじゃないか! その身のこなしも、只者じゃないな」


「フフフ。ルシエルこそね! 流石、ハイエルフっていうところかな!」



 褒め合う二人にエレファが言った。



「でもミシェル姉様、こんなに体術に優れたエルフを私は見たことがありません!」


「確かにエルフって、精霊魔法と弓を使う後方支援が得意ってイメージだもんね」


「ワハハ。オレはただのエルフじゃないからな」



 確かに、ワハハと笑うエルフがただのエルフな訳がない。


 ルシエルにミシェル。二人の息ぴったりのアクションで、男達を次々と蹴散らしていく。エレファも拳を握って二人を応援している。そしてまた歓声!



「あっ!」



 その時、私はある事に気づいた。可愛いアイドル衣装、ミニスカートで戦い続ける二人。男達と戦う最中、チラチラと下着が見えている。それを見て歓声をあげている者達がいたのだ。


 まったくもう――――恥じらいのない!


 私はエレファとルキアに駆け寄ると、二人の手を引っ張って叫んだ。



「ルシエル! ミシェル! 戦う場所を移しましょ!! ついて来て!!」


「よし! わかった!」


「おのれーー! 逃げるでございますよ!! 逃がしてはならないでございますよ!! 追うのでございますよーー!!」



 ひとけが少ない場所まで、男達を誘導した。ここなら、遠慮せずに戦える。ルシエルが隣にきた。



「ざっと20人位はいるな。腕の立ちそうな奴も何人かいるけど、どうする? アテナ」


「ミシェルとルキアは、エレファを守って! ここは私とルシエルで片付ける! いくよ!!」



 ルシエルはニヤリと笑ってナイフを構えた。私も剣を抜いて敵に向かって駆けだした。二刀流。敵の武器を跳ね上げ、蹴り飛ばす。



「なんだ? この女達の強さは⁉ ミシェル王女と一緒に、単にアイドルをやっている小娘どもじゃないのでございますよ!! 全員でかかるのでございますよ!!」


「お前がかかってこい! ちょび髭!!」



 ルシエルが叫んだ!


 ――――奮戦。ほとんど打ち倒した所で、私達の目の前に新手が現れた。いったい何者? 人攫いの癖に、どう見ても賊なんてものには見えない。その姿は、金髪縦巻きロールで貴族令嬢と言った感じの女の子。その後ろに、執事が一人とメイドが3人。



「なかなか手こずっているようですわね、ポール・パーメント男爵!」


「ここ、こ……これは、シャルロッテ様! まさか、こんな事になるとは思ってもいなかったでございますよ!」



 パーメント男爵に、シャルロッテ様? そう言えば、この人たちの身なりはどうみても貴族?



「ここは、撤退しましょう! そこの青い髪の娘と、エルフの娘。あなた達が何者かは存じませんが、調べればすぐにでも、あなた方が何者なのかは解りますわ。わたくし達の邪魔をして、後々、後悔する事になるやもしれませんが、恨むならわたくし達の計画の邪魔をしてしまった自分を恨みなさいね。オーーーホッホッホッホッホ、それでは、ご機嫌よう」


「ひいいい。お待ちくださいでございますよ! シャルロッテ様!」



 ちょび髭の男と、その他の男達はそのシャルロッテと呼ばれる娘と共に、一緒にこの場を去ろうとした。しかし、ルシエルが逃がすまいと素早く動いた。



「待て、このちょび髭と縦巻きロールめ!! 逃がさないぞ!!」


「待って! ルシエル!!」



 ルシエルを呼び止めた直後、目前に氷の矢が飛んできた。咄嗟に氷属性魔法の、対抗魔法である炎属性の魔法を詠唱し、氷の矢をかき消した。



「《爆炎放射(フレイムバースト)》!!」



 氷の矢が飛んできた方を見ると、そこにはシャルロッテという娘の両脇にいたメイドが二人、手をこちらに翳して立っていた。そして、片方のメイドが更に魔法を唱えた。



「《斬撃風(エアスラッシャー)》!!」



 風属性の攻撃魔法。文字通り鋭い風切り音を立てて、風の刃が私とルシエルを襲った。しかし、ルシエルニヤリと笑い、腕を前に突き出し風の精霊魔法を唱えた。



「こなくそ!! 《風の刃(ウインドカッター)》!!」



 私達の前に立ちはだかるメイドと同じ風属性魔法。だけど……。



 ズババッ!!



「きゃああっ!!」



 ルシエルの放った風の刃(ウインドカッター)の方が圧倒的に強力だった。相手の風の刃を斬り裂いて、ついでにその魔法を放った術者のメイドも斬り裂いた。



「ふっふっふ。オレの魔法は、精霊魔法だからな。一般的な黒魔法と比べると、ちょっと一味違うんだよな」


「ちょっと、ルシエル! 油断しないで!」



 言った直後、執事が何かを勢いよく地面に叩きつけた。――煙幕!! その目眩ましによって、メイド二人にも逃げられてしまった。私は、頬を膨らませて言った。



「もう! ルシエルは最後の最後で爪があまーい」


「いや、だって命のやり取りをする程でもないだろ?」


「だから甘いよー。また、現れてミシェルやエレファを襲ってくるって事も考えられるでしょ。出来れば捕まえて、色々と情報を聞き出したかったのにー」


「えーー、拷問でもすんの? そんなのオレは嫌だぞ」


「私だってそんなのしないよ! でも、色々と聞いてみれば何か解る事があるかもしれないし」


「なんだよー。それならほら、これ!」



 ルシエルは、胸元から何かボタンのような物を取り出して私の方へ放った。それを掴み取ると、なんなのか確認した。



「これは……」


「ちょっと気になったから、バトル中にかすめ取ったんだ。やっぱり、それが何か――アテナには解るんだな」



 ルシエルの言葉に答えようとするとすると、ミシェルがそれを見て代わりに言った。



「そのボタンに記されているの紋章は、ヴァレスティナ公国の紋章ね」



 ルキアが驚く。



「え? それ、あのポールって言われてた、ちょび髭男爵さんのボタンですよね」



 私は、そのボタンを強く握り込む。



「どうしたのですか? アテナ?」



 ――――ヴァレスティナ公国。お父様の再婚相手であり、エドモンテやルーニの母である、エスメラルダ王妃がかつていた貴族の国。エスメラルダ王妃は、エゾンド・ヴァレスティナ公爵の娘だった。


 きっと、あのシャーロットっていう貴族令嬢も公国の者なのだろうが。いったい、これはどういう事なのだろう。考えを巡らしてみるが、今は情報が少なすぎて何も解らない。



 ………………



「とりあえず、こんな所にいつまでいてもあれだから。私達の小屋へ戻りませんか?」



 エレファが寒そうに、両手を擦り合わせながら言った。そう言えば、私達皆、あれからずっとこのアイドル衣装だった事を思い出した。



 私は、微笑んで「うん」っと短く答えた。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ポール・パーメント 種別:ヒューム

男爵と呼ばれる、ちょび髭タキシードのおじさん。ガンロック王国の王女であるミシェルとエレファを攫おうとする。彼はヴァレスティナ公国の紋章の入ったボタンを付けていた。まさか男爵って……


〇シャルロッテ 種別:ヒューム

金髪縦巻きロール。ちょび髭男爵ポールよりもえらそう。如何にも貴族令嬢と言った感じ。手惑うポールを見かねてアテナ達の目の前に姿を現した。


〇護衛メイド 種別:ヒューム

シャルロッテやポールが引き連れていたメイド。ただのメイドではなく、攻撃的な黒魔法を巧みに使う。


氷矢(アイスアロー) 種別:黒魔法

下位の、氷属性魔法。氷の矢を生成し、目標へ飛ばして射抜く。でも、氷の矢というよりは見た目的には、つららに近い。


爆炎放射(フレイムバースト) 種別:黒魔法

中位の黒魔法。爆発させる魔法ではなく、手の平から爆発により発生する強烈な炎を放つ魔法。低位の魔物ならこの魔法で、こんがり焼ける。


斬撃風(エアスラッシャー) 種別:黒魔法

下位の、風属性魔法。ブーメラン状になった風の刃が対象を襲う。


〇ヴァレスティナ公国 種別:ローケーション

貴族が支配する国。国主のエゾンド・ヴァレスティナは、アテナの義理の祖父になる。エスメラルダの実父で、ルーニやエドモンテ、モニカの祖父にもあたる。ポールの身に着けていたボタンの紋章は、この公国のものだった。

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