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第1129話 『トリスタンの試練』



 身体をはって、ルシエルとノエルを必死に抑えた。そんな私達の姿を見て、まるで他人事のように高らかに笑うモラッタさん。



「ホーーッホッホッホ。アテナ様の腕が立つのは、既に存じておりましてよ。パスキア四将軍である、あのロゴー・ハーオン様との試合を見せて頂きましたから。ですが、いくらなんでもまさかたった3人で、この者達全員を相手にはできませんでしょう」



 目をやると、周囲には10,11,12……モラッタさんとデカテリーナさんを含めて、18人が私達をグルッと囲んでいた。なるほど、偵察って言っていたけれど、一応用心して半分以上の戦力を連れてきていたんだ。でも確かに何人かは、腕の立ちそうな人もいる感じがする。


 とうぜん、30人エントリーできるならモラッタさん達はその全てを、実力のある者達で選んできているのは、言うまでもない事なんだけど……その中でも特にって意味ね。


 ルシエルとノエルが落ち着いたのを見て、私もモラッタさん達と向き直った。



「相手にできないかどうか、実際に確かめてみる? 最初にトリスタン・ストラム卿が言っていた事。まずは、試練があるって言っていた。だから明後日までは、私達も特に大きな行動はしないつもりだった。だけど私だってそっちがその気なら、今ここで勝負するならしてもいいかなって内心は思っている……剣にも自信があるし。でも本当にそうしてもいいのかしら?」



 ニヤリと自信満々にそう言い放つと、顔が明らかにこわばるモラッタさん。やっぱり、ロゴー・ハーオンとの試合は、この国の人達にとってインパクトが強かったのかな。パスキア四将軍とか言って、とても偉そうな感じだったし。でも正直、トリスタン・ストラム卿やブラッドリー・クリーンファルト卿を引き合いに出せば、ロゴー・ハーオンなんて2人の足元にも及ばないよというのが正直な感想だったりする。


 それとモラッタさんだけど、その本心はここで私達といきなり雌雄を決する戦いをするつもりは無いとみた。もしその気なら、全員で来ているだろうし……これは、命のやり取りでもないし、私達にここで勝ったからって旗を取らないと勝ちにはならない訳なんだし。結局は、ルールに乗っ取るなら明後日からなのだ。


 ただ、今のうちに相手のキャンプ、つまり旗のある場所を確認しておくという手はある。そうすれば、明後日朝8時直後に、旗を狙って強襲する事もできる訳だしね。


 モラッタさんは、また高らかに笑った。



「オーーッホッホッホッホ。流石はクラインベルト王国の第二王女様であらせられますわね。それでは、相手側の旗の位置も解りましたし、ここらでお暇させていただきますわ」


「あーーん? そう聞いてこのままただで、返すと思っているのか? ああ、そうだよ。このまま逃がしはしないぜ! 折角来てくれたんだからな、そっちのキャンプしている場所を、ここで吐いてもらうぞ!! 嫌って言っても、ついていくからなー!!」



 ルシエルのセリフを聞いて、止めなきゃっていうよりも、確かにって思ってしまった。だって、このままみすみすこちらの位置だけ知られて終わりじゃフェアじゃないもんね。


 モラッタさんが今日はこれで引き下がるのなら、その後を追って行けば必然的に彼女達のキャンプ地が解る。今の時点で、こちらだけ位置がバレてしまっているのは、どう考えても不利だもんね。


 だけどモラッタさんもデカテリーナさんも、後をついてこられるかもしれないというのに、大して驚いている様子もなかった。



「よっしゃ、ついていってやるぜ! フェッフェッフェ、ストーキング行為なら、オレは得意なんだぜ!」



 なにその、ストーキング行為が得意って⁉ ルシエルが言うと、妙に説得力があるのがヤダ。



「オーーホッホッホッホ。まったく、アテナ様の共の方は、とても愉快で面白い方が多いのですわね」


「む! 褒められた」


「違うわよ、馬鹿にされてんの!」


「なんだとー、この野郎!」



 ルシエルに軽く突っ込みを入れる。そんなやり取りを見ても、特に余裕の笑みを崩さないモラッタさん。これは、絶対何かあるな。


 この場で剣を打ち合わせるというつもりがないのなら、この自信のもとはきっとこの場からルシエルのストーキングを回避して、確実に逃げ切れるということ。



「オーーッホッホッホ。それでは、どうぞ。ついてこられるのなら、ついてらっしゃい」


「言われなくてもそうするさ!」


「ちゃんと追ってこれれば、私達のキャンプ場所は見つける事ができますわね」



 モラッタさんの挑発に乗って、ルシエルがまた何か言おうとした所で、ノエルがルシエルの肩を掴んだ。



「おい、ルシエル! それにアテナ! 気をつけろ!!」


「え? 何!?」



 気が付いた時には、遅かった。もう目の前まで砂嵐が迫ってきていた。しかもとても速い速度で、向かってくる。解った時には、目と鼻の先。あっという間に私達もモラッタさん達も、砂嵐に呑まれてしまった。砂砂砂。視界が遮られ、一面砂色の風が吹きすさぶ。轟音もさることながら、モラッタさん達が何処にいるのかも解らなくなる。見失う。


 だけど、彼女達は違う。ここは彼女達の土地であり、国でもある。しかもこのヘーデル荒野は危険らしいけど、王都からも近い場所にあり、きっとモラッタさん達はここの場所をよく知っているはず。


 そうか。モラッタさん達はこの砂嵐が吹くタイミングを知っていた上で、これを待っていたんだ。そしてこの砂嵐の視界の悪さと轟音に紛れて姿をくらました。



 ザザザザザザザ……


「うおおおおおおお!! な、なんじゃこりゃああああ!!」


「しっかりして、ルシエル! ノエルは、無事? 何処にいるの?」


「ここだ! こっちにいるぞ!」


「 2人共、そこにいるのね。それじゃ、ゆっくりと私の声がする方向へ移動してきて」


「わ、わかった!」


「うおおおおお、解ったけど目を開けてらんねーってばよーー!! うぎゃああ、目に砂がーーー!!」


「ほら、こっちよルシエル! 手を伸ばして!」



 これは、まいった。地の利は向こうにあるのか。でもそれを言うなら、もともとアウェイだって解っていた訳だしね。今更か。こういう知識の差がでるのは、仕方のない事。


 ルシエルの手を握ったので、こちらに引き寄せる。するとノエルも同じタイミングで、両腕で顔を覆いながらもこちらになんとか歩いてきた。凄い砂嵐だけど、これでルシエルとノエルと一緒になれたし、見失う事もない。


 あと、ここでこんなに吹いているって事は、きっと私達のキャンプも砂嵐に襲われているはず。このまま少しここで耐えて、砂嵐がおさまったら、まずは様子を見にキャンプに戻らないとね。じゃないと、ルキア達が心配。


 ……トリスタン・ストラム卿の言った試練。もしかしてそれは、このヘーデル荒野の日中の暑さや夜の寒さ、それに付け加えてこの砂嵐の事なのだろうか……


 まだはっきりとは解らないけれど、直にそれは判明するだろう。

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