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第1128話 『ドロップキック』



 遠くから、私達のキャンプを偵察しにきていた誰か。それは数人いて、そのうちの1人にルシエルは、とびかかって押し倒すと馬乗りになった。


 それにしても、なんて足の速さ。単純なスピードなら、ルキアが最近獣人として覚醒してきているとは思っていたけれど、やっぱりルシエルが一番かも。



「このやろーー!! 動くんじゃねーー!! 神妙にしやがれってんだよ、この野郎!!」


「ルシエル、そのまま抑えてろ!! すぐにあたしもそっち行って加勢してやるからよ!!」


「ちょ、ちょっとルシエルもノエルも、熱くならないで!!」



 ルシエルがフードを被る誰かに馬乗りになると、そのフードを剥いだ。まだルシエルまでは、距離がある。だけど、あれが誰だかは遠目に見ても解った。そう、モラッタさんだった。


 モラッタさんは、このパスキア王国の貴族であり、伯爵令嬢。いつもは、とても綺麗なドレスに身を包んでいるので、今の冒険者のような服装にギャップを感じた。


 でも考えてみれば、当然だった。こんな荒野に数日間滞在し、私達と対決をするんだもん。当たり前と言えば当たり前なんだけど、いつもとは違った冒険者のようなとても動きやすい服装に、フードを被っていたからとても最初は彼女だって気付かなかった。


 ルシエルも、自分が馬乗りになっている相手がモラッタさんだって解ると、動揺して固まっている。するとそこへ向けて、同じくフードを被った大柄の誰かが全力で駆けてきた。



「ルシエル!! 危ない!!」


「おい、ルシエル!!」


「え?」



 私とノエルは、叫んだ。フードがめくれる。大柄の誰かは、なんとデカテリーナさんだった。モラッタさんと同じく、この対決の相手。


 デカテリーナさんは、モラッタさんに馬乗りになっているルシエル目がけて猛ダッシュすると、そのまま跳躍。見事なドロップキックを、ルシエルに向けて放った。



「ひええええ!! ちょ、嘘だろ⁉」


「モラッタから離れろ!! この女エルフ!!」


 ドカッ!!


「ぎゃっ!! うわああああっ!!」


『ルシエルーーー!!』



 ノエルと共に、大きな声で叫んだ。


 デカテリーナさんのドロップキックをまともに喰らったルシエルは、嘘みたいに向こうに吹っ飛んでいった。見事な放物線を描いて地面に叩きつけられ、そのまま更に向こうの方まで転がって行く。



「あーーーれーーーー」


「この野郎てめえ、よくもルシエルを!!」



 デカテリーナさんまで追い付いたノエルが、思い切り拳を振りかぶって彼女に突っ込んだ。私も追いつく。そして私は、ノエルの振りかぶった腕を両手で掴んでパンチを止めた。



「おい、アテナ!! 何をするんだ⁉」


「駄目! 落ち着いて!」



 デカテリーナさんと、モラッタさん。そして2人が連れている何人かと荒野で向き合う。


 2人以外、他の者はまだフードを被っている。だけど全員に胸のふくらみがある事に私もノエルも気が付いた。そう、ヘーデル荒野で行われる対決のルールでの参加者数は30人まで。そして女性のみってルールだった。


 ルシエルに転がされたモラッタさんは、立ち上がって身体についた砂を払う。私は彼女に声をかけた。



「どういうつもりなのかしら? もしかして覗き見?」



 フフフと笑うモラッタさん。



「そうですわ。アテナ様のキャンプ、早速覗き見させてもらいましたわ」


「うおい! 認めよったぞ、こいつ! おい、これ逃がしたらまずいだろアテナ! このままここで、やっちまおうぜ。モラッタとデカテリーナを仕留めれば、後はデリザとかいう華奢な奴1人だろ?」


「だからノエル、駄目だってば!」


「なんでだよ! あたしとアテナで戦えば、こんな奴ら余裕だろ?」


「余裕……だと?」



 一瞬、デカテリーナさんの目が鋭く光る。大柄な身体に、筋肉質な体型。デカテリーナさんは、モラッタさんやデリザさんとは違って、やっぱり武闘派。確かお父さんはこの国の将軍……そうそう、ギロント将軍だっけ。



「兎に角、落ち付きなさいノエル。そもそも対決は始まってはいるけれど、トリスタン・ストラム卿のルールでは、実際に衝突するのは3日後……明後日の朝からでしょ」


「それは旗の奪い合いだろ。潰し合いは別に今してもいいんだろ? こんな奴ら、さっさと片付けてパスキアの連中をギャフンと言わせてやろうぜ」



 ノエルは背負っている戦斧を握り、前に構える。すると対抗するように、デカテリーナさんも前に出た。手には、モーニングスター。ノエルの口元がニヤリ。



「ほう、なかなか可愛い武器を持っているじゃないか。最初は料理対決、お姫様方と対決なんてあたしには、とてもできそうもないって内心は思っていたんだけどな。案外そうでもないと、思い始めた」


「ほう、小さいのによほどの自信があるのだな。文字通り、見ものだな」


「面白い、見せてやる!」


「だーかーらー、ちょっとやめなさいノエル!! 武力で勝負するって言っても、今じゃないし、順序ってものがあるでしょ」


「順序? こいつらは、あたしらのキャンプをこっそりと偵察しにきた。敵である、あたしらのキャンプをな。それを見つけたのだから、叩く。それ以外に何があるんだ? 生かして返すなっていうのが普通だろ?」


「これは確かに、刃も交える対決ではあるけれど、命のやりとりはしないの! だからちょっと落ち着きなさい!」



 ノエルは、戦いとなると熱くなる。私や、ルシエルも確かにそれは例外ではないけれど……相手はパスキアのお姫様達なんだから、もう少しやり方というものが……



「こらあああああ!! てめええええ、よくもこのかわゆいちゃんなエルフ、ルシエルちゃんにドロップキックなんて喰らわしてくれちゃったなああ!! 見てろ、この野郎!! 逆襲してやるううう!!」



 猛烈な勢いで土煙をあげて、向こうの方からこちらに走ってくるルシエル。


 私は、こっちも止めなきゃならないのかと思って、溜息をついた。

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