第1127話 『荒野の人影』
ヘーデル荒野の北に位置する場所。そこに私達はキャンプを設営した。
このキャンプ対決に参加しているこちら側のメンツは、私、ルシエル、ルキア、カルビ、クロエ、エスメラルダ王妃、ゾーイの7人。少数精鋭って奴ね、フフ。
対して相手側は、3人のお姫様――モラッタ・タラー、デカテリーナ・ギロント、デリザ・ベールの他に、この対決に参加しても良いという最高定員数30名マックスでやってきているだろう。
まあでも旗の奪い合いっていうのなら、きっと格闘戦とか直接的な勝負にもなるだろうから、そうしたらルシエルやノエル、ゾーイのいるこちら側が圧倒的有利に思えた。剣での勝負なら30人と言わず、50人でも100人でも勝てる自信はあるからね。
私だって生きてきた人生で、今までで負けた事だってあるけれど、その相手というのは伝説級と言われている冒険者ヘリオス・フリート、そして私の実の姉であるモニカ位のものだからね。今勝負したら、勝つ自信だってありありなんだから。本当だよ。
誰に言っているのか、突っ込みたいというのは置いといて、これからどうするか早速決める事にした。今はエスメラルダ王妃とクロエとカルビは、テントの中にいる。ここには、その他の者が集まっている。
「それじゃ、これからどうしようかな」
「はいはいはーーい!」
言った途端に手を挙げるルシエル。こういう時は、いつも一番だよね。
「はい。ルシエルさん、どうぞ」
「やっぱ、肉でがしょーー!! 肉を調達しにいかんと、いかんでがしょーー!!」
「なにそれ? つまり、狩りに行きたいって言っているの?」
「イエスイエスイエーース! やーー、やっぱアテナは、話が早いなー。そうなんだよね。狩りに行って、食べると元気がモリモリと湧いてくるような肉を調達してこようかなーって思ってさ。いいだろ?」
「お肉ねえ、うーーん。今あるお肉だけじゃ、対決が終わるまでとても足りないだろうし……他の食糧だって、確かに尽きる」
ブラックバイソンかどうかは解らないけれど、それかもしくはそれに似たものは荒野に生息しているのを見た。探せば、他にお肉になる獲物だっていくらかいるだろうし……
「それじゃ、ルシエルにお願いしよーかな。狩りは、いつも頼っているし」
「ヤッハーー! 任セロリ! そんじゃよー、このオレがめっちゃ美味しそうな、ボリューミーなやつを仕留めてきてやんよ」
飛び跳ねるルシエル。その横で腕を組み、何か言いたげなノエル。
「どうしたの、ノエル?」
「いや。そもそもここにあたしらがいるのって、モラッタ達との対決の為だろ? キャンプを楽しみに来た訳じゃないんだよな」
「何言ってんだ、こいつー。あたり前だろーがー」
「こっちに来るな! 暑いんだよ!」
抱き着こうとするルシエルを、押し返すノエル。
「もちろん私達は、モラッタさん達との対決をしにここへ来ている。それが本来の目的」
「ならよ。明後日の朝8時までによ、相手のキャンプのある位置とかを確認しておかなくていいのか?」
え?
「だって、旗の奪い合いなんだろ? 旗はお互いのキャンプ地に突き立ってんだ。とうぜんながら、相手もこちらの旗を引き裂いたり燃やしたり、はっきりとは解らねーが攻めてくるんじゃねーのか?」
「あっ、そ、そうだったね。あはは……」
一緒に話を聞いていたルキアも戸惑う。
「ノエルの言う通りですよ! じゃあ、もしかしたモラッタさん達、私達のキャンプを今のうちにつきとめようと、このヘーデル荒野を捜索しているんじゃないですか? 相手はきっと30人全員で参加しているでしょうし、人数から言っても手分けして、きっと直ぐに私達の居場所なんて探り当てるんじゃ……」
「ちょっと、いいか?」
ルキアが話している途中で、ゾーイが割り込んできた。
「なに? ゾーイ。あなたの言いたい事は、だいたい解るけれど……相手のキャンプを探しに行くという話、あなたはここに残るっていうんでしょ? それは解ってる。ここには、エスメラルダ王妃やクロエにも残ってもらうし、食糧やテントなど物資もあるからね。ゾーイには、ここで守りをお願いしたいわ」
「いや、アテナ様。そうではなくてですね。あれを見てください」
ゾーイはそう言って、少し離れた荒地を指さした。あれ? 人影がいくつか動いている。
ルシエルはそれを見て大笑い。
「はっはっはっはっは。どうやら、先にオレ達のキャンプ地がバレちまったようだな! こうなったら、逃がせないよな! 行って取っ捕まえてやるしかねー、いくぞノエル!!」
「あ、こら! ちょっと待ちなさいルシエル!!」
叫んだけど遅かった。ルシエルとノエルは、向こうに見える人影を目指して駆ける。
まいったなー。このヘーデル荒野には、危険な魔物だっているし、敵はなにもモラッタさん達だけじゃない。私まで追っていったらキャンプが心配だし……でも止めないと。実際に対決するのは、明後日からって決まっているから、それまで相手に危害を加えようものなら私達の反則負けになってしまう。
「アテナ様。キャンプは私にお任せを」
「そう。お願いできる? ゾーイ!」
ゾーイは頷いてくれた。
「ルキアもここに残ってくれる?」
「解りました。ここは任せてください」
「うん、お願いね」
キャンプにエスメラルダ王妃とクロエとカルビ、そしてその守りにゾーイとルキアを残した。
そして、おそらくモラッタさん達の放った偵察部隊なんだろうけど、私はそれに向かっていくルシエルとノエルの後を追って行った。
「あーー。もう、あんなところまで行ってるー。ノエルは兎も角、ルシエルの足の速さは本当に凄いな」
距離をどんどん詰めていく2人。あっという間に追いついたと思った所で、あの見つけた人影の1人にルシエルが飛び掛かった。




