第1120話 『スナネコスライダー』
私とルキアは、たまたま見つけたスナネコを追いかけていた。
「そっち行った、ルキア!! 捕まえて!!」
「は、はい! きゃああっ!」
捕まえる事ができる。そう思った刹那、スナネコは方向転換して私と対局にいるルキアの方へと逃げた。ルキアは、スナネコを捕まえようと両手を広げて迫る。
ニャッ!
「あっ、ちょっと待って!」
ルキアをすり抜けてスナネコは、更に向こうへと駆け抜けていく。いくら小さくてすばしっこい猫だと言っても、ルキアのスピードから逃げ切るなんてなかなかやる。でも、私には作戦があった。
スナネコが迫り来るルキアに気を奪わていた間に、私はスナネコが逃げるだろう方向を予想してそっちへと予め移動して待ち構えていた。すると読みが的中。ルキアに追われたスナネコがこちらに駆けてきたので、私は身構えて跳んだ。
「やああっ! ったあああ!!」
ニャッ!
私が先回りしている事に気づいたスナネコは、驚いて一瞬身体を硬直させる。そこを狙ってキャッチ。どうにかスナネコを捕まえる事ができた。
「やった!! 捕まえたよ、ルキア!!」
「わあーー、やりましたねアテナ!!」
あれ? おかしいな。
私達の目的ってこの子を捕まえる事だったっけ? あれれ……当初の目的って、この子の後を追っていけば、運が良ければ私達を水場に連れて行ってもらえるかもしれない。だから追跡してみようって、そういう流れだったと思うけれど……
スナネコの予想以上の可愛さもあってか、ついハッスルして気が付けば捕まえてしまっていた。
私はスナネコをキャッチして、地面に転がる。そこら中に岩があるので、あやまって身体が打ち付けられないようにスナネコを抱きしめて守った。
そしてまるで馬車から投げ出されたような勢いで転がった先で、地面が抜けた。
ズボオオッ!!
「きゃああああ!!」
「アテナ!!」
「地面が!! 駄目、ルキア!! こっちに来ちゃ!!」
遅かった。ううん、私がここに落ちると決まった所で、ルキアの行動は既に決定されていたのかもしれない。こっちに来ちゃ駄目だと伝えたのに、地面が抜けて私がその中に落ちると、ルキアはこっちへと跳んで私を助けようとして、私の腕を掴んだ。
「アテナーー!! きゃあああ!!」
駄目だ。ルキアの腕力じゃ、とても私を引き上げられない。かと言って、もうルキアも引き返せない。
こうなったら、もう仕方がない。一緒に下へ落ちるしかない。だけどルキアは、今私のマントを身に着けている。このマントは、衝撃耐性などの効果もあるので、ここから岩などに身体を打ち付けられる事があっても、ある程度のダメージは軽減されるはず。
「ルキア、こっちへ!!」
「はい!!」
ルキアの手を掴んで、自分の方へと引っ張った。私とルキアの身体が密着すると、お互いに合わせた胸の辺りからスナネコが顔を出した。私はスナネコごと、ルキアを抱きしめる。
ザアアアアアアア!!
崩れた地面の下は、砂になっていた。大きな穴に砂が流れ込む。私とルキア、そしてスナネコをも呑みこんでいく。一瞬、生き埋めになるかもとかも思ったけれど、それならそれで防御魔法の【全方位型魔法防壁】を発動すれば、とりあえずは助かるはず。
でもどのタイミングで使用するか。考えていると、私達はどんどん崩れた地面の大穴の中へと落ちて行った。
落下というより、滑り落ちている。地面の中に埋まっていた岩に身体を打ち付けられる。痛いっ! でも大丈夫。ルキアとスナネコは、無傷だから。
そのまま穴道のような場所へ押し流されて、今度はそこをスライダーさながらに滑り落ちた。私の腕の中には、ルキアとスナネコ。2人とも、目を瞑って叫んでいる。
ニャアアアアア!!
「アテナ!! アテナーーー!!」
「大丈夫!! 大丈夫よ!! ルキアの事は絶対に私が守るから!!」
「こ、怖い!! アテナ、私とても怖いです!!」
「大丈夫、でも砂が目に入るかもしれないから、そのまま暫く目を閉じていて!!」
シャアアアアアアアア!!
ズボオオッ!!
…………
スライダーさながらに滑り落ちらその先、私達が滑り通っていた穴道から、いきなり何処かへ放りだされる。空洞。穴から放り出された私は、ルキアをしっかりと抱きしめた。
バシャアアアアアン!!
「あぷっ……あぷっ……」
「み、水!? ルキア、大丈夫?」
大きな空洞に飛び落ちた私達を待っていたのは、大量の水だった。そこは、地中に湧く泉だった。
「アテナ……」
「フフフ、びっくりしたよね」
「……はい。びっくりしました」
ルキアもようやく安心して緊張が解けたのか、表情に笑みが戻った。
「ここは、どうやら地中にある、泉のようね」
「はい。私達が探していた、水のある場所ですよね」
「そうね。でも出入口を見つけないとね。ここで水を汲むにしても、それを私達のキャンプまで運べない事には仕方がないしね」
「はい。でもそれなら、向こう出入り口があるかもですよ」
ルキアの指した先を見ると、この空洞に灯りがほんのりと差し込んできている。
「どうりで、こんな地中でもルキアの顔がはっきりと見えると思った。それじゃ、向こうまでこのまま泳いで行って、外に出てみようか」
「はい」
空洞に差し込んできている灯りは、太陽の光。つまり、スナネコを追いかけまわしている間に、陽が登って朝になったんだ。
泉の中で身体の力を抜いて、ちょっと仰向けになって漂ってみる。岩の天井。「あっ!」っというルキアの声に振り向くと、岸の方へと泳いでいくスナネコの後ろ姿が目に入った。
ピチャピチャと一生懸命泳いでいく、スナネコ。後ろ頭が、めちゃくちゃ可愛い……




