第112話 『ガンロックフェス その2』
私達のステージライブは、大盛り上がりを見せた。身体中、汗でビショビショになりながらも、踊って歌った。そして熱唱してしまった。
皆本気になって練習したけど、その時間は僅か一日半程。間違えなく付け焼刃な感じだけど、それでも3曲全て上手くいった。もしかしたら、私達アイドルの才能もあるのかもしれない。
――いや、私は生粋のキャンパーだった。頭を振って、アイドルの才能なんてもの共々振り払った。
私達がステージを降りた後も、ミシェルとエレファは引き続きメイド達の演奏で、ライブを続けていた。なので、私達もその衣装のままだけど、ステージ下で二人のライブを楽しんだ。
「当たり前ですけど、やっぱり歌も踊りも上手ですね」
「ミシェルもエレファももっと幼いころから、音楽に興味がって続けているって言っていたもんね。ルキアも、実は冒険者じゃなくてこういうアイドルとかに、憧れるんじゃない?」
「はい。衣装もなんだかフリフリしてて可愛いですし、凄く興味はあります。でも、私はどちらかと言われればやっぱり、アテナ達やルシエル、カルビと一緒に冒険やキャンプをして、世界中を見て回りたいです」
私は、ウフフフっと笑ってルキアの頭を撫でた。そして、その横でルシエルが知らないおじさんを投げ飛ばしているのを目にして声をあげて驚いた。ちょっと目を放しているうちに、いったい何があった? もしかして、ライブで熱狂してとかじゃないよね?
「いったいどうしたの? ルシエル?」
「いや、このおじさんが後ろからいきなりオレのスカートを掴んでめくりあげたもんだから、びっくりして反撃してしまってな。ははは」
どうやらそのおじさんは酔っ払っていて、前列でライブを楽しんでいるルシエルのヒラヒラした可愛いスカートが目に入り、出来心でめくりあげたらしい。確かにミニスカートだし、こんな可愛い衣装でウロウロしていたら……って考えると、おじさんの気持ちも少しは…………
「許してください!! ほんの出来心じゃったんじゃーー!!」
ミシェルのライブが行われているステージの脇にいた、王国警護兵がわらわらと出てきてその酔っ払いおじさんを拘束した。ルシエルが慌てて駆け寄った。
「まてまてまて。もう謝っているじゃないか。もういいだろ? いきなりで驚いたとはいえ、オレも反撃して投げ飛ばしちゃったからな。もう、許してやってくれないか」
「うう……なんて優しいエルフさんやー。お嬢ちゃん……ありがとうーー」
おじさんがルシエルの手を握った。何度も頷くルシエル。その光景を見て、なんだかなあって思ってルキアに目をやると、そこには祈るように両手を組んで、瞳を潤ませて感動している猫娘の姿があった。
ひと騒動あったが、そういうのはお祭りにはつきもの。私達は再びミシェルとエレファのライブを楽しもうと、ステージの方を振り向いた。すると、むこうでも何か騒ぎが起きている事に気づいた。
「きゃああああ!!」
「やめろー!! またおまえらか!!」
ステージの方で、エレファの悲鳴とミシェルの叫び声が聞こえた。走る。
ステージに駆け寄ると、楽器演奏をしていたメイド達が倒れている。周りにいた警護兵もみんな地面に転がっていた。
「きゃああああ!! 助けてーーー!!」
再びエレファの声。ルシエルがそちらの方を指した。
「アテナ!! あそこだ!! ミシェルもエレファもあの男達に攫われている!!」
見ると、何十人もの男達が二人を縄で縛って、担ぎ上げて逃げ去ろうとしている。
「一昨日、ミシェルを襲ったやつらよ。間違えない、ちょび髭の男もいる! ルシエル、ルキア! やつらの後を追いましょ!!」
「おう! 任せろ!」
「わかりました!」
私達は、その男達を追いかけた。沢山の人で混雑するライブフェス。一度でも、見失えばもうミシェルとエレファを取り返すことはできないかもしれない。そう思いながら無我夢中で人混みをかき分けて後を追う。
「すいません!! 道を開けて下さい!! すいません!! 緊急事態なんですー!!」
追いかけていると、ちょび髭の男が私達の存在に気づいた。
「あーーー!! あいつら、あの女、一昨日私の邪魔をしてくれた不届きものでございますよ!! このままだと、また邪魔されるでございますよ!! おまえら行って、足止めするでございますよ!!」
ちょび髭の命令で一斉に5人が、踵を返してこちらに向かってきた。手には、ナイフや三日月刀。
人混みの中で、あまり武器を振り回したくない。私は、ルシエルに合図を送る。向かって来る男達の攻撃をかわし、懐に入り込んで背負い投げた。ルシエルも、相手の腹部に膝蹴りを打ち込んで一人倒した。
「ルシエルとルキアは、先にミシェル達の後を追って!! ここは、私に任せて!」
ルシエルは、頷くとルキアを連れて他の3人の男達の攻撃をかわすと、後を追いかけた。私はその隙を突いて、更に一人に距離を詰めて足を払って転ばすと同時に、鳩尾に肘を打ち込んだ。
その場はすっかり騒ぎになって、野次馬だらけになっていた。そりゃそうだよね。こんなアイドル衣装の娘と盗賊みたいな男達が戦っているなんて、かなり人目を引く。恥ずかしいし、さっさと片付けて後を追わないと。
残る二人の男は、共にナイフを構え、同時に突っ込んできた。初撃を素早く避けると、ナイフを握って突き出してきた腕を狙って攻撃。その手からナイフをはたき落とし、蹴飛ばした。もう一人の男もナイフを手に、私目がけて振ってくる。その動きは単調。
タイミングを見計らって、男がナイフを持つ手を捻じりあげて懐に潜り込むと、勢いよく腰を跳ね上げた。――男が悲鳴と共に宙に舞う。
もう一人の男がそれを見て怯んだので、一気に距離を詰めてその男も一本背負いで投げ飛ばした。周囲に群がる野次馬達から歓声があがった。
「アテナちゃーーん!! 最高だ!!」
「こっち向いてよ! アテナちゃん!」
あれ? どうして私の名前が……そうか! ステージライブした時に、メンバー紹介でミシェルが……
なるほど。私達のライブを見てくれたお客さん達だ。
「アハハハハ。ありがと、みんなありがとねーー!!」
頭を摩って、照れつつも手を振った。
ダメだ! 着替えないと目立ちすぎる! でも今はそんな事を言っていられないよ。急がないと。
私は、自分に向けられる大勢の人の声援に戸惑いながらも、ミシェル達の後を追いかけた。
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〚下記備考欄〛
〇出来心のおじさん 種別:ヒューム
出来心だったんじゃー。そんなん言うなら、はじめからやらなければいい。ルシエルの大きく優しい対応で、おじさんは気持ちを改めた。
〇アテナのファン
すっかり、アテナにも皆にも熱烈なファンができてしまった。しかし、お忍びで旅を続ける王女アテナにとってはありがたいけれど複雑な心境なのかもしれない。




