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第1118話 『荒野探索 その2』



 ルキアが岩山の頂上まで登り切るまで、さほど時間はかからなかった。到達すると、頂きに立ち上がって周囲を眺めていた。私はそんな彼女に向かって、大きな声で呼びかけた。



「どうーー、ルキアーー!! 何か見えるーーー?」


「ちょーーっと待ってくださーーーい!!」



 ルキアはそう言って、片手を額の辺りに当てると、周囲を大きく見渡し始めた。


 いくらヘーデル荒野が、小さめの荒野だと言っても荒野は荒野。荒野と呼ばれている以上、私達人間にとっては、そのエルアを端から端まで移動するのには、かなりの時間と体力を要するくらいの広さと距離はある。


 だから今ルキアが見渡してくれているけれど、辺り一面荒れた大地と岩ばかりが見えているはず。でもトリスタン・ストラム卿がこの場所を対決場所として選んでいるという事は、キャンプはできる場所でもあるという事だった。


 さっきは、遠目にブラックバイソンみたいな魔物を見た。他にもチラチラと狩って食糧にできそうな生き物も見つけたけれど、水だってきっとあるはず。でなきゃ、そういう私が見た生物だって、生きてはいけないはずだから。そういう何か、気配がある場所をルキアが見つけてくれれば――



「あっ!!」


「どうしたの、ルキア!! 何か見つけた?」


「えっと! はい、ちょっと待っていてください!!」



 ルキアはそう言うと、てっぺんまでよじ登った岩山からまた私が待つ下へと降り始めた。見上げると、ルキアがどんどんと降りてくる。万が一、手足を滑らせて落ちてくるような事があれば、確実にキャッチできるように、彼女が下に到達するまで両手をフリーにしてじっと身構える。


 そうこうしていると、中腹まで降りてきてそこから岩山の4分の1位の場所までは、あっという間だった。そしてルキアは、思い切って跳んだので、私は邪魔にならないように避けた。見事に着地。建物で言えば2階より少し高い位だったんだけど、流石は猫の獣人というだけあって、身のこなしはピカイチだった。



「それで、降りてきたって事は何か見えたって事なんだよね?」


「はい。普通の動物か、それとも魔物かは解りませんが、見えました」


「ど、動物!?」



 あれ? 何か奇妙な大きな岩があるとか、沢山の岩が重なり合っていて洞穴になっている場所があったとか、小さいけど木々が生い茂っている所を見つけたとか、もっと欲を言うと水の流れている場所を見つけたとか……そういうのを期待していたんだけど……ど、動物かあ……



「アテナ?」


「え? あ、うん。それで、ルキア。どんな動物を見つけたの?」


「はい。遠目なので、動物なのか魔物かは解りませんけど、確かに動いている子がいました」


「子?」


「はい。カルビより小さく見えたので。犬か猫系の魔物か動物だと思います」



 犬か猫系の……か。なるほど。っていう事は、きっと哺乳類だよね。



「いいね、その子のいた場所を教えてくれる? 上手に追跡できれば、もしかしたら水場まで案内してくれるかもしれないよ」



 ルキアは、ポンと手を叩く。



「あっ、なるほど。動物とか魔物が生息しているって事は、その子が飲んでいる水場が近くにあるって事ですよね」


「うん。さっき見えたブラックバイソンのような生き物。ああいうのは、餌や水場を求めて荒野を大きく群れで移動していたりするけれど、もしも犬とか猫系の動物とかならナワバリを作ってそこで生息している事が多いし、ちっちゃいなら尚更、荒野をあっちへこっちへと大移動しているとは考えにくいもんね」


「なら、私達を水場まで導いてくれるかもしれませんね。その子はあっちです、アテナ。あっちに見えました!」


「よーーし、じゃあまずその子を見つけて、後を追ってみようか」


「はい」



 まだ薄暗い早朝の荒野。私とルキアは、2人だけでキャンプを抜けると、水場や食糧の調達ができるいい場所はないかと、周辺を探索する。


 そしてとても大きな岩場の頂きから、辺りを眺める。すると何か生き物をルキアが見つけたので、そっちの方へと行ってみた。


 足音や気配は、できる限り消して。相手が犬や猫系の動物……もしくは魔物なら、その聴覚や嗅覚は私達人間よりも遥かに優れているだろうし……もっと言うと、もう既に私とルキアは見つかってしまっているだろう。

 

 でも、そろりと近づいていく事には、意味がある。わざわざ大きな音を出して、周囲を威圧して辺りを騒がせる必要は何もないからね。脅かさなければ、わりと近くまで接近させてくれるかもしれない。


 ルキアが指し示した方へと荒野を移動していると、少しブルルと寒気がした。荒野の風は冷たい。それに私のマントは、今はルキアに貸しちゃっているからね。


 よし、次に何処かのタイミングでルキアには、私がいい感じのマントを探してプレゼントしよう。


 平たい大きな岩。そこを迂回していると、ルキアの頭の上にある、あの可愛い三角の耳がピクピクと動いた。



「近くにいます」


「っていう事は、この平たい岩の周辺ってことね」


「捕まえるつもりなんですか?」


「え?」



 うーーーん、考えていなかった。だけど私はその子を見ていないし、ルキアから話を聞いているだけだから、なんとなくこういう動物かもしれないなーっとか、憶測程度しか解らない。


 ルキアの口ぶりや様子から、可愛い生き物なんじゃないかって位は感じているけど、安全なものなのか危険なものなのかまでは、まだ解らない。



「とりあえず、遠目から観察しようか。それで、何処かへ行こうとしたら追跡する。きっと私達の事は既に気づいていると思うから、相手を必要以上に刺激しないようにしてこちらは無害アピールをしていこう」


「はい、解りました」



 ルキアは返事して、またそろりと歩き出した。そして直ぐに足を止めると、身を屈めたので私も同じようにした。


 ルキアの指先の向こう。前方に、何かがいた。

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