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第1115話 『軽く見てまわる』



 キャンプから私1人抜け出すと、早速荒野へ足を踏み出した。


 辺りは薄暗く、まだ夜中と言ってもよかった。時折吹く風が、冷たい。これは荒野や砂漠特有の温度変化で、昼間は暑く夜は寒かったりする。


 私がいつも身に着けているマントは、かなり価値のあるもので特殊な効果がある。その中には、耐熱耐寒などの特性があって、こうやって羽織っているだけでも寒さや暑さから身を守ってくれるのだ。っていっても軽減しているだけで、完全にシャットダウンしている訳ではないし、顔とか腕とか足とか露出している部分は、その効果も薄い。



「よいしょっと!」



 助走をつけて、思い切り跳躍。近くにあった岩の上に飛び乗ると、辺りを見渡した。


 こっちは私達のキャンプから北側に位置する場所で、私達がやってきたパスキア王国の王都があった方とは反対側になる。ここから西の方へずーーっと向かえばドルガンド帝国があって、更にずーーっと北に直進すればこのヨルメニア大陸の北国と呼ばれるエリアに入る。『最北の地(ノルド)』だっけ?


 何処までも続くような荒野を眺めながら、深呼吸をする。



「ふうーーー、なんかアレだな。こういう場所を見ると、本当にガンロック王国を旅した時の事を思い出すなー。ナジームやミシェル、それにエレファも元気かな。またガンロックフェスに行きたいなー。色々な人の音楽ライブを見て聴いて、参加もまたできたらいいなー」



 荒野の遥か向こうに、何かの群れが駆けていくのが見えた。なんだろう、牛みたいに見える。まだ辺りが暗いからそう見えるだけかもしれないけれど、色は黒く見える。もしかして、ブラックバイソンの群れかもしれない。


 なるほど、ああいうのがこの辺に生息しているとなると、狩りをすれば上質なお肉も手に入る。そうすれば、ルシエルも満足してくれるかもしれない。流石に昨晩の食事は、パンと豆のスープだけだったからルシエルも悲しい顔をしていたけど、お肉が手に入ると解れば元気がでるかもね。



「他にも何か、獲物が見つかるかもしれない。なにせ、この場所を対決の場に選んだのはあのトリスタン・ストラムだからね。もっと調べてみようかな。それに、水も見つけておかないと。よっと!」



 乗っていた岩から飛び降りた。着地する時に、スカートがめくれ上がったけれど特に気にもしない。だってここには、今は私以外誰もいないから……なーーんて言ったら、王族としてもっとおしとやかに!! とか言って爺とか、怒るんだろうな。クスクスと笑ってしまう。


 あまりキャンプから離れすぎてしまわないように、辺りを調査した。何かないかなー。何処かに水を調達できる場所があれば、せせらぎとか何かそういう水の音がするはずだもんね。聞き逃さないよういしないと。注意深く辺りを観察する。


 また暫く歩いていると、枯れた木を見つける。近づいて行って、その木に触れてみた。



「よく燃えそうな木。もしかして、こっち側に水源とかそういうのはないのかなー」



 そんな事を呟き、木に触れていると後ろから声がした。



「アテナ?」


「ひっ!」



 誰もいないと思っていたので、ちょっと驚いてほんの少しだけど跳び上がってしまった。振り返る。可愛い、猫耳少女。



「ルキア!」


「す、すいません。驚かせてしまいましたか?」


「え? ううん、大丈夫だよ。でもどうしたの?」


「アテナこそ、どうしたのかと思いまして。目が覚めたら、いなかったので……それで、テントを出てみたらこっちへ1人で歩いていくアテナが見えたので、どうしたのかなって思って」



 そう、実は私は昨日、ルキアと同じテントで寝た。


 クロエとカルビは、エスメラルダ王妃のテントで眠っていたし、ルシエルとノエルも2人で一つのテントを使っていた。


 ゾーイは、1人。そして私は自分のテントでルキアと一緒に昨日は眠ったんだけど……起きるとルキアは気持ちよさそうな顔でまだ眠っていた。だからそっとして、おいてきた。


 でもルキアはあの後に起きてしまって、隣に私がいない事を確認するとテントの外へ出て追ってきてしまったみたい。


 また風が吹いた。するとルキアは、目を細めてブルルと身体を震わせた。



「朝の荒野は寒いでしょ」


「はい、ガンロック王国を旅した時を思い出しました。でもガンロックフェスは、荒野の真ん中で開催されましたけど、物凄い数の人と熱気で、早朝や夜でもそれ程寒くはなかった気がします」


「そうね。ライブステージや沢山のテントもあったし、それが風避けにもなっていたからね。それはそうと……ルキア。テントに戻ってもう少し眠ったらどう? 今日は8時から対決の開始(スタート)らしいし、トリスタン・ストラム卿の企画する事だから、何を仕掛けてくるか解らないよ。だから休める時に休んでいた方がいいと思うけど」


「もう十分に休みました。だから大丈夫です。それよりアテナは、何をしていたんですか? 何かするなら、私もお手伝いしたいです」



 まん丸の目で迫ってくるルキア。もう完全に起きちゃっているなら、しょうがないか。



「水のある場所は、何処かなーとか探っているだけだから、少ししたら直ぐ戻るよ」


「はい、でも一緒に行きたいです。駄目ですか?」


「うーーん、じゃあ一緒に行こうか」


「はい!」



 ちょっとその辺を歩いて軽く探索するつもりだったけど、ルキアはそれについて行くってなっただけで満面の笑みを浮かべた。でもその後に、直ぐにまた寒さで身を震わせる。


 私はあははと笑うと、羽織っている自分のマントを外してルキアにそっと着せた。



「え? え?」


「このマントは、大事なものだから、いくらルキアにでもあげられないけど……貸す事はできるから。陽が出てくるまで貸してあげる」


「え? え? でもそうしたら、アテナは……」


「大丈夫。私は慣れているからね」



 私のマント。ルキアに羽織らせてみると、結構似合っている。フフフ、凄く可愛い。


 さて、向こうの方に大きな岩山があるけれど、あの辺も見てみようかな。

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