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第1113話 『ひもじー』



 食材は豊富にあった。


 だけど物資を用意したゾルバが、こういうキャンプなどにあまり詳しくないのか、消費期限の短い食材なども多くあった。


 いや、ゾルバだって騎士団なのだから訓練なんかで、食糧の調達や有事の際の輸送物資に関する事など最低限の知識はあるはず。だとしたら、エスメラルダ王妃が適当に用意しなさいと事前に言ったものを、そのまま馬鹿正直に準備して持ってきたのかもしれない。


 でも、ここに食糧と水が今あるだけでも、とてもありがたい事なのでいいんだけれど……そうじゃないかなーって考えてしまう。


 まあ兎にも角にもおかげさまで、今晩の皆のご飯は用意する事ができた訳だしね。


 パンと豆のスープが、早速木箱に入っているのを見つけたのでそれから頂く事にした。それにどちらも、この荒野の環境下では傷みやすい。


 ルシエルが熾してくれた焚火を全員で囲む。その周りをまだ途中だけど、ノエルが岩を運んできて積み上げて配置し、風除けを作ってくれた。彼女は、まだこれは完成していないと言ったけれど、これがあるだけでかなり居心地の良さがアップしていた。


 そして驚くことも一つ。エスメラルダ王妃は、絶対に私達と一緒に食事をとらないと思っていたんだけど、それは違った。私達と一緒にここで火を囲み、クロエの隣でパンとスープを味わっている。そんな彼女にゾーイが話しかける。



「エスメラルダ様、お口に合いますでしょうか?」


「正直に言いますと、とても味気ないですね。パンもスープも王宮で出されているものに比べて、とてもグレードは低いものです。これがまた朝、昼、晩と何日か続くとなると、うんざりしますね」


  …………



 エスメラルダ王妃の性格は、もう皆だいたい理解し始めていた。だからゾーイの言葉に、こんな感じで返すというのは解り切っていたんだけど……彼女が言った事も一理あるなと全員が思っている。


 ルシエルが器に残った豆のスープ、最後をズズズと音をたてて飲み干すと、私の方を恨めしそうに見つめた。



「アテナよーい」


「はーい、なに?」


「力がでないよー」


「仕方がないでしょ。でもパンとスープだけでもあるだけ、ゾルバとエスメラルダ王妃には感謝しないと」


「でも、こんなんじゃ力がでないんだよーー」


「じゃあ、何もない方が良かった? そう考えたら、パンとスープがあるなんてご馳走じゃない。ね、ルキア、クロエ」


「はい、そうですね。お豆さんのスープは、昔カルミア村でもよく飲んでいて、お母さんが私とリアに作ってくれました。このスープのお豆さんは、それとは種類は違いますけど……でもお母さんがよく、お豆さんは沢山栄養が入っているって教えてくれました」


「わ、わたしもお母さんが作ってくれたりしました。食べていたパンがこんなにいいパンじゃなくて、凄く硬かったんですけど……スープにつけて食べると、美味しく食べられるんです」


「そ、そうなんだ。私はそれほど豆のスープに対しては、あまり思い出はないんだけど……でも美味しいよね」


『はい!』



 ルキアとクロエは、やっぱりいい子だ。何を出しても、文句も言わずに美味しく食べてくれる。だけどこのエルフは……



「ひもじいよー、アテナー。そういや、ラプトルの肉が……」


「あれは、まだダメ。そんな一度に食べてたら、全部なくなっちゃう! ちょっと、マントを掴まないでよ! 足りないっていうなら、木箱にまだパンとスープがあるわよ。それを、お代わりすればいいんじゃない?」


「ええーー、もうパンとお豆のスープはいいよー。それよりも、もっとジューシーな奴が食べたいよー。うーんと力が出る奴。何とはハッキリとは言わねーけど、肉とか肉とかよー」


「……確かに一理あるな」



 横でノエルがそう呟いたのが聞こえた。そうだよね、皆食べ盛りだもんね。この位じゃ味気ないし、満足できないか。


 私だってそう。だけどもとから旅やキャンプ、冒険が大好きな私はそういうパンとかスープ、干し肉とかちょっとしがんでそれで我慢するっていうのも、それはそれで時には必要だと思っている。


 ……あれ? あっ! そうだ。あれがあるじゃない!



「ルシエル!」


「おうん?」


「干し肉! 干し肉ならあるから、それをしがんでいたらいいんじゃない?」


「しがむって、あのなー。だから、もっとジューシーなやーつがいいんだよー。肉汁たっぷり、デュワデュワってやーつがよー」


「デュワデュワってのが、ちょっとよく解らないけど我慢しなさい」


「ええーーー、アテナだってもっとちゃんとした肉が食べたいだろー。それにほら」



 ルシエルは、ルキアとクロエ、それにカルビに目をやった。



「なんといっても食べ盛りの小粒ちゃん達には、ちゃんと栄養を与えないといけねーよな」


「小粒ちゃんじゃ、ないですよ!!」


「お前は小粒ちゃんだ、ルキア!! ワッハッハッハ!!」


「っもう、小粒ちゃんっていう人が小粒ちゃんなんですよ!! だから、ルシエルが小粒ちゃんなんです!!」


「おーおー、むきになりなさって! これは、自分が小粒ちゃんと認めているようなものですな。ぐはは」


「っもーー、ルシエルったらーー!!」


「やめろ、ルキア!! こら、くすぐったい!!」



 確かにルシエルの言う事も一理ある。


 それにどちらにしても、水の調達は余儀なくされる。ゾルバは、とりあえずそれなりの水を持ってきてはくれているけれど、明日になれば日中、きっとこの荒野は炎天下になる。そしたら、飲み水を何処かで探さないと今ある水は、暑さできっと駄目になる。干し肉のような保存食は兎も角、パンとかそういうのだって例外じゃないだろうし。


 よし、明日は朝8時から対決開始だったわね。


 ちょっと早く起きて、水と食料が調達できないかここの周辺を見てまわろうかな。トリスタン・ストラム卿の事だから、私達が今それに気づけないでいるだけで、こんな荒野でもこの周辺でそれらの水や食糧の調達はできるはずだと私は思っている。

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