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第1112話 『ヘーデル荒野にてキャンプ』



 ヘーデル荒野にトリスタン・ストラムが設置したという旗。なんとか、対決が始る前にそこへ辿り着く事はできたけれど、すっかりと夜になってしまっていた。



「ううう……腹減ったよー、アテナー」



 ルシエルが泣きついてきたので、押して向こうにやった。



「とりあえず、食糧と水の調達をしないとね。あと流石、荒野っていうか夜になるとかなり肌寒くなってきたから、薪も拾ってこないと」



 ここへ来る途中に、枯木や枯草は見てきた。探せば焚火の燃料は見つかる。だけどそうなると、一番の問題は水……


 トリスタン・ストラムという人は、対決云々の前に無理な戦いを強いる人には見えなかったし、勝負とか決闘とかそういうのには極めて公平を貫くタイプには見えた。そんな人が、この場所に旗を刺して私達のベースに決めたのだから、ここは私とモラッタさん達との対決に相応しい場所に違いない。


 だとすれば、ちゃんと辺りを調べて観察すれば、一見荒地が広がっているだけに見える場所でも、食糧や水の確保ができるはず。それにそういう対決であれば、モラッタさん達がどんな助っ人を引き連れてくるのかは解らないけれど、こういう事が専門である私の方が有利に決まっている。


 そんな事をあれこれと考えていると、目の前を何か食べながら歩いていく長髪のエルフが見えた。



「モッチャモッチャモッチャ……」


「ちょ、ちょっとルシエル、それ!」


「モッチャモッチャ……ん? ああ、この干し肉か。ノエルも食べているぜ」



 目をやると、ノエルも食べていた。え? 干し肉は確かに少し残っていたような気もするけど……そういう保存食は、もしも何かあった時の為に、後にとっておかないといけないのに。



「あん? ああ、もしかして食糧の心配してんのか。大丈夫、大丈夫。これは今、王妃様からもらったんだよな。なあ、王妃様」



 ルシエルの視線のその先に目を向けると、先ほどゾルバ達が現れて設営した大きなドーム状テントがあった。更にその隣には、沢山の積み上げられた木箱や樽。その一つが開かれていて、中に入っていた食糧をエスメラルダ王妃は、ルキアやクロエに配っていた。っていう事は、今ルシエルやノエルが食べている干し肉も彼女からもらったもの。



「冒険者如きがこのわたくしに、なんと慣れ慣れしい」


「いいじゃんかよ、そんなトゲトゲしなくてもよー。ここには、あんたの子分もそこの前髪パッツンしかいないだろ。それに何日か一緒するんじゃん。仲良くしよーぜ、な」


「前髪パッツンじゃない。ゾーイだ。ゾーイ・エル」


「はいはい、ゾーイちゃんね。オケ」



 エスメラルダ王妃とゾーイ。同時に2人をイラつかせるルシエル。だけどあの彼女から、ちゃっかりと干し肉をもらっているんだから、完全に嫌われているって訳でもないみたいね。もしくは、ルシエルが言ったように数日間は、ここで皆で一緒にキャンプする訳だから仕方なくって思っているのか。



「アテナ、こちらへ来なさい。食糧と水を分けてあげましょう」


「はい、ありがとうございます、エスメラルダ王妃。だけど、食糧は日持ちするものを後にして、悪くなりやすいものから先に消費しないと。今はかなり肌寒いけど日中、ここはもっと温度があがるから、食糧はあっという間に悪くなると思う。水も同様」


「そんなのは、解っています。じゃあ。いらないのですね」


「ちょ、ちょっと! いります、いります!」


「なんなのですか、まったく。あなたはまたわたくしの折角の行為に、砂をかけるような事を言って。そのくせ、もらうものはもらうというのですから」


「もーー、はいはい。別にそういうつもりじゃないんだけどなー」



 ルキアとクロエが、私とエスメラルダ王妃のやり取りを目にしてハラハラしている。だから2人と目があった私は、微笑みで返した。するとほっとしたルキアが、「大丈夫だよ」とクロエに言って聞かせた。


 するといきなり荒野に風が吹いた。まさか、また砂嵐……って一瞬思ったけれど、どうやら普通に風が吹いただけみたい。だけどかなり、冷たい風。ルシエルとノエルが、こっちへ来る。



「寒いよ、寒いよー。火を焚こうぜ、アテナ。もう夜だし、かなり冷えるよ。お腹も減ったよ」


「え? あなた、さっき干し肉食べてなかったっけ?」


「無視しろ、そのエルフは。それより、対決は明日の朝だ。旗を守る事もできるし、風よけにもなる。あたしは、ちょっとそこらへんに転がっている岩をここへ運んできて、積んで壁にしようと思うんだが……どうだ?」


「うん、そうね。じゃあルシエルは焚火を熾して。って言っても今から薪拾いはアレだし、ゾルバ達が持ってきた物資の中に薪もあったはずだから、それを使って。ノエルは、じゃあ壁を作る作業をお願い。でも無理はしないで、ほどほどでいいからね」


「うっしゃ、任せろい」


「よし、解った」



 ルシエルとノエル。それぞれ作業にとりかかると、私はその辺を徘徊していたカルビを捕まえて抱き上げる。そしてクロエの方へ行くと、彼女へカルビを預けた。



「グ、グーレス! 暖かい……」


 ワウー。


「フフフ、カルビを抱いていれば暖かいでしょ。クロエは、ここでカルビと一緒にエスメラルダ王妃といて欲しいんだけど、お願いできるかな?」


「え? はい。解りました」



 ゾーイに視線を送る。



「見張りは、私がします」


「あはは、ゾーイ。いつも通り、普通に喋ってくれてていいよ。一応、私はお城の外じゃ冒険者をやっていたりだし、その方がお忍び的に都合がいいから」


「…………」


「それじゃ、ルキア。私達は、皆の食事の用意を始めようか」


「はい、解りました」



 もちろん、食事の材料はゾルバが持ってきてくれた物資から拝借する。エスメラルダ王妃には、一応料理をするのでもらいますねーって了解を得たんだけど、彼女はつまらなそうな顔をして、自分の大きなテントの中へ入って行った。


 クロエが心配そうな顔をしたので、私はお願いと手を合わせて言うと、クロエはにっこりと笑ってエスメラルダ王妃の後を追ってテントの中へと入って行った。


 もちろん、クロエはカルビを抱いたままだったので、この後すぐにエスメラルダ王妃が悲鳴をあげないかなと思ったんだけど、彼女のテントからは、特にそういう声は聞こえてはこなかった。

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