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第1111話 『エスメラルダのテント設営』



 ゾーイの記憶は、ばっちりだった。


 無事に岩の迷路を抜けて、その先にある広大な拓けた荒野に出る事ができた。ヘーデル荒野の北側に位置する場所。痩せた大地で、ひび割れた土に枯れた草、あちらこちらにあるゴツゴツとした岩や岩山。


 見事な程、典型的な荒地。そこにポツンとパスキア王国の紋章の入った旗が、立っていた。


 私達は早速そこへ向かい、旗の前まで行くとそれを確かめた。ノエルも一緒に旗を触って確かめる。



「随分としっかり地面に突き刺さっているな。よく見れば、突き刺さっている場所は、土ではなくて岩だ。地中に岩が埋まっていて、そこにこの旗が突き刺さっているんだな。まさかあのおっさん、力付くで旗を刺したんじゃ……」


「本当ね。でもこれからモラッタさん達と行われる勝負は、この旗の奪い合いだもんね。相手の旗を破壊しても勝ちになるらしいから、こうやって硬いところにしっかりと突き立ててあるのも当然かもしれないわね」



 私とノエルの間に、ルキアが顔を挟んできた。



「あの、それじゃとりあえず旗を守らないといけないですよね。ここにテントを設営しますか」


「うん、そうね。ここだね」



 こんな事ならカミュウと行ったあのキャンプ専門店で、新しいテントを調達しておくんだった。でもそれも今更だよね。あるものを使う。それもまたアウトドアの楽しみ方の一つだったりもする訳だし。


 そうよね。いいわ、こうなったら今あるもので勝負するから。


 まずはテント。私のものと、ルシエルが持っているもので2つ。あと……ゾーイの背負っている荷物に目を向けた。大きさから言って、食べ物や着替え位しか入ってなさそうで期待薄だけど……それでも一応、僅かな望みをかけて聞いてみる。



「ゾーイ、それは?」


「それとは?」


「荷物よ荷物。あなたの持っている荷物。もしかしてあなた、テントや毛布もある?」


「残念ながら、持ってはおりません」


「やっぱり……」


「それが、何か問題でしょうか?」


「問題でしょ。一応、こっちには普通サイズのテントと、大きめのテントがあるわ。でも2つしかないから、このどちらかのテントで、全員寝るとなるとちょっと厳しいなあと思って」



 特にエスメラルダ王妃は、私達と一緒に同じテントで寝たがらないかもしれないし……それでも仕方がないでしょって言っても、眠れないとか言い出しそう。


 今日みたいにいい天気の夜なら、私は別にテントがなくても野宿で眠る事はできるけど……このヘーデル荒野はいきなり強烈な砂嵐が吹くみたいだし……やっぱりテントは必要になるよね。


 ノエルが言った。



「それならいい考えがあるぞ」


「いい考え? なにそれ?」


「そこらじゅうに岩が転がっているだろ。あれをここへ運んで来て積み重ねれば、ちょっとしたシェルターになるんじゃないか。よく見れば平たい板型の岩とか色々と形も豊富にあるみたいだしな」


「うーーん、確かに岩でシェルターを作れば砂嵐も防ぐ事ができそうだし、いいと思うけれど……でも岩って見た目以上に重いんだよ。シェルターを作る位の数の岩を誰がどうやって、ここまで運ぶの?」


「それは問題ない。あたしが運ぶ」



 ノエルはそう言って、可愛い力こぶを見せつけた。そうだった。ノエルは、こう見えてとんでもない怪力の持ち主だった。確かにノエルなら、この辺にある岩を容易に運んできて、積み重ねる事もできる。そうすれば、旗を守るという事に関しても、有利になる。



「そ、そうね、ノエルなら運べるよね」


「私もノエルのお手伝いをします!」


「わ、わたしも」



 ルキアとクロエが手を挙げて言った。



「はいはい、でも岩は相当に重いからね。2人には、テントを設営したり他の事をお願いしようかな」


『はい!』



 よーし、やる事が決まって来た。ルキアとクロエが、私とルシエルが持っていたテントを出して設営し始めた。私はエスメラルダ王妃の方を向いて言った。



「今なら、まだ王都へ引き返せるけど……」


「既に言いました。わたくしは、戻りません。この第二回戦の対決には、参加します。そう決めたのです」


「それなら、皆と一緒にテントを使ってもらう」


「わたくしがですか? まさか」


「そりゃそうでしょ。だって、テントは私とルシエルが持っているテント2つしかないんだもの。皆だって、協力して一緒に使うんだから、その点は十分に理解をして……」


「その必要はありません」


「はあ? それじゃ、今日は何処で寝るつもりなの?」



 エスメラルダ王妃は、辺りに広がっている荒野の向こうを指して言った。



「ですから、その心配はないのです。ほら、やっと来たようです」


「え? 何が来たの?」



 遠くに見える馬郡。数十頭の馬と、馬車がこちらへ近づいてきていた。そしてどんどんこちらへ迫ってくると、それが誰だか解った。



「エスメラルダ王妃。只今、ご所望のものを全て調達して参りましたぞ」


「そうですか。タイミング的には、丁度ですね。それでは、早速この辺りにテントを設営なさい」


「御意!!」



 髭面に、肥った身体。いやらしい笑み。そして対照的に、アスリートのように身体中の筋肉が引き締まっている副官。



「おお、これはこれはアテナ王女殿下。調子はどうですかな?」



 鎖鉄球騎士団団長のゾルバ・ガゲーロと、副官ガイ・メッシャー。2人は、同じ騎士団であるゾーイにチラリと目配せした後、私に近づいてきた。他の騎士団員は、エスメラルダ王妃の命令通りにいそいそとテントなど設営を始めている。



「これはどういう事かしら、ゾルバ」


「どういう事も何も、我々はエスメラルダ王妃の為にキャンプを設営に参ったのでございすよ」


「私達は自分でやるつもりだから」


「ええ、存じております。ですから、我々が設営するのは、王妃の為のものだけにございます。アテナ王女殿下とそのお仲間の分は、何も用意してはおりませんのでご安心を」


「ああ、そう! ならいいけど」



 相変わらずの態度。ゾルバは、クラインベルト王国に忠誠を誓っているというよりは、やっぱりヴァレスティナ公国に身を置いている。そういう感じが見え見えに伝わってきた。でもそれは、以前から解り切っていた事だしお父様も知っている。


 ゾルバ配下全員でエスメラルダ王妃のテントの設営を行ったので、あっという間にその作業は終わってしまった。


 だだっ広い荒野に、とてもリッチで大型のドーム状テントが出来上がった。


 ふう、どうやらエスメラルダ王妃の心配はするだけ無駄だったみたい。ちゃっかりちゃんと、テントの準備もしていたなんて。



「なかなかいいテントですね、ゾルバ。これなら快適に過ごせそうです」


「はっ! あちらに食糧や水などもご用意しておりますので。ですがこの辺りは、日中は高温になったりもするようですので、水と食料の管理はきちんと……」


「解っています。もう、用が住んだのなら王都へ戻りなさい。また必要があれば呼びます」


「は、はっ!」



 ゾルバ達は、エスメラルダ王妃のテントの設営と物資だけ置いて、直ぐに王都へと引き返して行った。

 

 対決が始まるのは、明日の朝8時からだから、それまではゾルバがこうやって助けに来ても何も問題はないという訳なんだけど……なんというか、なんともエスメラルダ王妃らしいと言うかなんというか……

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