第1110話 『二人の道案内』(▼アテナpart)
先行して旗を探しに行ってくれていたルシエルとゾーイが、無事に戻って来た。ルキアが最初に2人の姿を捉えた。
「アテナ、2人が帰って来ましたよ!! しかもルシエルが、手を振って嬉しそうにしています。もしかして、旗を見つけたのかもしれないです」
「ホントに⁉ あっ、本当だ、笑ってる。あれは、旗を見つけたに違いないね」
「アテナよーーい!! 旗を見つけたぞーーい!!」
「フフ、ほら、やっぱり!」
再び合流。
やはり旗は、ヘーデル荒野の北側にあったらしい。
早速私達は、ルシエルとゾーイに道案内を頼んで、旗のある場所へと連れて行ってもらった。辺りはもう暗くなって、時間帯も夜になってしまっていた。だけどここは荒野で見渡しは良好。天気もいいからか、月明りだけでも周囲の様子はそれなりに見る事ができた。
岩山と言ってもいい程の大きな岩。それがあちこちに無数にあるエリアまで来たところで、ルシエルが足を止めて言った。
「ふう、ようやく着いた」
「え? この沢山岩があるエリアの何処かに旗が立っているの?」
「うんにゃ」
「違うの?」
ルシエルは、この目の前に広がる岩が沢山あるエリアの、そのまた向こうを指さした。
「このエリアを超えた先に旗があるんだな」
「本当に?」
「オレの事が信じられねーってーーのかい?」
「あはは、ううん、そんな事はないんだけれどね。でも、そーなるとここの岩が沢山あるゾーンを抜けて行かなくちゃならないのかなって思って」
「まあ、そうなるな。でもそれが何か問題か?」
「え? だって、クロエやエスメラルダ王妃もいるんだよ。カルビだってそうだし、岩を登る事になったら、大変だよ」
「それなら問題はねーよ。岩が連なっている箇所は所々にあるけど、ちょっと遠回りにはなるが岩をよじ登らずに回り込めば、大抵は先へ進めそうだったからよ」
「全部じゃないでしょ」
「じゃあ、ここのエリアを避けて大きく迂回して旗のもとへ行くかー?」
岩が沢山あるエリアは、目の前に大きく広がっている。ここを避けて迂回して先に進む事もできるけど、確かにかなりの遠回りになる。それだったら、岩が沢山あるエリアを突き抜けた方が、得策かな。もう時間も夜になっちゃっているしね。
「解った。それじゃ、ここを抜けて行こう。皆、それでいい?」
ルキア、ノエル、クロエ、そしてエスメラルダ王妃の代わりにゾーイが頷いた。
「それじゃ、行く道も決まったし、先へ進むわよ。でも何があるか解らないし、もう暗くもなっちゃっているから、警戒して進もうね」
「ういっす!」
「はい!」
「解った」
ルシエル、ルキア、ノエルが返事をしてくれる。私は、ルシエルの肩をポンと叩いて先頭に立った。
「それじゃ、道を案内してルシエル。旗のあった方は覚えているわよね」
「ああ、もちろんだ。まっかせなさーい」
「お願いね。それじゃ、ノエルとルキアは、後方をお願い。列の真ん中はエスメラルダ王妃とゾーイ、続いてクロエとカルビでついて来てね」
「わ、わかりました」
ワウッ。
「了解」
今度はクロエとカルビ、ゾーイが返事をした。エスメラルダ王妃とクロエの事がやっぱりちょっと心配だけど、先頭は私とルシエルがいるし、後方にはノエルとルキアがいるからこれで安心できる。
岩の沢山あるエリア、そこへどんどんと足を踏み入れていく。周囲には大きな岩が沢山あって、影になっている部分も多々あるけども、それでも月明りでそれなりには見えるので懐中灯は必要ないなと思った。
「あれ? 大きな岩の前に出ちゃった。ルシエル、どっちに行けばいい?」
「うーーん、そうねえ。じゃあ、こっちかな?」
「あのね、本当にこっちで大丈夫なの?」
「う、うん。大丈夫だよ、大丈夫。オレの第六感がそう告げてやがるってばよ!」
「もう、本当かな……」
行き止まり……
ルシエルの指し示した方へ向かった先は、大きな岩に囲まれた袋小路みたいな場所だった。この岩をよじ登れば先へは進めるんだろうけど、クロエやエスメラルダ王妃はちょっと無理かもしれない。
まあ、それでも先に私やルシエル、ノエルが上にあがって他の者を引きあげればいいんだろうけど、エスメラルダ王妃はきっと嫌だって言いそうだし。
「ちょっとルシエル。本当に覚えているの?」
「あれー、あれー、おっかしーーなーー」
首を傾げて、唸り声を出すルシエルを、後ろから厳しい目で睨みつけるエスメラルダ王妃。
「ちょっと、あなた。しっかりしなさい! 本当にこの岩の迷路から外へ出る事ができるのですか?」
「えーー、いやーー、一応ゾーイと一緒に最初にここに来た時は、あの大きな岩の上に登って全体を見たんだけどなー」
「全体って、それ程の大きさならやっぱり迂回して先へ進んだ方が良かったんじゃないの?」
「いえ、全体は見ていません。この辺りの全体を見たって事っス」
これはもう駄目だ。ルシエルは、なんとなくという適当な感じで先へ進んでいる。それでもこのまま進めば、そのうち旗の方へ出る事ができるかもしれないけど、運が悪ければ知らない間に逆へ進んでいて、またもといた場所へ戻ってきてしまっていましたって可能性もありうる。
エスメラルダ王妃は、一応反省してシュンとしているルシエルに見下すような視線を向けると大きく溜息を吐いて、次にゾーイに目を向けた。
「ゾーイ」
「はっ!」
「あなたも旗の位置を確認しているのですよね。わたくし達をそこへ案内する事はできますか」
「できます」
ゾーイの即答を聞いて、ズッコケる私。ノリでなのか、ルシエルも一緒にどさくさに紛れてズッコケているけど、こんな事なら最初からゾーイに案内してもらったら良かったんじゃないの。
って今更言ってもしょうがないか。
私達は、今度はゾーイを先頭にしてこの岩の迷路を先へと進んだ。




