第111話 『ガンロックフェス その1』
――――ついに世界最大の音楽祭、ガンロックフェスが開催された。ヘルツの話では、今年の参加者は400人以上、それを見に来る入場者数は4万人を超えるという。本当に凄い。
私達は、フェスが開催されるという場所――――王都から、5キロ程離れた場所にある荒野を目指した。そこに向かうまでにもう、フェス目的の為に移動する多くの人達を見かけたので、同じような景色が広がる荒野でも目的地まで全く迷う事はなかった。
因みにヘルツは私達とは別行動で、すでに一緒にフェスへ参加するメンバーと行動を共にしている。。私達は、フェスが開催される3日間をそこで過ごすつもりなので、まず到着したらキャンプの設営場所を探さなければならない。
「ついたーーー!! ここだね! ここで、開催するんだね!」
「物凄い人たちですね! もうすでに、その辺で演奏し始めている人達もいますね」
「そんな事よりアテナ、ルキア!! あれを見ろ!!」
ルシエルが指をさした方を見ると、その先に露店がたくさん並んでいる。いくつものステージが設営されている。お客さんもすでに、いっぱいいて本当にお祭りなんだと思った。ガンロックフェスがこんな凄い所だなんて、可能ならばルーニも連れてきてあげたかった。そしたらどんなに喜んだだろう。
「よし! じゃあ、オレはちょっと偵察してくる!」
何処かへ行こうとしたルシエルの襟首を掴んだ。
「ダーメ。それは明日にして! まずテント設営して、それができたらミシェルとエレファに会いに行かないと。先に来ているって言っていたから」
「でも、ステージは夜からですよね」
「そうだけど、ルキアも不安でしょ? 私達は、昨日今日で練習して、こんな大きなイベントに参加しようとしているんだから。少しでも練習しておかないとね」
「確かに言われてみれば……そうですね! はい、私もアテナの意見に賛成です」
元気よく返事するルキアの横で、ルシエルはこっちを向いて手を擦り合わせていた。
「頼む! 後生じゃ!! 頼むから、あそこで売っているフランクフルトとヤキソバを買って来ていいか? そしたら、ちゃんとミシェルんところ行って、練習するから!」
うーん。買いに行かせた方が、その後ちゃんと集中するかな。私はルシエルに「はいはい」っていう感じで手を振った。
辺りは荒野が広がっている。周囲には、参加者やそれを見に来た人たちのテントが散らばっている。そこから少し離れた所に大きな岩がいくつかある場所があったので、その辺りにテントを張った。
テントを張ると、カルビがその中に入って出てこなくなった。覗いて見ると、丸くなって眠りだした。どうやら寝不足みたい。ルキアがテントの中を覗き込む。
「ねえ、カルビ! 一緒にいかないの?」
ワウーー
「いいんじゃない、ルキア。カルビには、留守番してもらおうよ」
「うーーん、そうですね。じゃあ、行ってくるね、カルビ」
ワウッ
手に色々食べ物を抱えたルシエルが戻ると、私たちはミシェルとエレファがいると聞いていたガンロック王国の紋章の入ったプレハブ小屋へ向かった。
荒野にプレハブ小屋ってって思ったけど、確かにあった。即席で作った感じはあるけれど、流石王女様。こんなものを作ってしまうなんて。ルシエルがそれを見て言った。
「アテナも王女なのに、テントだもんなー。ミシェルって凄いな」
「コラっ! 私はむしろテントでいいの! キャンパーなんだから。むこうは、ここがホームだし、王女殿下が二人もいるんだもんね。そりゃリッチになるよ」
そんな会話をしていると、声が聞こえたのかプレハブ小屋からガンロック王国の王女二人が姿を現した。
「あーー!! やっときたーー!! じゃあ、早速中に入って衣装に着替えてくれるかな?」
「ええ! もう着替えるの?」
「オレもあれ着るんだよな。あれで歩き回るなんて恥ずかしいぞ」
「わ……私は、着たいです……」
うーーん、ルキアがそう言うならしょうがない。ステージまではまだ時間がかなりあるけど、慣れておくと考えればいいか。私達はその衣装に着替えた。そして、歌とダンスの、最後の練習をした。
途中、ルシエルとルキアが露店に買い出しに出かけたが、なかなか帰ってこないという事が起きた。何かあったのかもしれない。私とミシェルとエレファで二人を探しに行くと、ルシエルとルキアが物凄い人だかりに囲まれていた。
「可愛いーー!!」
「君たち、何処のステージに出るの?」
囲んでいる人たちに色々と尋ねられている。あの衣装で出かけて行ったから……
気が付くと、私達にも人だかりが集まりだしたので、ルシエルとルキアを連れてすぐにミシェルのプレハブ小屋へ逃げ帰った。
「いやーーー、まいった! どうやら、オレはチャンピオンだけではなく、アイドルとしての素質もあるようだぞ」
「はいはい。自分で、そういう事を言わなければ人気がでるかもねー」
そう言ってルシエルをあしらうと、ミシェルやエレファが笑った。
――――そうこうしているうちに、いよいよステージの時間になった。準備を整えて全員でプレハブ小屋を出てステージに向かうと、もう辺りは暗くなっており、周囲のあちらこちらにあるステージでライブが開催されていた。ふと、何処かのステージでヘルツの方も、もうライブを開催しているかもしれないと思った。
私たちの専用ステージに行くと、すでにギターやベース、ドラムなどがスタンバイされていた。ギターやベース、それに歌をうたう為に使用するマイクは、アンプという魔石を利用した音量増幅器に接続することによって演奏する音や声が大音量で周囲に響きわたる仕組みらしい。
しかも、演奏するのはガンロック城で顔を合わせたメイド達。す……すごい。かっこいい! うちも、セシリアならお願いすればすぐにマスターして、何か楽器をやってくれるかもしれない。今度、お願いしてみようかな。
ミシェル、エレファ、私、ルキア、ルシエル。5人ともステージにあがると、それを見た人達がガヤガヤと期待に満ちた表情で集まって来た。ミシェルがマイクを手に取り、声をあげた。
「みなさーーーん!! こんばんは!! 私たちは、5人組ガンロックアイドルグループ! ワンダーデイズです!!」
ええええ!! ワンダーデイズ⁉ なにそれ? そう言えば、このグループの名前を聞いてなかったけど、そんな名前だったんだ。ルシエルが、肘でつついてきた。
「きょ……今日だけの活動グループだよな……?」
「そ……そのはずだよ……」
ミシェルが身を乗り出した!!
「じゃあ、早速一曲目!! いってみよーーかあっ!!」
私たちのステージライブが始まった。夜が更ける程に、盛り上がる熱狂。あちこちから鳴りやまない音楽。打ちあがる花火。この日、この荒野一帯は4万人以上の大興奮に包まれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄〛
〇プレハブ小屋 種別:ロケーション
仮設式の小屋。小屋を組み立てる為の柱やら板やらがもう部品ごとに作られている為、建てたい場所にさっと部品を運んで直ぐに組み立てられる。ミシェル達が使用しているのは、軽量の金属製のものだが木製でも、結構なお値段がする。
〇ワンダーデイズ
ミシェルとエレファが考えたアイドルグループの名前。ミシェルが勝手に言ったガンロックアイドルグループとは、ガンロックとロックミュージックとアイドルをかけて言っている。普段はミシェルとエレファがメインで歌い、演奏を専属の王宮メイド達が行っている。しかし、今回は新メンバーのアテナ、ルシエル、ルキアが加わった。新生ワンダーデイズ。




