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第1108話 『そんな目で見んといて!』



 ゾーイの背後に回り、彼女の背にナイフを突きつける。するとゾーイは、すかさず身体を傾けてナイフの先端から逃げると、同時に後ろ蹴りを放ってきた。



 ドカッ!!


「うぐあっ!!」



 咄嗟にガードするも、その上から思い切り蹴り込まれて吹き飛ばされる。地面に落ちた所から後転して、その先で両手を地について宙に跳ね上がる。クルクルッと回転して、華麗に着地した。



「ゾーイ。なかなか、やるじゃねーか」


「それはこちらのセリフだ、ルシエル。だがこのまま続ければ、私の勝ちだ。無理をせずに精霊魔法を使ったらどうだ?」


「アッハッハッハッハ。精霊魔法を使えだって? そんなの必要ないね。お前が使うなら、オレも使ってやってもいいが、そうでないなら必要はない。ほら、かかってこいよ。魔法なんて使わずに勝負してやっからよ」



 そう言って手招きをして見せると、ゾーイは鎖鉄球をヒュンヒュンとまた回し始めた。こいつの鉄球の一撃はかなり重い。ナイフや矢じゃ、本気のこいつの攻撃はとても跳ね返せないだろうな。


 だから手に持っていたナイフをしまい、弓を背負う。代わりに太刀『土風(つちかぜ)』を抜いた。これなら、あの鉄球も十分に弾く事ができる。


 ゾーイがニヤリと不敵に笑った。鎖鉄球は、相変わらずヒュンヒョンと音を立てて回転している。



「何が可笑しいんだよ」


「そんな太刀で、私のこの鉄球を弾き返せると本気で思っているのか?」


「本気で思っているけど、それがどうした!」


「もう理解はしていると思っていたが、そうではないらしいな。私の鉄球は、縦横無尽に飛び交って正確にお前を攻撃するぞ。既に立証済みだがその威力も、木製の盾位なら簡単に真っ二つにする」


「だから? それがどうしたってんだよ? あたらなければ、どうってことはないだろ」


「はっ! 強がらないで精霊魔法を使っておけばいいものを」


「だーかーらー、使う必要がねーのよ。それより、やるんだったらつべこべ言わずにさっさとかかってこいってんだよ! 相手をしてやるからよ!」


「相手? ガンロック王国での借り。お前もこの私と決着をつけたがっていたと思っていたがな」


「決着と言われれば、確かにアレだけどよ。なんか、こういうのは気が進まないんだよな」


「気が進まない?」


「解んないよ。でもなんか、違うなーって思うんだよ。それでも降りかかる火の粉は払うけどな。火傷すんのも嫌だし」


 ヒュンヒュンヒュンヒュン。


「…………」


「あれ? どうしたんだよ」


「うるさい、もういい」



 ゾーイはそう言って、回転させていた鎖鉄球を止めると腰に吊った。そして広い荒野を見渡した。



「おーーい、勝負はもういいのか? もういいなら、武器をしまっちゃうけど?」


「勝負はお預けだ。エスメラルダ様もアテナ様も待っておられるしな。私達は私達のやるべき事を遂行する。旗を見つけるぞ」


「なんだー、そっかー! じゃあ、もう武器は必要ないな。しまっちゃおーっと」



 太刀『土風』を、腰に吊っている鞘に収めると、ゾーイの方へ駆けていって彼女の肩に手を回した。顔を近づける。



「なんだ、お前は!! 離れろ、暑苦しい!!」


「えーー、そんなんゆーーなーー。オレ達、今は仲間だろー? しかも数日間一緒にいる訳だし、もっと仲良くしよーぜ、なあ」


「うるさい、離れろ! 鬱陶しい!」



 本当に嫌そうな顔で、身体を押されて拒絶された。


 なんだよ、なんだよ。まったくよー。こんなかわゆいハイエルフのルシエルちゃんが、抱き着いてサービスしてやってんのに、なんてつれないんだよ。価値の解らない、仕方のない奴だなー。


 でもゾーイは、もうオレに再び牙を剥いてくる事はなかった。少なくとも、今はない。


 オレ達は、再びアテナ達といた場所から更に北へと歩を進める。


 ヘーデル荒野の大地は凄く荒れていて、本当にガンロック王国を旅した時の事を思い出した。だからゾーイも、あの時の事を強く思い出してしまって、こんな気持ちになったのかもしれない。


 所々に草木が生えている場所もあるが、そのほとんどが茶色。枯れている。更に岩の方が多かった。前に進んでいると、大きな地割れのような谷もあって、そこを飛び越えて先に進んだ。すると今度は、無数の大きな岩がある場所へとやってきた。


 ここまで何か喋りかけても、ひたすらオレをシカトして、黙々と目的地を目指して歩いていた流石のゾーイも、これにはやっと口を開いた。



「なんだここは。岩ばかりじゃないか。こんな所を先へ進むのか」


「仕方ないよなー。だってもしかしたら、このエリアに旗があるかもしれないんだからよー。行くしかないっしょ」


「そう言っても、真っすぐは進めないぞ。でかい岩が、あちこちにある」


「なら、でかい岩はよじ登ってこえるしかないんじゃないか」


「お前はいいだろ。その気になれば、得意の風属性魔法で空を飛べるんだろ?」


「いや、それがその魔法はオレ、覚えてないんだよねー。あははは」


「…………」


「ヒンっ。そんな目で見んといて!」



 岩の沢山あるエリアに足を踏み入れる。


 いくつか回り込める岩があったので、そこはそうして先へ進んでいると、回り込む事ができない、横に連なっている大きな岩が目前に現れた。


 ゾーイを見ると、じっと岩を見つめている。この岩を登るとなると、面倒くさいとかそういう事を考えているのだろーか。まあ、いいや。先に進まねーと、先には進まないんだからな。


 オレは、実に当たり前の事を考えながら、目前の大きな岩に抱き着いてよじ登り始めた。

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