表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1107/1344

第1107話 『鉄球再び』



 ブッヒイイイ!!

 

 グシャアッ!!


 ドサッ!


 最後のオークに狙いをつけようとした所で、先にゾーイが鎖鉄球を放ち、その残るオークの頭部を砕いた。オークは、白目をむいて前のめりに倒れた。周囲には、全部で9匹の絶命したオークが転がっている。



「お前は、本当に馬鹿なのか?」


「こら! 人様に向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿! そんな言い方をするなよ!」


「忍び寄って奇襲を仕掛ければ、もっと簡単にやれたものを」


「それだと、このオーク共がもしも善良なオークだった場合に、すんげー後味の悪い事になっちゃうだろー!!」


「オークに、いいオークなんている訳がないだろ。なんて、浅はかな奴だ」


「浅はかってゆーーーなああっ!!」



 周囲には、無造作に転がる9匹のオークの死体。その中で、オレとゾーイは怒鳴り合っていた。いや、怒鳴っていたのはオレだけかもしんない。


 オークが狂暴なのは知っているし、ゴブリンだって基本的には残酷な性格をしていて、人間と打ち解ける事がないのは知っている。そんなん既に知っている。だけど、あの渓流釣りをした時に出会った3匹のコボルト師匠もそうだし、アテナだってリザードマンと仲良くなっていた。確かギーっていう名前のリザードマン。



「結果的にこのオーク共は、話の解らない悪い奴らだったけど……それでも、最初からそう決めつけるのはアレだろ! よくないだろーが!」


「よくない? 何がよくない。お前には相手を計る事もできないのか? 友好的なオークなどいると思っているのか? いるなら、何処にいる。教えてくれ」


「そ、そりゃ見た事はないけどよ、いるかもしれねーじゃんかよ」


「いない」


「だ、だって……そうだ! リザードマン、いんじゃん! リザードマンは、とても残忍で恐ろしい魔物だろーがよ」


「それがどうした」


「アテナは、そのリザードマンと仲良くなったぞ。しかもボスクラスの奴とだぞ」


「嘘だな。戯言だ。人間とリザードマンが打ち解けられる訳がない」


「嘘じゃねーぞ!! ほんとだぞ、とんとにアテナはリザードマンと仲良くなったんだよ!!」



 腕を振り上げて飛び跳ねて抗議する。するとゾーイは、鎖鉄球を手に持ちクルクルと回転させ始めた。



「私はそんなくだらない嘘話など、どうだっていい」


「くだらなくはないぞ。嘘でもない! だって、もし仲良くできるオークと知り合えたら、すんげー面白いだろーがよ」


「面白い?」


「そうだよ」


「ルシエル」


「はい!」


「アテナ様の強さはとうぜん知ってはいたが、ガンロック王国でお前達と戦った時、お前がアテナ様に匹敵する強さを持っていると知り、胸が熱くなった」


「そうか。なら、遠慮なくもっと胸を熱くしていいぞ」



 ゾーイのオレを見る顔は、無表情だった。そして鎖鉄球を更にブンブンと回転させる。



「もしかしたら、買い被っていたかもしれない」


「そんな事はないぞ。ルシエルちゃんは、皆のアイドルだし、常に周囲に素敵を振り撒いて生きているんだぞ」


「……もう一度、確かめてみれば解る事か……」


「あれ? ぜんぜんオレの話を聞いてねえ」


「そう言えば、あのガンロック王国での勝負の決着も、そのままついていないしな。アテナ様とは、再び刃を交えるなんてことは、少し立場的にも難しいし……でもお前となら別に……」


 フォンフォンフォンフォン。



 なんか、嫌な予感がする。グルグルと回転するゾーイの持つ鎖鉄球。それをじっと見て、唾を呑みこむ。そして次の瞬間、鎖の音が止まったと思ったら、物凄い勢いで鉄球がオレの方へ飛んできた。



「うわああっ!! あぶねええ!!」



 咄嗟に避けると鉄球は、オレの顔面すれすれを飛んで行った。でもそれで終わりじゃないのは、既に知っている。ゾーイが飛ばした鉄球を、彼女は鎖を思い切り掴んで引き寄せた。今度は、鉄球が飛んで行った後方から戻ってくる。



「喰らえっ!!」


「喰らうかってんだ!! こんなもんまともに喰らったら、痛いじゃすまないだろ!!」


 ブウウンッ!!



 引っ張られて後方から飛んできた鉄球を避けると、ゾーイの目の前まで戻ったその鉄球を今度は思い切り蹴り飛ばす。彼女のレガースと鉄球の接触する金属音。鳴ったかと思ったら、鉄球がオレの腹にめり込んでいた。



 ドガアアッ!!


「うげーっ!!」


「やはり、買い被っていたか。ハイエルフと戦った事がなかったから、ガンロックで初めてお前を見た時は、その動きなどを見て驚いた……だが、この程度か」



 鉄球が深々とめり込んで、身体が崩れる。


 しかし正確には、鉄球がめり込んだのは、オレの身体ではなかった。ゾーイが戻って来た鉄球を蹴り込んで、またこちらに蹴とばしてくる事もオレは知っていた。というか、ガンロックでこいつと戦った時に、それも見た技だった。アテナが見事に喰らって、泣きそうな顔をしてちょーウケたのを思い出す。フヘヘ。


 そう、だからオレの腹に鉄球が命中する刹那、オレは近くに倒れていたオークの持っていたウッドシールドを拾って、それで鉄球を受けていた。ゾーイの放った鉄球の威力は、抜群。ウッドシールドは見事に割れて破損していた。だが、ダメージはしっかりと殺した。


 何事もない様子で立ち上がり、ゾーイと向き合うと、真っ二つになったウッドシールドを捨てて弓矢を構える。とびきり不適な笑みをぶつけてやる。



「へっへーん。残念ながら、この程度だ」


「くそっ!!」



 オレの構える矢の先端がゾーイをとらえると、彼女は思い切り鉄球をまた放ってきた。オレも弓を思い切り引き絞り、矢を放つ。


 矢と鉄球。正面からぶつかり合うと、宙にとんだ。そして矢が地に落ちる前に、オレは地面を思い切り蹴って持ち前のスピードで、ゾーイの背後に回り彼女にナイフを突きつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ