第1107話 『鉄球再び』
ブッヒイイイ!!
グシャアッ!!
ドサッ!
最後のオークに狙いをつけようとした所で、先にゾーイが鎖鉄球を放ち、その残るオークの頭部を砕いた。オークは、白目をむいて前のめりに倒れた。周囲には、全部で9匹の絶命したオークが転がっている。
「お前は、本当に馬鹿なのか?」
「こら! 人様に向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿! そんな言い方をするなよ!」
「忍び寄って奇襲を仕掛ければ、もっと簡単にやれたものを」
「それだと、このオーク共がもしも善良なオークだった場合に、すんげー後味の悪い事になっちゃうだろー!!」
「オークに、いいオークなんている訳がないだろ。なんて、浅はかな奴だ」
「浅はかってゆーーーなああっ!!」
周囲には、無造作に転がる9匹のオークの死体。その中で、オレとゾーイは怒鳴り合っていた。いや、怒鳴っていたのはオレだけかもしんない。
オークが狂暴なのは知っているし、ゴブリンだって基本的には残酷な性格をしていて、人間と打ち解ける事がないのは知っている。そんなん既に知っている。だけど、あの渓流釣りをした時に出会った3匹のコボルト師匠もそうだし、アテナだってリザードマンと仲良くなっていた。確かギーっていう名前のリザードマン。
「結果的にこのオーク共は、話の解らない悪い奴らだったけど……それでも、最初からそう決めつけるのはアレだろ! よくないだろーが!」
「よくない? 何がよくない。お前には相手を計る事もできないのか? 友好的なオークなどいると思っているのか? いるなら、何処にいる。教えてくれ」
「そ、そりゃ見た事はないけどよ、いるかもしれねーじゃんかよ」
「いない」
「だ、だって……そうだ! リザードマン、いんじゃん! リザードマンは、とても残忍で恐ろしい魔物だろーがよ」
「それがどうした」
「アテナは、そのリザードマンと仲良くなったぞ。しかもボスクラスの奴とだぞ」
「嘘だな。戯言だ。人間とリザードマンが打ち解けられる訳がない」
「嘘じゃねーぞ!! ほんとだぞ、とんとにアテナはリザードマンと仲良くなったんだよ!!」
腕を振り上げて飛び跳ねて抗議する。するとゾーイは、鎖鉄球を手に持ちクルクルと回転させ始めた。
「私はそんなくだらない嘘話など、どうだっていい」
「くだらなくはないぞ。嘘でもない! だって、もし仲良くできるオークと知り合えたら、すんげー面白いだろーがよ」
「面白い?」
「そうだよ」
「ルシエル」
「はい!」
「アテナ様の強さはとうぜん知ってはいたが、ガンロック王国でお前達と戦った時、お前がアテナ様に匹敵する強さを持っていると知り、胸が熱くなった」
「そうか。なら、遠慮なくもっと胸を熱くしていいぞ」
ゾーイのオレを見る顔は、無表情だった。そして鎖鉄球を更にブンブンと回転させる。
「もしかしたら、買い被っていたかもしれない」
「そんな事はないぞ。ルシエルちゃんは、皆のアイドルだし、常に周囲に素敵を振り撒いて生きているんだぞ」
「……もう一度、確かめてみれば解る事か……」
「あれ? ぜんぜんオレの話を聞いてねえ」
「そう言えば、あのガンロック王国での勝負の決着も、そのままついていないしな。アテナ様とは、再び刃を交えるなんてことは、少し立場的にも難しいし……でもお前となら別に……」
フォンフォンフォンフォン。
なんか、嫌な予感がする。グルグルと回転するゾーイの持つ鎖鉄球。それをじっと見て、唾を呑みこむ。そして次の瞬間、鎖の音が止まったと思ったら、物凄い勢いで鉄球がオレの方へ飛んできた。
「うわああっ!! あぶねええ!!」
咄嗟に避けると鉄球は、オレの顔面すれすれを飛んで行った。でもそれで終わりじゃないのは、既に知っている。ゾーイが飛ばした鉄球を、彼女は鎖を思い切り掴んで引き寄せた。今度は、鉄球が飛んで行った後方から戻ってくる。
「喰らえっ!!」
「喰らうかってんだ!! こんなもんまともに喰らったら、痛いじゃすまないだろ!!」
ブウウンッ!!
引っ張られて後方から飛んできた鉄球を避けると、ゾーイの目の前まで戻ったその鉄球を今度は思い切り蹴り飛ばす。彼女のレガースと鉄球の接触する金属音。鳴ったかと思ったら、鉄球がオレの腹にめり込んでいた。
ドガアアッ!!
「うげーっ!!」
「やはり、買い被っていたか。ハイエルフと戦った事がなかったから、ガンロックで初めてお前を見た時は、その動きなどを見て驚いた……だが、この程度か」
鉄球が深々とめり込んで、身体が崩れる。
しかし正確には、鉄球がめり込んだのは、オレの身体ではなかった。ゾーイが戻って来た鉄球を蹴り込んで、またこちらに蹴とばしてくる事もオレは知っていた。というか、ガンロックでこいつと戦った時に、それも見た技だった。アテナが見事に喰らって、泣きそうな顔をしてちょーウケたのを思い出す。フヘヘ。
そう、だからオレの腹に鉄球が命中する刹那、オレは近くに倒れていたオークの持っていたウッドシールドを拾って、それで鉄球を受けていた。ゾーイの放った鉄球の威力は、抜群。ウッドシールドは見事に割れて破損していた。だが、ダメージはしっかりと殺した。
何事もない様子で立ち上がり、ゾーイと向き合うと、真っ二つになったウッドシールドを捨てて弓矢を構える。とびきり不適な笑みをぶつけてやる。
「へっへーん。残念ながら、この程度だ」
「くそっ!!」
オレの構える矢の先端がゾーイをとらえると、彼女は思い切り鉄球をまた放ってきた。オレも弓を思い切り引き絞り、矢を放つ。
矢と鉄球。正面からぶつかり合うと、宙にとんだ。そして矢が地に落ちる前に、オレは地面を思い切り蹴って持ち前のスピードで、ゾーイの背後に回り彼女にナイフを突きつけた。




