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第1103話 『ラプトル その2』



 エスメラルダ王妃は、よじ登った岩の上で座り込んだまま、動けなくなってしまっていた。そう、疲労もあるけれど、それより恐怖が大きい。


 あれだけの恐ろしい魔物の群れに、物凄い勢いで襲い掛かられたのだ。普段から王宮暮らしが定番の彼女にとっては、当然の反応だろうと思った。でも怪我を負っている訳でもないし、直に動けるようになるだろう。今は、クロエがついてくれているし。


 ノエルとカルビは、周囲を警戒してくれている。


 その間……というか、エスメラルダ王妃が復活するまでの間と、この殺してしまったラプトルの死骸をそのままにしておくのもどうかと思って、倒したラプトルを1体1体調べて回っていた。そんな私を不思議に思ってか、ルキアが声をかけてきた。



「どうしたんですか、アテナ? もしかしてラプトルの死骸を埋めてあげるんですか?」


「ううん、そこまではしないよ。このままにしていても、この辺ならハイエナとか鳥とかが、ラプトルの死骸を食べに来るだろうし。放っておいても問題はないと思う」


「それじゃ……」


「えっと、ラプトルって魔物の事は以前から知ってはいたんだけど、見るのは初めてだったからさ。これからまだこのヘーデル荒野で過ごす事になるのなら、もう少し調べておこうかなって思ってね」


「確かにそうですね。私もアテナからもらった本を読んで、ラプトルの事は知っていました。だけど、見るのは初めてです。へえー、こうしてみるとやっぱり恐ろしいですね。物凄い爪です」


「だよねー。あと、もう一つ」


「はい」


「こんな事を言うと、ルキアにも食いしん坊って思われるかもしれないから、ちょっと恥ずかしいかもなんだけど……実はラプトルをこうして見ている理由なんだけど、食べられないかなーって思って」


「え? ラプトルのお肉をですか?」


「そう。私達は、このヘーデル荒野でこれから数日間、キャンプをする訳でしょ。キャンプするサイトの事もそうだけど、水の確保や食糧の調達の事は、とうぜん考えておかないと駄目だから」



 ルキアは可愛い小さな手で、ポンと叩いた。



「なるほど。確かにそうですね。そう言えば、ガンロック王国で倒して食べたファイヤーリザード。あの魔物のお肉で作ったカレーは、最高でしたもんね」


「凄く美味しかったよね。因みにカレーなら、スパイスはまだとってあるからできるよ。お米もいくらかは、ザックに入っているし」


「わーー、いいですね。解りました。それなら、ちょっと待ってください」



 ルキアはそう言って、いそいそと背負っていたザックを下におろし、その中をゴソゴソと漁り始めた。本。私がルキアに以前プレゼントした、様々な魔物が記された本。それを取りだして、ページをめくる。



「うーーん」


「どう? いい感じの事、書いてあった?」


「生体とか、他にも種類がいるみたいで、そういう情報は載っていますけど……」


「食べられるかどうかは、書いてないかー」


「はい……」



 暴力的なシルエットに、獲物を呑み込む裂けた大きな口。ギザギザに連なる牙。こんな魔物を食べようと思う人は、少ないのかもしれない。だから、本にもわざわざ載せていないのかもしれない。まあ、兎にも角にも書いてないものは、仕方がない。



「それじゃ、ルキア。ちょっと手伝ってくれる?」


「はい。食べるんですか?」


「そうね。でも内臓はやめておこうか。良質な感じの部分のお肉だけ、頂きましょ」


「はい」


「アテナ、あたしも手伝うけど」


「ノエルには、辺りを警戒していて欲しいんだけど」


「警戒しながら、肉の解体をやりゃいいんだろ?」


「そうね、だいぶ辺りも暗くなってきているし。早く旗を見つけて、キャンプを設営したいし……じゃあ、手早く済ませちゃおうか」


「おう、任せろ。肉を焼くのと、解体は結構得意なんだ」



 エスメラルダ王妃とクロエには、もう少し岩の上で待っていてもらう事にした。そして私達が解体作業に夢中になっている間に、またラプトルや別の魔物が忍び寄ってこられても怖いので、カルビにも周囲の警戒を頼んだ。


 カルビは、張り切ってテテテテと短い脚を回転させて、エスメラルダ王妃とクロエが乗っている大きな岩の周りを何周もして、辺りの様子に気を配っている。フフフ、可愛い警備隊。


 ルキアが破邪の短剣を使用しようとしたので、私は解体に使いやすいナイフを取り出して彼女に手渡した。ナイフと言っても、戦闘用、調理用、解体用、パンなどをスライスする用など、実に用途に合わせた様々な種類がある。



「ルキア、そのバーンからもらった破邪の短剣は、解体では使わない方がいいかな」


「え? あ、はい」


「凄くいいものだと思うから、それ。代わりにこのナイフをあげるから、使って」


「わー、ありがとうございます。いつもアテナがよく使っているナイフと違って、大きくて強そうなナイフですね」


「フフフ、いつも使っているのは果物ナイフで、それは解体専用のナイフだからね」



 因みにどちらも、エスカルテの街にあるミャオの店から購入したもの。


 ミャオは、元気かなーなんて唐突にミャオの事を思い浮かべてみる。



「それじゃ、解体スタート。ルキアもノエルも、気をつけて作業に入ってね。内臓は食べないって決めたから、傷はつけないように」


『はーーい』



 ラプトルの身体にスっと刃を入れると、綺麗な赤身が姿を現した。食べてみるまでは、なんとも言えないけれど……見る限りは、とても美味しそう。


 もしも食べられるお肉だったら、早速食糧ゲットってところだね。

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