第110話 『ミシェルとエレファ』
ミシェルと一緒にフェスに参加すると約束をして別れた後、私達はルシエル達と合流した。ヘルツの姿は無い。ヘルツは一緒にガンロックフェスに参加する仲間と、待ち合わせをしているらしく、そっちの方へ行ってしまった。フェス開催も、明後日――――練習もしておかなければならないだろうし、打ち合わせもしておかなければならないのだろう。当然と言えば、当然かな。
私達は、王都で必要な買い物を終えると、今日のところは宿へ泊った。どちらにしても、フェスが始まればその間は、荒野でキャンプをする事になる。それに歌や踊りなどを覚えなければならないらしいので、明日は一日ずっと稽古だ。ミシェルに会いに…………つまりお城へいかなければならない。もーー、本当に大変な事になってしまったよ。
「へえーー!! アテナとルキア、二人ともガンロックフェスに参加するんだなー! そいつは、楽しみだなー!」
「もーー、ルシエル! 他人事だと思ってーー」
「あれ? カルビ! 凄くいいものを付けてますね! これどうしたんですか?」
ワオンッ
ルキアの言葉を聞いて、カルビの方を振り向く。すると、カルビの首には、いくつもの宝石のような石が装飾された首輪がしてあった。光が当たると、綺麗に輝いた。ルシエルがくくくと笑う。
「魔装具だ。その宝石みたいなのは、魔石なんだぞ」
「どうしたの? これ?」
「オレが買ってやった。魔装具を装着していれば、一目で使い魔だってわかるからな。いちいち村や街で、会う人会う人にギョッとされる心配もなくなるしな。ヘルツに相談したら、そういうのが沢山揃っているいい店に連れて行ってもらったよ。それで、いいのを見つけたんだよ」
「そうなんだ! 凄く素敵!! カルビ、よく見せて! これは、本当にいいものだ」
「はい! ルシエルからの素敵な贈り物ですね。良かったね、カルビ!」
ワウンッ
カルビは、嬉しそうに吠えた。
翌朝、早速私達は宿を出ると、近くのお店で朝食を食べて、ミシェルとの約束を果たす為ガンロック城へ向かった。ルシエルも来たがったので、カルビも含めて連れて来た。
城門まで来ると、門番に説明した。「ここでお待ちください」と言われ、暫くしてミシェルともう一人、綺麗な顔の女の子が出迎えに現れた。
「待ってたわよー!! この子は私と一緒にフェスに参加する事になっている私の妹、エレファよ」
「エレファ・ガンロックです。この国の第二王女です。昨日、姉がアテナさんとルキアさんに助けて頂いた事を聞いております。ありがとうございました」
エレファは、ミシェルと同じくソバージュがかった長い髪をしていて、とても綺麗な顔をしていた。私がこんな事を言うと変だけど、まさしく王女様って感じがする。私は頭を摩りながらも、エレファに手を差し出した。
「いえいえ、こちらこそお茶をご馳走してもらったり、貴重な本まで頂いちゃって」
握手を交わすと、ミシェルがルシエルに喰いついてきた。
「なになに、この子!! エルフ⁉ すっごい綺麗なんだけど!! スタイルもいいし、金髪の長い綺麗な髪!! アテナ! この子、何処で見つけたの!!」
「こらこら――」
私はそう言って突っ込んだ。
「オレは、ルシエル・アルディノア。冒険者でアテナとルキアとは同じパーティーを組んで旅をしている」
ミシェルは、ルシエルの手をぎゅっと、強く握った。ルシエルは、驚いてそっと手を振り払おうとしたがミシェルは、そうさせない程の力でしっかりとルシエルの手を掴んでいた。
「お……おい? ミシェル? 手を放して欲しいんだが?」
「ダメ! そんな事より、ルシエルもフェスに強制参加だから!! 今日は、これから明日のフェスに向けて、練習室で猛特訓だからね。時間が惜しいから、すぐいくよ!! 皆ついてきてー!!」
「お…おいおい!! オレもフェスに出るって、オレは歌なんてうたえないぞ! アテナ! なんとかしろ!!」
私は、とりあえずルシエルの方を向いて悲しげな眼差しを送っておいた。こうなったら、一人でも多く巻き込んでやる。そうする事で、私の恥ずかしさは分散するはず。心の中に黒い渦が現れたようだった。ローザやミャオもいればなー。一瞬、ニャーニャー歌っているミャオを想像してしまい、笑ってしまった。
私達はミシェルとエレファに連れられて城内を歩いた。練習室に案内されると、メイドさんが私達の人数分の衣装を用意してくれた。ミシェルがパンパンっと手を叩く。
「さあ! 本番は明日だから、もうすぐ歌と踊りを覚えてもらうわよ!! 早速、衣装に着替えて準備して!!」
練習している間、メイドさんがカルビの相手をしてくれるとの事だったので預けた。中庭を散歩したりお菓子をもらえるみたい。食べすぎて、パツンパツンになって戻ってこなければいいけど。フフフ。
私とルキアとルシエルは、早速衣装に着替えた。そして、ミシェルとエレファの前に並ぶ。その光景にルシエルが叫んだ。
「なんじゃこりゃああああ!!!!」
ん? また何処かで聞いたプレーズ。
私が青、ルシエルが緑、ルキアが白、ミシェルが赤、エレファが黄色の衣装。これって……
「うふふふ! 皆、凄く似合っていて可愛いよー!!」
ノースリーブのシャツと、その上に着るベストには胸元に大きなリボン。そして可愛いフリルのミニスカート。顔を引きつらせながら、ミシェルとエレファの方を向いた。
「ろ……ロックバンドとかそーいうワイルドなのを、想像していたんだけど……」
「あっはっは! それだと、そんなに歌い手はいらないでしょ。私達は、アイドルよ!! アイドルユニット!!」
キメ顔のミシェル。ルシエルとルキアを見ると、確かに二人とも凄く可愛らしかった。こんな子たちがステージで歌ってダンスするなんて、確かにもうすんごいかもしれない。
でも、この荒野が延々と広がるガンロック王国の旅、最後の締めくくりが、フェスでアイドルとして参戦するなんて――――こんな事、誰も想像だにしなかったよ。リンド・バーロックも知ったらびっくりするだろうなと思った。
「皆!! それじゃあ、稽古を始めるわよ!!」
ミシェルがそう言って、手を叩くと練習室内にギターやドラムなど楽器を持った人たちが部屋へ入って来た。
私は不安と共に、自分の大好きなキャンプ用品がとびきり恋しくなった。
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〚下記備考欄〛
〇エレファ・ガンロック 種別:ヒューム
ガンロック王国の第二王女で、ミシェルの妹。姉と共に、音楽に興味があるようだ。
〇ミャオ・シルバーバイン 種別:獣人
猫の獣人で、エスカルテの街でお店を営んでいる。アテナの友人。ニャーニャーいう。
〇魔装具 種別:装備品
ガンロック王都にあるアクセサリーショップで、ルシエルがカルビに買ってあげた首にかける魔装具。魔石が施されていて、カルビの魔力を底上げする効果などがある。使い魔専用の装備品でもあるので、これを装備させることで他の者にも、一目でカルビが使い魔であると認識してもらえる。ルシエルはずっと旅の途中、カルビに似合うものを探していたようだが、やっとこの街で見つかったようだ。




