第11話 『街外キャンプ』 (▼アテナpart)
色々と店を回って、必要な物をひととおり買いそろえると、私たちはエスカルテの街を旅立った。
って、言ってももう夕方…………
陽は、落ちかけている。
ごく普通の一般的な冒険者であれば、この位の時間になってしまうと、街を出ずに宿をとって、ぐっすり休んで、明朝、旅立つのだろうが…………私たちは宿をとらずに街を出たのである。街近くに草原地帯が広がっている。今日の所は、そこにしよう。
冒険者でもあるが、生粋のキャンパーでもある私。フフフ。街で宿を取る位なら、街の近くでキャンプするのだ。
それに、早速テント専門店で買ってしまった新しいテントの具合も早く見てみたい。購入してからずっと使ってみたくてウズウズしている。
草原地帯に到着すると、まずは周辺に魔物が生息していないかを確認。ルシエルとローザも周囲を見回している。こういう時、人がいると目が増えていいね。
遠くに何か鹿のようなものは見えるが…………あれは、グレイトディアー? うん、特に問題はないようだ。
「それはそうと、ローザは私たちについて来ちゃって良かったの? 街の治安維持っていう、騎士団の任務遂行中だったんじゃないの?」
「はっ! 御心配ありがとう存じます。ですが、私の事は心配無用でございます。暫くは、ご同行させて下さい」
「う……うん」
暫くご同行するんだ…………まあ、いいけど、一緒にいた騎士団のドリスコ副長は街を出る寸前まで「ローザ隊長! 待って下さい!」とか叫んでいたけどね。
――――まあでも、隊長のローザがいいって言うならいいか。好きでついて来ている訳だし、どうしても戻らなければならない事があれば戻るでしょう。
「おい! ちょっと見てくれ! これでいいのか?」
早速、テントを設置しているルシエル。ルシエルのテントは、私が今まで使っていたのものだ。新しいテントを購入したから以前使っていたテントは、必要ないから処分しようかなって思ってたんだけど、ルシエルがテントもお金も持っていないとの事だったので、もし使うならとプレゼントしたのだ。私のおさがりではあるが、ルシエルは自分専用のテントが手に入った事に対して、凄く喜んでいる。ないよりは、よっぽどいいしね。
そう言えばそのテント――――ゴブリン襲撃の際に一部破損したが、ルシエルがこれから使うんだったらと、ダメもとでミャオの店に持って行ってみたら、銀貨1枚と大銅貨5枚で修理してもらえた。かなりお気に入りだったけど、もう十分長い間使用したし、破損した時点で処分するつもりだった。だから、まだこのテントが活躍できるのだと思うと、以前の持ち主としては、嬉しいかぎりだ。
ローザの方は、私がテント専門店でテント購入している際に、横で自腹購入していた。騎士団隊長ってそれなりに給料高そうだけどパっと見てテントを買えるなんて羨ましい。因みにローザのテントも自立式。私が購入したのと、私がルシエルにあげたテントと一緒で、袋から出して解くと簡単にテントが出来上がる便利な使用になっている。
そう言えばテント専門店で色々商品を見ていると、他にも設置するだけで魔物避けになるものや、設置すると使用者以外には発見されづらくなるステルステントなども売っていた。だけど完全に予算オーバーになる為買わなかった。
まあ魔物避けなんかは、聖水を撒けばいいしね。……それに私の中でのテント選びの注意点は、通気性や耐熱耐寒性、あと何といっても見た目かな。可愛いくて、愛着が持てるのがいいよね。それは、重要だな。
「アテナさ……テント設営完了です。聖水も周囲にまんべんなく撒いて焚火の準備も整いましてございます」
「ありがとーー。でも、ローザ……一緒に旅するなら、その……喋り方なんだけど、どうにかしてもらえない? もっと、自然な感じで話して欲しいな」
「自然ですか? しかし……」
「じゃあ、こういうのはどう?」
私はローザに指をさして、言った。
「ローザ。これは、命令です。私との行動中は、ため口でお願いします。これは、私の現在の都合上とても大切な事なのです。もしもそれができないと言うのであれば、命令不服従になりますし、私にとってこれからの行動に極めて支障をきたします。ですので、即刻エスカルテの治安維持部隊の任へ戻りなさい」
「くっ! わかりま……わかった、アテナ」
私は、にこりと微笑んだ。
「よろしい」
ローザとのそんな不思議な会話を聞いてルシエルは、首を傾げている。それはそうだろう。詰所での尋問の件も、何もルシエルには説明していない。あとで、キビ団子がどうとか言っていたけれど、何も答えないでいる。
「アテナ……ちょっと、質問したいんだが? いいか?」
「だめ、今は話したくない」
ルシエルに向かって、にっこり微笑んで答えると、ルシエルは頭を摩りながら困った顔で、
「そ……そうか。じゃあ、また話せる時にでも話してくれ」
と、言ってプレゼントしたテントに入ってみせた。
全く、見事な位あっさりした性格をしている。これってエルフの中でも特に珍しい性格をしているんじゃないかな。これも、私の勝手なエルフのイメージだけど。
「今日は、このテントを使ってここで寝るのか。なんだが、ワクワクするな」
「アハハハ。これでルシエルもローザも、今日からキャンパーだね」
そう言って二人を見ると、まんざらでもない様子。二人ともいつの間にかテントの中や焚火の周りではしゃいでいる。やはり、キャンプの魅力っていうのは、一言では言えないものがあるよね。
暫くすると、ルシエルが弓矢を装備してきた。
「え? これから何処かいくの?」
「ちょっと、行ってくる。晩飯に何か、獲ってくるから少し待っていてくれ」
どうやら、ルシエルは晩御飯に何か狩りをしてくるつもりのようだ。
「今から? 食糧ならあるけど?」
「今日は、ご馳走にしたい。任せろ、すぐに獲って帰ってくる。さっき、草原の向こうの方で大物が見えた。ちょっと行ってくるよ」
あーー、あの鹿。確かにグレイトディアーが生息していた。
ルシエルは、自信たっぷりといった感じで親指を立てて見せると、弓矢とナイフだけ持って軽やかに出かけていった。辺りは、すっかり陽が落ちて少しずつ闇が広がり始めているが、まあ大丈夫か。出会う前……これまでテントも張らずに森で野宿をしていたらしいルシエルの事だから、闇にも慣れていそうだし、特に心配ないだろう。
「アテナ。ルシエルを一人で行かせて、大丈夫だろうか? なんなら、私も一緒についていくが」
「大丈夫よ。ローザも直接戦ったんだから、ルシエルのあの強さ……知っているでしょ? それに、ここは街からも近いし、草原地帯が広がっているので見渡しもいい。危険は少ないと思うよ」
水の入った鍋を焚火にかける。
私は、ルシエルが帰ってくるまでの間、ローザとお喋りしながら特製の薬茶を飲んで待つ事にした。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、物語の主人公。キャンプが趣味で、今は薬草を使用したお茶作りもマイブーム。ギゼーフォの森で知り合ったルシエルと、エスカルテの街で知り合ったローザとパーティーを組む。エスカルテの街で新しいテントを買おうと、ルンルン気分になった。色々あって陽も落ちてきているので一旦街を出てキャンプする事にした。なんの変哲もない普通の宿をとるならキャンプをしたい。それが私。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も使える。お肌がプリプリピッチピチの114歳。長い髪の金髪美少女エルフだけど、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」。野菜より肉が好き。とても立派な弓を所持しており、ナイフ捌きに関してもなかなかの腕を持つ。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、それからはエスカルテの街で正式に仲間としてパーティーを組む。冒険者登録の費用は、アテナが登録祝いとして支払った。
〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。法を厳守する性格で、腕にも自信があって逆に太々しく見えたりもする。
〇ドリスコ 種別:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の副長。ローザ団長を常日頃から尊敬しており、補佐に勤めている。大きな体格からは、腕力もある事が解る。
〇グレイトディアー 種別:魔物
鹿の魔物。立派な角を持ち、追い詰められるとその角で反撃する場合もある。その一撃は強烈で、人間がまともに喰らうと死ぬ事もある。ビッグボア同様に、大型のボス個体がある。お肉はやはり美味しく、煮て良し焼いて良しの上質なお肉。鹿肉よりも上質。
〇ゴブリン 種別:魔物
小鬼の魔物。最も冒険者と戦っている定番の魔物。背丈は人間の子供位の大きさだが、性格は残忍冷酷。獲物をいたぶる趣味もあり、極めて醜悪。だいたいは群れで行動しているが、ゴブリンキングなどがボスとして君臨し何百何千匹となる群れもある。そうなれば、村や街を襲う危険な魔物。冒険者ギルドでも、ゴブリンの討伐依頼は常に張り出されている。誰しもが認識している定番モンスターだけど、とても危険な魔物。
〇キャンパー
キャンパーの範囲は広い。キャンプを楽しむ者、愛する者が自分をキャンパーだと名乗ればそれはキャンパーなのだ。




