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第1099話 『ヘーデル荒野 その7』



 砂嵐が止むと、ヘーデル荒野は何事もなかったかのように正常に戻った。


 全員の無事を確かめた所で、ルシエルとノエルが近づいてきた。



「どうするアテナ? このヘーデル荒野って場所、なかなかの曲者だぞ」


「正直、あたしも驚いた」


「そうね。あのパスキア最強と言われるトリスタン・ストラムが、対決の地に選んだ場所だもんね。試練って言葉を使っていたけど、この荒野はとても苛酷な環境で、それこそが彼のいう試練そのものかもしれない」



 ルシエルは、ニヤリと笑って鼻をすすった。



「へへ、やっぱりそうかー。トリスタンのおっさん、いい場所を選んでくれるぜー。こりゃ、モラッタ達もえらい目にあっているんじゃねーのか。オレ達は、ベテラン冒険者だからこの程度の砂嵐程度なら、余裕だけどなー」


「えー、砂嵐に1人攫われて悲鳴をあげているエルフがいたように見えたけど」


「こら! みなまで言わんでよろしい! それ以上、ルシエルちゃんを虐めなくていい! あれは、ちょっと砂嵐と遊んでみたくなったんで、戯れていたんだよ」



 ノエルがジト目でルシエルを見た。



「どーだかな」


「あーーっ! なんだとー、このプリティードワーフ!! もし今度、砂嵐でノエルが吹き飛ばされて悲鳴をあげて転がっていたとしても、オレはそれを見てリクライニングソファーに腰を埋めながら、コーラ片手にポップコーン食べながら指をさして爆笑してやるからなー!! 覚えてろー!!」


「やれるもんならやってみろ」


「いいさいいさ、その時が来たら後悔するんだ、お前は。ヒャッヒャッヒャ」


「こらこらこら、その辺にしなさい、2人共。それよりも、私達は旗を見つけなくちゃいけないんだから。この辺、きっとまたさっきみたいな強烈な砂嵐が吹くよ。あと、トリスタン・ストラム程の凄い人がわざわざ選んだ場所っていう事は、砂嵐だけが試練って訳でもないだろうしね。しっかりと、用心しないと。どちらにしても、陽が暮れる前に旗を見つけてさっさとキャンプを張った方がいいと思うわ」



 ノエルが頷いた。



「対決開始の合図は、明朝8時という事になっているのに、モラッタ達との旗の奪い合いは、その3日後からっていうなんとも妙なルールも気になるしな。3日間は、その旗の場所にいなきゃならないって事は、その間の食糧や水の確保も必要になるという事だもんな」


「そういう事ね。だから少しでも早く、まず最初に私達の旗のある場所を見つけておきたいの」



 この第二回戦の対決。一回戦が不利だったから、今度は私が得意なキャンプ対決って事になった。けれど、そもそもキャンプで対決して白黒つけるなんてできないのは明白。キャンプっていうのは、そもそもの目的が楽しむものであって、人と何か争ったり競ったりするものではないから。むしろ敢えて言うなら、逆の存在な気もするし。


 だから第二回戦はキャンプ対決とは言っても、きっとそうはならない。ならどういう対決になるのか。そう、キャンプというのは単なる名目で、きっとサバイバル対決になると、私は思っている。


 ルシエルがパンっと手を叩いて言った。



「よーーし、それならまずは、さっさと行動に移って目的を達成した方がいいよな。ならここは、手分けして探そうぜ。オレはオレでサッと言って、旗を捜索してくるわな。運が良ければ、相手側の旗のある場所も見つけて帰ってくるからよ、それでいいよなー?」


「ルシエル。あなたも解っていると思うけれど、このヘーデル荒野は小さいってイメージがあるけど、それは一般的な荒野に比べてってだけで、実際はかなり広いし……」


「大丈夫だって大丈夫だって。自分もアレっすから。アテナパイセンに仲間に誘われてから、色々とそれなりに経験してきまっしたし、もうベテラン冒険者な訳で大抵の事は対処できるというかなんというか……」



 あんな事を言っているけれど、出会って間もない頃、ルシエルは私の後をずっとついてきたんだよね。それでローザに目をつけられて、色々あって旅をするようになった訳で……ルシエルは私が誘ったって今言ったけれど、あの時の事を正確に思い出すと……



「じゃあ、あたしもついて行ってやるよ」


「駄目だ、ノエルはここで残れーい!!」


「なんでだよーー!!」


「えーー? だって、誰とは言わねーけど戦力にならない人もいるし、誰かが守ってやんねーと不安だろ?」



 エスメラルダ王妃が自分の事を言われていると解りルシエルを睨むと、ルシエルはペロリと舌を出してそっぽを向いた。全然、悪びれない。私は頷いた。



「それもそうね、解ったわ。ノエルは一緒にいてくれた方が私も心強いし、ルシエルがこの中でも一番機動力が高いのは確かにその通りだしね。じゃあ、探索を任せようかな」


「やった! まっかセロリ!!」



 独特なガッツポーズを作って、ノエルとルキアに、これ見よがしに見せつけるルシエル。なに、それ? もしかして、セロリのポーズ?



「でも、ちゃんと私達のいる場所まで戻ってこれる?」


「ああ、それなら大丈夫。適当にやってりゃ、なんとかなるだろー。実際、オレ達いつもそんな感じで上手くやってきたじゃーん?」



 前言撤回。駄目だ、こりゃ。やっぱり、別行動をとらせるならノエルをつけた方がいいかな。そう思った所で、ゾーイが言った。



「私がルシエルと一緒に行って探してくる」


『え!?』



 思わずハモる私とルシエル。



「だ、大丈夫なの?」


「殿下はご存じですよね。私は、捜索と追撃が得意な事を」



 確かに私達は、身をもって知っている。ゾーイ達、鎖鉄球騎士団には、クラインベルト王国からガンロック王国、更にドワーフの王国と追跡に追跡を重ねられてきた。



「直ぐに戻ってきますので、その(かん)エルメラルダ様を……」


「うーん……うん、解ったわ。エスメラルダ王妃の事は、私に任せて。私達が一緒にいるし、大丈夫よ。だから申し訳ないけど、ルシエルと一緒に旗を探してきてくれる?」



 返事をするとゾーイは頷いて、ルシエルと2人で私達から離れて行った。決まればすぐ行動するというのが、ゾーイの性格みたい。


 ヘーデル荒野のもっと先、北の方は更に大地が荒れているらしい。2人には、先にその場所を見に行ってもらった。まさに斥候。


 私、ルキア、カルビ、ノエル、クロエ、エスメラルダ王妃の6人はこのままゆっくりと周囲を警戒しながら、ルシエル達の向かった方へ北上していこうと思っている。ルシエル達が先行してくれているこらこそ、慌てないで前に進めた。


 トリスタン・ストラム。彼ならきっと、北方のより危険な地の方へ、旗を立てている気がする。


 100%そうだと断定はできないけれど、試練などという言葉を使う彼なら、その可能性が極めて高いと思った。

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