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第1094話 『ヘーデル荒野 その3』



 結局、ゾルバ以下鎖鉄球騎士団は、エスメラルダ王妃についてくるなと言われて、すごすごと王都へと引き返していった。だけど、ゾルバは一つだけ条件を言った。エスメラルダ王妃は、ドヤドヤとやってきたゾルバ達をさっさと追い払いたかったのか、その条件をあっさりと呑んだ。



「なあ、アテナー」


「なに?」


「なんかさー、楽しいはずの冒険がさー。なんかちょっと、重苦しい感じが漂っているんだけど」


「私に言っても仕方ないでしょ。そういう事になっちゃったんだし、ゾルバや副官のガイ、そしてその配下に鎖鉄球騎士団がぞろぞろとついてくるよりは、かなりマシでしょ」



 ルシエルと共に後方を振り返る。


 するとすぐ後ろに、ルキアとカルビとノエルがいて、更に距離をあけて前髪パッツンの黒髪娘が私達の後をついてきている。


 彼女の名前はゾーイ・エル。ゾルバ率いる鎖鉄球騎士団の1人で、かなり強い。私も彼女とは戦った事があるけれど、その時に見事にお腹に喰らった鉄球の痛みは、未だに忘れられない。


 形式上は、彼女もゾルバもガイも、クラインベルト王国の騎士という事にはなっているけれど、その実はエスメラルダ王妃が子飼いの兵として連れてきたヴァレスティナ公国の兵だった。だから私やお父様、クラインベルト王国の為に仕えているというよりは、ヴァレスティナ公国から派遣されてきた兵のように振る舞っている。


 ルキアが何か感じ取ったのか、ゾーイの隣に移動する。



「こ、こんにちは。ゾーイさん」


「…………」


「ゾーイさんは、もしかしてこのまま私達と一緒にヘーデル荒野へ行って、一緒にキャンプをしてくれるんですか?」


「…………」


「もしそうだとしたら、モラッタさん達との対決――私達が勝つように、手を貸してくれるって事ですよね。ゾーイさんのような人が、私達の仲間になってくれてとても心強いです!」



 にこりとゾーイに微笑みかけるルキア。だけどゾーイは、ルキアの方をチラリと見ただけで返事をしない。



「…………」



 会話が続かない。ルキアは、私の顔を見て苦笑い。こっちへおいでと手招きをすると、タタタと駆けてきた。



「暗い奴だなー。折角うちの看板猫娘が話しかけてやってんのによー。あまりに愛想がねーよな」


「ルシエル、そんな事を言っちゃ悪いですよ。騎士団の中で、ゾーイさんだけが残って私達についてくる事になっちゃって、複雑な心境なのかもしれないですし」



 んーー、複雑な心境ねえ。


 今度は前方に目をやる。すると道案内する為に先頭を歩いてくれているブラッドリーの後ろ姿と、彼に寄り添うように歩くエスメラルダ王妃とクロエの姿が見えた。



「あたしはまだ、あのエスメラルダ王妃がどれくらい嫌な奴か解らないけど……こうして後ろから3人を眺めていると、仲の良い親子に見えるな」



 ノエルの呟きを聞いて、はっとする。確かに親子に見える。クロエもエスメラルダ王妃と一緒にいて、凄い楽しそうだし……エスメラルダ王妃――彼女自身が、クランベルト王国の王宮で、普段は見せないような柔和な表情をしていた。そう、クロエだけでなくブラッドリーに対しても。


 湖の時もそう思ったけれど、もしかしてブラッドリー・クリーンファルトとエスメラルダ王妃は、以前からお互いを知る仲なのかもしれない。でないと、今のこの状況の説明がつかない。


 でもエスメラルダ王妃は、クラインベルト王国では、ブラッドリー・クリーンファルトとは今まで会った事はないはず。


 私が以前パスキア王国に来て、フィリップ王やメアリー王妃に会った時には、まだお母様が元気だったし、エスメラルダ王妃も当然いなかった。幼い時の記憶だから、確認してしてみないとだけど、ブラッドリーのような騎士がいるのなら、あの時に紹介されて会っていてもおかしくはないけれど、その記憶がない。


 っていう事は、やっぱりそれ以前からの知り合い。お母様が亡くなり、その後エスメラルダ王妃が政略結婚で、クラインベルト王国へやってくる以前からの知り合いという事になる。しかも見た感じ、彼女もブラッドリーもお互いに心を許しているみたい。


 それと、もう一つ気になること。エスメラルダ王妃は、なぜこうもクロエに良くしてあげるのか。気に入ったからと言ってしまえば、それだけの事なんだけど……最初にクロエを見た時の対応は、私達に対する対応と同じく冷たいものに感じた。


 だけど、クロエが目が不自由だという事を知ってから優しい感じになった。なぜだろう。


 仲良し親子のような3人を後ろから眺めていると、ブラッドリーが足を止めた。そして振り返って、私に言った。



「アテナ様。街道を行くのは、ここまでです。ここから道を逸れて、平原をあちらへひたすら突き進みますと目的地が見えてきます」


「なるほど。この先に、ヘーデル荒野があるという訳ね」


「いかにも。この辺の街道は、冒険者や商人などの往来がかなりありますので、魔物と遭遇する確率も比較的少ない。ですが、ここから先の平原や、荒野は危険な魔物も多数生息しています」


「大丈夫よ、覚悟はできているわ。そういうのは慣れているし、ちゃんと警戒はしているから、このまま案内してもらえるかしら」


「フフ、流石は、冒険者であらせられますな」


「そうね。冒険者にとって、こういう場所を歩いたり魔物退治は、得意分野だからね」



 街道から道を逸れる。


 私達は、ブラッドリーの後に続いて平原に足を踏み入れた。


 この平原の大きさは――そう言えば聞いてなかったけれど……まあ心配しなくても、この先にあるのならヘーデル荒野まではこのまま歩いていけば嫌でも着くよね。


 でもやっぱり無理をしないで、馬を借りてそれに乗ってきていれば、もっと早くついたかなーとか今更ながらに思った。

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