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第1093話 『ヘーデル荒野 その2』



 エスメラルダ王妃は、とても不機嫌な面持ちでゾルバを睨みつけた。



「エスメラルダ様。王都へ戻りましょうぞ」


「なぜ戻らないといけないのですか?」


「な、なぜと言われましても……この辺りには魔物や賊も出没しますし危険ですので……」



 ゾルバが困った顔で私をチラリと見る。え? ちょっと、なに? もしかして、私に助けを求めているの!? 嫌よ、絶対嫌だからね! だってエスメラルダ王妃をどうにかするのは、あなた達の仕事なんでしょ! 私が言うと、また変に気持ちを逆なでする結果になって喧嘩になっちゃうんだから! ゾルバだって、知っているでしょーが!!


 ゾルバの視線に対して、全力で睨んで抵抗を見せる。



「この国は……危険なのです! この国は、クラインベルトやヴァレスティナのような安全な国ではありませんぞ!!」


「それは、どういう意味ですかな? ガゲーロ卿」



 ゾルバが変な事を言ってしまったので、ブラッドリーが参戦。ちょっと、もうやめてよ。こんな街道の途中で、もめ事なんて……私は、さっさとヘーデル荒野に向かいたいんだから。



「これはこれはクリーンファルト卿。これは、申し訳ない。誤解を招きましたかな。変な意味にとらえないで頂きたい。王都の外は、魔物や賊が徘徊しておりますからな。それを王妃に、危険性があると申し上げたまで」


「そうですか。しかし、ガゲーロ卿は、先ほどこの国を、クラインベルトやヴァレスティナのような安全な国ではないと申されましたが」


「ですから、変にとらないで頂きたい! 王妃を説得するのに、切羽詰まって言ったまでの事! 私の立場も考えて頂きたい!」



 ちょっともうやめて。これ以上、面倒くさい事になっても困るから、仕方なくゾルバに助け舟を出してこの場を収めよう。そう考えていると、隣にルシエルが来て腕を組んだ。え? にっかりと笑っている。



「ほおー、これは面白くなってきたな」


「え?」


「アテナ、どっちが勝つと思う? ブラッドリーのおっさん、超つええんだよな。アテナもノエルもかなわなかったんだろ?」


「まあ、ボクシングのスパーリングをした時は、そうだったかな」


「そうだよな。つえーーんだよなーー。オレとルキアとカルビを、カフェ&バーにおきっぱにして、スパーリングみてーな楽しい事を繰り広げちゃってたんだもんな! いいよなー、スパーリングはいいよ。んーんーんー」



 うっ、この子……まだ、根に持っている。



「ちゃんと、もう謝ったでしょ。いい加減、許してよ」


「あー、オレもアテナやノエルと一緒に、あのダンディーな髭のおっさんとボクシング対決したかったぜー。ノクタームエルドで、オレが蟻の魔物とボクシングしてた時の事を、アテナは知っているのになー。オレがボクサーであると、知っていたはずなのによ。あーーあ」



 結構な時間、待たせたのは事実だし悪いと思っている。あと、あんたはボクサーじゃないし、そんなの知らないし。



「あっ! そうだ、アテナ。アレやってくれよ、アレ。そしたら、この無念な気持ちが晴れえるかもしれない」


「なによ、アレって」


「ええ? 知ってるくせにー。アレだよ。っっっっとうに、すまないと思っているうううう!! って奴」



 そう言ってケラケラと笑うルシエル。こいつめー、悪かったなって気持ちが、なぜかどんどん薄れてきた。



「ちゃんと謝ったのに、まだそういう事言って虐めるなら、アレだよ」


「え? アレって?」


「お店で待っててくれたのは、ありがとうだけど……その間にあんた、物凄い色々注文したでしょ。あれ、全部私が支払ったんだよ。でも、ちょっと払いすぎたみたい」


「ええええー、ちょっと待て、確かに払いすぎたけど、あれほとんど、ルキアとカルビが食ってたんだぜー!! オレ、見てたもん。そうさ、間違えねない。へへへ、そりゃもう、飢えたオークのようにさ!! ガツガツガツガツとさ! 流石のオレも、ドン引きしたってなもんよー、まいったぜー」



 ルシエルの言葉を聞いて、跳び上がるルキアとカルビ。



「嘘です!! 絶対嘘ですよ、アテナ!! ルシエルの言葉を信じないでください! だって、私はアイスラテとメイプルフレンチトースト、あとチーズケーキ位しか食べてないですよ!」


 ワウワウ!


「食ってんじゃねーーーかあああ!! それだけ食ってりゃああ、十分だあああ!! なあ、アテナよ?」


「あんたもでしょ!!」


「その節は、ご馳走様でしたああああ!!」



 …………え? なにその早い切り返しは。


 エスメラルダ王妃とゾルバとブラッドリーの間で揉めていたはずなのに、気が付けば私達の方が大騒ぎしていた。でもそれでゾルバとブラッドリーの間で、ちょっとピリついた雰囲気になっていた嫌な空気は、どうやら解決。私達の方が騒がしすぎて、気が付けば皆の注目が私達の方へ向いていた。


 私とルシエルとルキアは、3人揃って仲良く頬を赤くして後頭部を摩る。一瞬の静寂。ゾルバは、一つ咳払いして続けた。



「兎に角、お戻り頂けますか、エスメラルダ様」


「嫌と言っているのが解りませんか? それにわたくしには、ブラッドリーがついています」


「まさかとは思われますが、モラッタ嬢達との対決に、ご自身も参加されるのではありませんな?」


「あなたは、何を言っているのですか? 当然、参加するに決まっています!」



 えええ!? やっぱり参加するんだ。っていう事は、ヘーデル荒野で数日間、エスメラルダ王妃と一緒にキャンプ!? そんなの絶対無理でしょ?



「参加するのであれば、女性しか認められぬとの事でしたぞ」


「だから何を言っているのです、あなたは。わたくしは女ではありませんか」


「それはそうですが、クリームファルト卿は違います」


「それなら心配はありません。ブラッドリーには、案内をしてもらっているだけですから。それにアテナがいます。アテナの剣の腕は、ゾルバ。あなたならよく知っているでしょう」



 また、余計な一言を……明らかにゾルバが嫌な顔をしたのを私は見逃さなかった。



「わたくしが、こう言ったらもう何と言っても引き下がらないのは、解っているでしょう、ゾルバ!」



 エスメラルダ王妃は、怒鳴るようにそう言うと、クロエを連れたままタタタと駆けていきブラッドリーの腕を掴んだ。


 

「わたくしには、ブラッドリーという最強の騎士がいるのです」


「エスメラルダ様、それは……」



 困り果てるゾルバ。そんなエスメラルダ王妃の突然の驚くべき行為に、私達は呆然とした。

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