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第1090話 『トレーニングルーム その7』



 ノエルとブラッドリーのスパーリングも、ついに4ラウンドまで突入してしまった。


 1ラウンド終了後、ノエルが流していた鼻血。あれが止まらなかったら、ドクターストップでここまでってなっていたんだけどね。すぐ止まっちゃったから、試合続行。それで、ここまで来ちゃった。


 ブラッドリーは、私とスパーリング相手のノエルを交互に見た。



「アテナ様は、あのヘリオス・フリートのお弟子さんであるとお聞きしていた。それにその強さも耳にしていたので、機会があれば私も是非手を合わせてみたいと思っておりました」


「私もよ」


「しかし王都にやってきて、アテナ様が最初に腕試しにと勝負されたのが、セリュー殿下の側近のロゴー・ハーオン。私も内心、アテナ様と勝負をしてみたかっただけに、羨ましかった。しかしどういう訳か、今日その望みがかなった訳ですな」



 ブラッドリーはそう言って微笑んでみせた。



「そして、それだけではない。アテナ様は現在、城を出て冒険者をされていると聞いてはおりましたが……その共の方までもが、これ程までの強さとは、正直驚きを隠せませんな。見て下さい、両腕が震えている」


「共の方というか、私の大切な仲間なんだけどね。因みにノエル以外にも、強い子はまだいるわよ」


「天才魔法使い、マリン・レイノルズ……」


「それは魔法使いでしょ。マリンも底知れないけれど、ハイエルフの子よ」



 これを聞いたブラッドリーは、更に驚いた表情をした。無理もない。私やノエル位の腕の者が、マリン以外にもまだ一人控えていると知ったのだから。


 王族や貴族、騎士などからしてみれば、私達は一介の冒険者に過ぎない。なのにその一介の冒険者パーティーの何人かが、ここにいるブラッドリー・クリーンファルト――トリスタン・ストラムと同じく、パスキア王国最強騎士と言われる人と互角に渡り合えるって言っているんだもんね。そりゃ驚くよね。でも事実なのです、フフフ。


 ノエルは、軽く腕を振り回す。



「話は、後でもできるだろ。あまり間を明けると、興が削がれちまう。あと、1ラウンド。決着をつけようじゃないか」



 ブラッドリーは頷くと、リング中央に移動してノエルと再びグローブを合わせた。エスメラルダ王妃はそれを見て、最終ラウンド開始の鐘を鳴らした。


 カーーーーンッ


 今度はノエルが前に出た。対してブラッドリーは、下がる……っていうのが私の予想だったんだけれど、ブラッドリーも前に出た。最終ラウンド開始直後から、壮絶な打ち合いが始った。


 ドスドスドスドスドスドス!!


 鳴りやまない地響きのような打撃音。クロスレンジでのパンチの応酬。乱打戦。流石のブラッドリーも、防御や回避が間に合わない攻撃もあって、いくらか被弾している。対してノエルは、ブラッドリーのパンチをほぼモロにもらってしまっていた。だけど、決して臆さないし怯まない。彼女の持っている強烈な武器。それは、並外れた怪力だけじゃなくて、タフネスと決して怯まないその不動の精神力と勇気。



「おらああっ!!」



 ノエルの大振りのパンチに合わせて、ブラッドリーがカウンターブローを炸裂させる。ノエルの顔面を打った。けれど、ノエルは全くダメージを受けている様子も見せずに踏み込んだ。体当たり。ブラッドリーの身体に、自分の身体を預ける程に密着すると、そこから物凄い勢いで回転してブローを放った。


 ブラッドリーの右脇腹を狙った強烈なボディーフック。ノエルの得意なパンチで、その技名は肝臓打ち。



「リバーブローか!! うおおおおお!!」



 ブラッドリーの顔色がかわる。それ位に強烈なパンチだった。



「おらああああ!! これで、ダウンだあああ!!」



 ノエルの雄叫び。だけど彼女の望みは叶わない。ブラッドリーが咄嗟に肘で脇腹を守って、ノエルのリバーブローを無惨に潰す。更にそこからブラッドリーは、クロスレンジは背丈の低く頑丈で足腰のしっかりしているノエルに分があると判断して、距離を大きくとった。


 当然、ノエルは逃がさないと前に出た。それに合わせてブラッドリーは、体勢を落とすと、右腕を弓矢のように引いて大きなタメを作った。背筋に寒気が走る。



「ノエル!! 気をつけて、きっと必殺ブローよ!!」


「上等だ、おらあ!! ブラッドリーがあたしのリバーブローを潰したんなら、あたしもブラッドリーの必殺ブローを潰してやる。そして、そのまま詰めてあたしの勝ちだあああ!!」



 私ならきっと避ける。避けに徹して、隙を伺うと思った。それ位、何かブラッドリーのこれから放つであろうパンチは、危険だと直感が告げていた。



「こい!! 受け止めてやる!!」


「言われてなくても、見せよう。これが私のスペシャルブロー!! 螺旋突きだ!!」



 螺旋突き!?


 ブラッドリーは、大きく溜めを作った所から、思い切りパンチを放ってきた。大振りではないけれど、長くて早く、そして身体のパーツのいたる箇所が全てにおいて、見事に連動して打ち出されるパンチ。もはや芸術的とも言える必殺ブロー。


 足首から膝、腰、肩、肘、手首と準に回転するスクリューパンチは、高い貫通力を生み出す。


 ノエルも何か危険を察知して、私やブラッドリーがやった十字受けで咄嗟に防ごうとした。しかし螺旋突きは、ノエルのガードを突き抜ける。


 ノエルのブロックは砕けて、彼女は大きく後方へと吹き飛んだ。ブラッドリーが必殺ブローを放つと決めて、ノエルが真正面からそのブラッドリーの攻撃を受けきると決めた時、こうなるんじゃないかと薄々予感していた私は、ノエルが後方へ吹き飛ばされる少し前に動いて、リングに飛び込んでいた。


 そしてノエルの後ろに回って、吹き飛ばされた彼女を受け止めた。

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