第109話 『ミシェルからのお誘い』
私とルキアは、ミシェルのおごりでガンロック王国王都内にある、ミシェルおすすめのカフェに入ってお茶をしていた。
なぜって? だってそれは…………丁度、汗もかいて喉も渇いていたし…………
さっきのミシェルを襲った男達の事もやっぱり気になるし――――リンド・バーロックの本も譲って欲しい。
そういう事で、落ち着いて話がしたいと言ったら、ミシェルが「話をするならいい場所がある」と、ここへ連れてきてくれたのだ。
店の中は、外と違って凄い涼しい。この涼しさは魔石の力を使用した何か魔道具を使用していると思うけど――確かにここは、落ち着ける。店内に漂う珈琲もかおりも、心をふんわりと落ち着けてくれる。
「ここはもちろん私のおごりだから、遠慮なく何でも好きなものを注文してね」
ミシェルは、メニューをとると私とルキアに差し出した。
「ありがとう、じゃあ遠慮なく注文させてもらおうかな」
「ありがとうございます。ドリンクと言っても色々あって、迷っちゃいますね」
ルキアは、店のメニューを見るなりもう夢中になって読んでいる。文字を覚えたいと言ってから、暇さえあれば頑張って文字を覚える勉強をしていた。だから、メニューを自分でちゃんと読める事が嬉しくてしょうがないのかもしれない。
「どうしようかな。これもいいけど、ドリンクも飲んでみたいし……」
「あははは。だから、遠慮しないでって言ってるでしょ。ちょび髭のせいでもうバレてるかもだけど、私この国の第一王女なの。だからさ、いやらしい話だけどお金には不自由してないからさ、ルキアも気になるものがあるなら、遠慮せずどんどん色々注文していいよ」
ミシェルのその言葉を聞いて、ルキアが私の顔を見た。目が潤んでいる。何かをねだる様な顔に、上目遣い。そして、尻尾が落ち着けなく動いている。
こんな感じで見つめられたら、いいって言うしかないよね。
「ミシェルがそこまで言ってくれるなら、いいんじゃない?」
「やったーー!! 私、じゃあこのチョコレートパフェというのと、アイスラテを飲んでみたいです!」
ミシェルは、そんなルキアを見て微笑むとウェイトレスを呼んで注文してくれた。私はアイスコーヒー、ミシェルはアイスオレを注文した。
「ありがとう、ミシェル」
「フフフフ。いいの、いいの」
満面の笑みのミシェル。ルキアの身体は、待ちきれないといった感じで左右に揺れている。
オーダーが通されて、やがて注文が運ばれてくると、ルキアはチョコレートパフェにもうメロメロになっていた。スプーンで少しずつ少しずつ掬って、小さな口へと運ぶ。大事に味わっている。やっぱり女の子は甘いものが大好きだよね。私はそんなルキアを横目に、ミシェルに実は自分もクラインベルト王国の第二王女だという身分をあかした。ミシェルは、当然驚きを隠せないといった様子だったが、ミシェルは自分の身分を私達に話してくれた。私も話しておかないと、フェアじゃないように思えた。
そして、冒険者として旅している事や、他にも仲間がいる事、そのうちの一人が二日後に開催されるガンロックフェスという大音楽祭に出演し演奏をするので、それを見に行って一緒に楽しみたいという話もした。
もちろん、私達は本来冒険者で、色々旅しているという話しも。今はリンド・バーロックの旅をトレースする旅をしているけど、その旅を続けるうえで参考にしているリンド・バーロックの書いた本の2巻を持っておらずこの王都の書店を片っ端から探し回っていた事も話した。
「なるほどね。しかし、こんな偶然があるなんてね。アテナも王女だったなんて、驚きだよ」
「あはは。そうだね。でも、クラインベルトとガンロックは隣国だし、王女である私達がこうやって知り合えて友好を深める事ができた事は、とてもいい事だと思うし、この出会いを大事にしたいね」
「うんうん、確かにその通りだね」
ミシェルは私の言葉に何度も頷くと、テーブルにドサっとリンド・バーロックの本を置いた。
「そうだそうだ、これだけどさ。この本はアテナにあげるよ。この素敵な出会いと、助けてもらったお礼として」
「ええ? いいの、もらっても?」
「私はこの本の1巻を読んで、面白いと思って続きが欲しくて探していただけだからさ。リンド・バーロックの旅をトレースしているアテナの方が、今必要としているでしょ。だからいいよ、あげる」
ミシェルからの思いがけない贈り物。私は両手を握り、お礼を言った。
「本当にいいの!? ミシェル、ありがとう!! それじゃあ、せめてこの本の代金を払わせて」
ミシェルはにっこりする。
「いらないって。だって私達、もう友達でしょ? ね? ルキアももう私の友達だよね?」
「は……はい! もちろんミシェルは私の友達です!」
口の周りにべっとりと、チョコと生クリームをつけたルキアが返事した。
「そのかわりーー、友人としてアテナ達にも私のお願いを聞いて欲しいんだけど? いいかな?」
「え? それは私にできる事ならいいけど……とりあえず、どんなな事か聞いてみないと…………」
「やったーー!! ありがとう!! アテナ!! ルキア!!」
あれ? 勝手に私が協力する感じになっちゃってる。
それに、この感じ……何か嫌な予感がする。
「そ……それで? それでミシェルのお願いってなんなの?」
「えへへー。アテナ達もガンロックフェスに行くんでしょ? 私もガンロックフェスに参加者として出るんだけど、一緒に出てくれる? お願いーー!」
は? え? どういうこと? 参加者?
やっぱり嫌な予感がするんだけど――――
「え? 私たちが参加? 参加って何をするの?」
「えっとーー、私、音楽をやっているんだけど、私と一緒にフェスのステージに立ってくれないかなーって」
「ええええええ!! だだだ……だってそれ音楽祭でしょ? 私、楽器なんて何もできないよ?」
ミシェルは、また頷くと微笑んで言った。
「大丈夫。歌をうたって、踊って欲しいだけだからさ」
嘘でしょ? 私は、キャンパーなんだけど? 冒険者なんだけど? その私が歌と踊りって?
「楽器は他にメンバーいるし、間に合っているからさ。アテナ可愛いし、絶対一緒にステージにあがれば、うけると思うんだよね。私の妹も一緒に、ステージにあがるからさ。そしたら、王女が三人だよ。これは絶対、伝説になる。もちろんアテナが王女だっていう事は、オフレコだけどね」
うーーーん。確かに王女が三人も、ガンロックフェスのステージに並んで立って、歌い踊るって凄い。
…………そして何より、本も欲しい。本だけ貰っておいて、協力しないっていうのもあれだしなー。
だけど、知らない大勢の人たちの前で歌をうたったり踊るだなんて……こっ恥ずかしすぎるよ。
頭を抱えて唸る私に、ミシェルは続けて話す。
「それに、さっきのちょび髭の奴らにまた襲われるかもしれないからさ。アテナ達が一緒に来てくれて、その間だけでも私と妹を、守ってくれると嬉しいんだけどさ。」
ミシェルを襲ったやつら…………凄く気にはなっている。私も昔、ああいう奴らに誘拐されかけた思い出があるから。私が過去に、一度だけクラインベルト王国の外に出た事があるという記憶。その時にあった事。
「お願い!! 3日間開催されるフェスの初日だけだからさ。一日だけ! いいでしょ?」
「ふう……一日だけね。わかったわ。でも、歌なんてそんなにうたった事ないし、踊りもそうだから期待しないでね」
「やったーーーー!! ありがとう!! 凄い嬉しいよ!!」
はしゃぐミシェルを見て、溜息――――私は、渋々ミシェルの依頼を受けることにした。当然、ルキアは驚いている。でも、他人事だと思っているようだったら、もっとびっくりする事になるよ。心の中でルキアにそう語り掛けた。
「ルシエルとヘルツさんに話したら、きっと驚きますね。でも私、ドキドキします。そんな物凄いフェスのステージに、ミシェルさん達と並んで歌って踊るアテナの姿を見るのは、私凄く楽しみです」
アテナのこれからの活躍に、瞳を潤ませ胸を躍らせるルキア。そんな猫耳少女にミシェルがニヤリと笑って言った。
「え? 何言ってんの? ルキア、あなたも出るんだよ」
「へ?」
ルキアは、握っていたスプーンをテーブルに落っことした。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄〛
〇ミシェルおすすめのカフェ 種別:ロケーション
店内に入るなり、スウィーティーな香りと珈琲のいい匂いがお出迎え。魔石を使用した店内を冷却する魔道具も設置してあり、外は灼熱でも店内は天国に感じる。お洒落で美味しいメニューも豊富で、お客さんも毎日たくさんやってくる。でも、値段はちょい高め。
〇チョコレートパフェ 種別:食べ物
略してチョコパフェ。もっと略すると、チョッ!! クリーミーで濃厚で美味しいアイスクリームにホイップクリームを使用、バナナにフレーク、チョコレートやゴーフルのようなお菓子も使用されている。飾りつけにもミントというハーブが使われていて大人から子供まで絶大な人気を誇るデザートメニュー。
〇アイスオレ 種別:飲み物
ラテと似ているようで別もの。アイスコーヒーとミルクを一対一で割ったもの。さっぱりしていて、暑い日には最高の飲み物。このお店のアイスオレは、ややミルク多め。
〇アイスラテ 種別:飲み物
オレとは似ているようで別もの。珈琲とミルクを割った飲み物で、珈琲はエスプレッソを使用。ミルクの量はエスプレッソが濃いので、多め。できあがりに、ホイップクリームを浮かべる。
〇ガンロックフェス
ガンロック王国で年に1度、開催されているミュージシャンによるミュージシャンとそれを愛する者の為の大イベント。参加者は、毎年300人を超え、それを見にやってくる入場者数は2万~3万人も集まるという、世界最大の野外音楽ライブイベント。このヨルメニア大陸全土はおろか、世界中から音楽家が集まり、そこで色々な音楽を三日三晩演奏し続けるという。まさに、お祭り。このイベントは、国の収益にも大いに貢献しているので、王国全体が国をあげて開催支援している。ガンロック王国の王女ミシェル・ガンロックもロックミュージシャンとして、フェスに参加している。ヘルツはこのフェスに参加したくて、ガンロック王国までやってきた。




