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第1085話 『トレーニングルーム その2』



 王都からヘーデル荒野への向かい方(ルート)――それをブラッドリーに聞きに、彼のいるトレーニングルームへとやってきた。そしてそれを聞いたら、皆が待ってくれているカフェ&バーへ戻って合流。これで問題無し。いざ、ヘーデル荒野へレッツゴー。


 そのつもりだったんだけどな。変だな、変だな、可笑しいな、なぜかな。


 ブラッドリーに目的地を聞いて、皆のいる場所へ戻るだけの簡単なお仕事だったのに、なぜか私はこのトレーニングルームのサンドバッグの前で、両手にパンチンググローブを装着して立っていた。


 ……ファイティングポーズをとる。



「アテナ様、拳の握り方は小指から握り込み、最後に親指で抑える。その時に親指をしっかりと折りたたんでいないと、パンチを打つ際に、突き指などの怪我の原因に……っというか、既にご存じですな」


「ありがとう、ブラッドリー。でもそうね。なんてたって私に体術を教えてくれたのは、あの伝説級の冒険者ヘリオス・フリートだから。もちろん、パンチの打ち方も人並みには心得ているわ」



 まずはサンドバッグの前でジャブを数発、素振りする。距離を測る為の軽い手打ちのスナップの効いたジャブを数発放ち、更にフィニッシュに3発、相手の意識を断ち切るつもりの貫通力のある突きに近いジャブを打つ。



「おお! アテナ様はジャブもご存じでしたか。これは、恐れ入りましたな」


「ジャブ、ストレート、フック、アッパー。基本的なパンチの打ち方なら、一応習ったわ。でも私は突きや蹴りを強化する為に、拳や脛を鍛えたりなんて事は特別していないから、そういう打撃よりは組技の方が得意だけどね」


「そうでしたか。まあですが、何事も経験。今はパンチンググローブも着用していますし、思い切りパンチを打ったとしても拳を痛めにくいでしょう。身構えず、気楽に緩やかに力を抜いて。そう、いいですな。では、実際にサンドバッグへの打ち込みの方も見せて頂きましょうか」



 見せて頂きましょうかって、ここへはトレーニングをしに来た訳じゃないんだけどなー。


 でもなぜかもうサンドバッグの前に立っちゃっているし、グローブまで着用しちゃっているし……こーゆーのに興味がぜんぜん無いと言えば嘘になるかもしれないし。こういうちゃんとしたサンドバッグとか、使用してみたいって気持ちもあるし……うーんと唸ってみる。


 チラリとエスメラルダ王妃を見ると、彼女はベンチに腰をかけてこちらを眺めている。



「うーーん、そ、そうね。それじゃ、ちょっとだけ」



 構える。そこからまずは、軽く左ジャブ。ジャブジャブジャブ。ジャブから右ストレート。フットワークも使い、調子良く踏み込んで、ワンツー。ワンツーからの左フック。左フックをひっかけてサイドに素早く動くと、そこから左右のフックを打ち込み、ダブル。右のフックを連続で、脇腹、頭部側面にと素早く打ち分けて2発入れた後に、左アッパーにつなげた。


 打ち終わってサンドバッグから離れる時は、相手の追い打ちを想定してジャブ連打を放ちつつバックステップ。拳は常に目線の高さで、フォームを崩さない。



 バスバスバスバス、ドスウウ!!


「うん、気持ちいいーー!! いいサンドバッグだから、パンチを打ち込むと物凄く衝撃の感触が伝わってくる。だから気持ちいいし、リズムにも乗りやすい!!」


 パチパチパチパチ!



 ブラッドリーは、私が連続でサンドバッグを叩いている姿を暫く眺めた後、拍手をしてくれた。



「素晴らしい、やはり流石ですな。なかなかキレのあるパンチだ。スピードもあるし、パンチを打ち込む瞬間に、足首、膝、腰、肩、肘、手首としっかりと繋がって連動している。オフェンス、ディフェンス共に意識した際の体重移動(シフトウェート)も完璧だ」


「えへへ、そ、そうかな? でも私は、幼い頃に師匠に……あのヘリオス・フリートに色々と鍛えられて、色々な事を教わったから。その時、覚えた事をやれるだけで」


「ふむ。しかし見惚れる素晴らしい打ち方だ。見ていて飽きない。叩いてバーンと潰す破壊力のあるパンチでない事は確かだが、まるでよく斬れる刀のようなキレのあるソリッドパンチ、そして身体全てを連動させて打ち込むその一撃は極めて強い貫通力を生み出す」



 何やら、パンチについて語りだすブラッドリー。パスキア最強の騎士の1人って聞いていたけれど、騎士というよりは……なんとなくだけど、ボクサーのような雰囲気がある。彼の拳に巻いてあるテーピングは、私にそう思わせた。



「アテナ様。良かったら、続けてサンドバッグを打ってもらってもいいですかな。あなたのパンチをもう少し、よく見てみたい」


「え? あ、うん。それじゃ……」



 ここまで来たらしょうがない。それに、もう少しこのサンドバッグを打ってみたいという欲も出てきた。かなり楽しい。私は、ブラッドリーとエスメラルダ王妃にじっと見られつつも、サンドバッグ目掛けてパンチを続けて打ち込んだ。


 バスバスバス!! バス、ドスン!! 


 ブラッドリーがぜんぜん止めないので、ずっとサンドバッグ相手に打ち込みを続ける。流石にノンストップで、全力で打ち込んでいると疲れてきて息が乱れた。気が付けば、汗も滴るほど沢山かいている。



「ストップ!」



 ブラッドリーの言葉で止まる。こ、これは結構疲れた。10分以上は、全力状態でサンドバッグを叩き続けていたんじゃないだろうか。その証拠に息は乱れ、肩は重い。大量の汗が身体中から噴き出してくる。



「はあ、はあ、はあ、あーー疲れたーーー」


「やはり見事な打ち込みですな。しかもフットワークは、それらしく使ってはいるがボクシングスタイルではなく、武道家スタイルといった感じですな。摺り足が多く見られた。とてもユニークだ。私とはまた一風異なる技術を拝見するのは、なんともためになりますな、はっはっはっ」


「はあ、はあ……そう? ためになったのなら、良かったわ、あはは」



 それにしても汗が次々と溢れてくる。ハンカチじゃとても追い付かない。ブラッドリーは、私にタオルを差し出してきたので、遠慮なく受け取って使った。



「心配しなくても、洗ったばかりのタオルですよ。新品でなくて申し訳ないですが、良ければお使いください」


「ありがとう、ブラッドリー」



 ブラッドリーは、にこりと微笑むと向こうに目をやった。トレーニングルームにドーンと設置されているリング。スパーリングをしたりする設備。



「どうですかな、アテナ様。この際、ついでにスパーリングもやっていかれませんか?」


「え? スパーリングってあなたと?」


「ええ、そうです。あなたのスキルは、実に興味深い。よければお手合わせ願いたい」



 ええ!! スパーリングも!? 


 どうしようかと迷いつつも、ちょっとお手合わせしてみたい気持ちもあった。


 ええい、ここまで来れば一緒か!! 思い切って頷くと、ブラッドリーはまたにこりと微笑えみ自慢の髭を触る。そして何かを手に取ると、私の方へと放り投げた。

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