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第1084話 『トレーニングルーム その1』



 えーーと、えーーと……


 え? どゆこと?


 トレーニングルームに入ると、そこにはブラッドリー・クリーンファルトの他に女性が1人いた。その女性(ひと)は、私のよく知る人物だった。なんとエスメラルダ王妃だったのだ。


 しかも首からはタオル。更に女性らしい、なんていうのかセクシーなトレーニングウェアを着込んでいる。


 普段は、クランベルト王国の王妃として……またこんな事を言うと、怒られるかもだけど、ケバケバしいというか……いい感じに言うとゴージャス極まりないドレスに身を包んでいるのに……むしろ、その姿しか見た事がなかった私にとっては、彼女の今の姿はとても新鮮でびっくりする姿だった。


 そう言えば、王都近くの湖。あそこに行った時も、エスメラルダ王妃はまるで女冒険者のような姿をしていた。あの時もかなり衝撃的だった。それもそのはず。彼女の普段の印象から、いつも着飾っていてそういう衣服は、死んでも身に着ける事はないと思っていたから。


 でも彼女がそう言った訳ではないし、普段の彼女を見て、思い描いた私の完全なイメージ。



「どうしたのですか、アテナ。明日行われる二回戦に向けて、てっきり仲間と共にヘーデル荒野へ向かったのだと思いましたが」


「いや、そのつもりでしたよ。でもヘーデル荒野の正確な位置を確認しようと思って。それで、クリーンファルト卿に聞きにきたんですけど……」



 まだ、目が泳いでいるし、動揺している自分がいる。あれ、なんか見てはいけなかったところに、来て見てしまったような変な気持ちになっている。うーーん、なんだろう、この気持ち。気まずいような……


 っていうか、これは偶然? それとも、エスメラルダ王妃とブラッドリー・クリーンファルトは、一緒にこのトレーニングルームで一緒にトレーニングをしていたの?


 気になる事を纏めてすっごい聞きたいけれど、聞いていいものかどうか解らない。だけど、私は結局我慢できなかった。よせばいいのに、気がつけばそれを口に出していた。




「クリーンファルト卿とエスメラルダ王妃は……なぜ一緒に? もしかして……」


「それは――」



 エスメラルダ王妃は、座っていたベンチから立ち上がり、私の方を向いて質問に答えようとした。でもその言葉を遮るように、ブラッドリー・クリーンファルトが言った。



「はは、私の事は、ブラッドリーとお呼びください。そして今日は、いいトレーニング日和ですな、アテナ様」


「え? あ、うん。ブラッドリー……そうね。確かに今日はいいトレーニング日和ね。間違いないわ」



 エスメラルダ王妃と同じく動揺。この部屋で毅然としているのは、ブラッドリー1人。っていうか、いいトレーニング日和ってなんだろうか? トレーニングルームは屋内なんだから、天気は関係ないでしょ。もしかして、天気がいいと気持ちいいし、それで今日は沢山鍛えてやるーっていう気持ちになれる日とか、そういう事なのだろうか?


 ってそんな事より!!



「えーーと、もしかして、ブラッドリーとエスメラルダ王妃は、2人でトレーニングを?」



 頷くブラッドリー。エスメラルダ王妃は、なぜそんな事をわざわざ聞くのかといった不満げな態度で、向こうをむいた。


 あれ? こ、これは……これはもしかして、かなり気まずい場所にお邪魔してしまったのではないだろうか……なーーんて……ね。何がどうなって、気まずいのか私もまだはっきりと解らないけれど。



「私から、エスメラルダ王妃をお誘いしたのですがね。フフ、駄目もとでね。そしたら、王妃は頷いてくださったので、こうして私がいつも使用しているトレーニングルームへと、ご案内させて頂いた訳ですな。ここは、私やごく一部の者しか使用できない。特別なルームなので、人目も気にしないで済みます」


「え? エスメラルダ王妃をトレーニングルームに!? じゃあ、本当に一緒にトレーニングをしていたんだ」


「ええ、まあ」



 嘘でしょ!? クラインベルト王国で見る時の彼女は、いつも不機嫌そうで私を見つけては嫌味を言う人だった。そして何に対しても不満そうで、それはお父様に対してもそうだった。


 政略結婚で、仕方なくクラインベルトへやってきた事は解るけれど、それでもその態度はあからさまで、お父様に対しても強くそうだった。


 唯一、実の血を分けた子供であるエドモンテとルーニに対しては、気を遣っているみたいだったけれど、今回の縁談の件でこのパスキア王国にやってきた彼女を見ていると、はっきりいってこれまでのどの彼女よりも、私は見た事のない顔をしていると思った。はっきりと、そう断言できる。


 まじまじとトレーニングウェアの彼女に目をやる。すると、目があった。私の事を厳しい目で睨む。



「なんなのですか? そのような目でわたくしを見て! わたくしが、トレーニングをするのがそんなに不思議ですか?」


「え? いえ、そうじゃないけど……め、珍しいなーって思って……えへへ」


「あなたは、まだ16歳でしょ。常に若さをもて余し、身体の衰えというものを知らないのでしょうけども、わたくしはこの身体をキープするにはそれなりの日々の努力が必要なのです」



 確かにそれは、解るけど……今までトレーニングなんてしている彼女を見た事がない。いや、私はいつも冒険にキャンプにと留守をしていた。ただ単に、私が知らなかっただけなのかもしれない。


 明らかに、気分を害したというような顔を見せるエスメラルダ王妃。そんな彼女に向けられるブラッドリーの眼差しは、とても優しくて慈愛に満ちている。そして私の方を見て言った。



「どうですかな? 折角ですから、アテナ様もここでひと汗流されていくというのは? 近い場所に浴場もありますので、トレーニングした後には、そこでサっと汗を流されれば良いでしょう」



 チラリとトレーニングルームを見渡す。見た事もない色々なトレーニングマシンに、一通り重さの揃っているダンベルに鉄アレイ。それにちょっとやってみたい……ベンチプレス。


 サンドバッグも、何本か吊っていて、思い切り打ったら気持ちよさそう……


 って、駄目駄目!! ここには、ブラッドリーにヘーデル荒野の詳しい場所を聞きにきただけなんだから!!


 …………


 でも昔師匠に、キャンプや冒険の魅力の他にも、色々と剣術や体術を叩き込まれた。護身にもなるし、知っていて困る事は無いからと。


 筋トレは得意ではなくて、腕力はぜんぜん大して付かなかったけれど、修行のような事もさせられてまあ自分なりには鍛えられたと思うし、正直こういうトレーニングをする為のマシーンなどを見ると、なんかこうワクワクする気持ちも湧き上がってくる。


 ああ、どうしよう。ちょっと、気になる。でもルシエル達を待たせているし……そう、さっさとヘーデル荒野の場所を聞いて皆のもとへ戻らないと。

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