第1082話 『ちょっと聞いてきます その1』
モラッタさん達は、間違いなく30人マックスで挑んでくる。そして対するこちらの数は、6人。
「それじゃ、適当にささっと買い物を済ませて、ヘーデル荒野へ向かいましょう!」
ルキアが、心配そうに私を見つめる。大きくてクリっとした可愛い目。
「はい、そうですね。でもヘーデル荒野の場所なんですけど、アテナはその詳しい場所を知っているんですか?」
「そうねー、うーん。この王都から北って言っていたかな。でも詳しい場所はと聞かれたら、はっきりとは解らないかな。ヘーデル荒野は、通常の荒野と呼ばれるものに比べると広さはそれ程でもないらしい。でも荒野っていう位だから、幅もそれなりにあるだろうし、とりあえず北に向かえば普通にぶち当たるのかなってね」
「ギャハハハハ!! ノエル、クロエ、今の聞いたか?」
「え? 何がだよ?」
「な、何がですか?」
急にゲラゲラと笑い始めるルシエルに、困惑する2人。まーた、変な事で笑っているに違いない。
「ぶち当たるって、アテナお前……勘弁してくれよー。頼むぜおいーー! ヒーーー、あーー、可笑し!」
「何が可笑しいのよ、突然笑い転げて」
「だって、アテナ。お前一応は、一国の王女様だろー? それなのに言い方! 北に向かえば普通にぶち当たるだってよー。ヒャッヒャッヒャ、お前は盗賊の頭かっつーんだよ」
「はあ? 森の知恵者と呼ばれるハイエルフなのに、そのイメージからかけ離れているルシエルに言われたくないわよ!」
「ヒーーン、アテナがあんなん言いよるーーーう! ノエルーーう、慰めてちょんまげーー!!」
「うわっ、なんだ! 引っ付くなよ、暑苦しい! あと、涙を服にこすりつけるなー!! やめろって!!」
「ヒーーーン!!」
ノエルと戯れるルシエル。まったく仲が悪いんだか、悪くないんだか。
さてと――私は皆の方を向いて言った。
「安直な考えだけど、ヘーデル荒野へは王都を出て、ひたすら北へ向かえばいいと思う。だけどルキアの心配も最もだと思うから、もう一度王宮に戻って誰かにその場所を聞いてこようかなと思って。念には念をってね」
そう言って、向こうに見えるお店を指でさした。看板には、カフェ&バーの文字。
「あのお店……あそこで皆、お茶でもして、ちょっと待っていてくれる? 聞いたら直ぐ戻ってくるから」
「解った。じゃあ、待ってよーっと。もちろん、アテナのおごりなんだろ?」
ルシエルはそう言って、にこりと天使のような笑顔で微笑んだ。
「はいはい。いいわよいいわよ。ドリンクだけじゃなくて、食べ物とかデザートも頼んでいいけど、常識の範囲で注文してくれるならいいわ」
「わーーーい、やったーー!! やっぱ、アテナは太い腹だぜーー!! イヤーー!!」
「別に太い腹じゃないから! それに、それを言うなら太っ腹だからね!」
そう言って怒ると、ルシエルは「はいはい」って感じで両耳を塞いで、またノエルの方へ寄りかかるように逃げた。ノエルは、そんなルシエルを邪魔だと言って押し返す。
「それじゃ、ちょっと行ってきまーす」
皆と別れる間際に、最後にルキアと目があった。まあ直ぐに返ってくるけど、お願いねルキア。あなたが一番しっかりしていると、信じているから。
だから、ルシエルがあのお店でリミッター解除して、遠慮なしに片っ端から注文をしないように見張っていてね。そういう気持ちを込めて、ルキアの目を見つめた。ルキアは、何か察して何度も頷いたので、これで大丈夫だと思った。うん、きっと。
さてと、それじゃまた一旦王宮へ戻りますかね。
私1人、来た道を引き返して王宮へと戻った。早速、王宮への出入口に立っている2人の門番に聞いてみる。
「あのー、ちょっといいですか?」
「あっ! これは、アテナ王女殿下!」
「アテナ様! 何か御用ですか?」
「あのね、もうあなた方も知っていると思うんだけど、明日の事なんだけど……」
2人の門番は、お互いに顔を見合わせると「うん」と頷いて私の顔を見た。
「存じております。モラッタ様達と、カミュウ殿下との縁談相手の座をかけて決闘をされているんですよね。密かにですが、私は断然アテナ王女殿下を応援しておりますよ」
「え? そうなんですか? ありがとう」
「お、お前ずるいぞ!! アテナ様のファンだって先に告白したのは、俺の方だろ! なのに、何俺より先にアテナ様にファンアピールしてんだ?」
「うっせーー!! 俺だって、アテナ王女殿下のファンになっちまったんだよ!! パスキア四将軍のロゴー・ハーオン様さえ、ぜんぜんかなわないんだぜー! 可愛くて強くて……カミュウ様が、羨ましいよ……」
「こらてめー、だからそうやってアテナ様の前で、すげーアピールしてんじゃねーよ!! こいつめ!」
王宮の警備をする兵達の顔は、その日の時間や場所でも変わる。それは、うちのクランベルト王国の王宮でもそうだった。だからこの王宮の出入口を通る度に、始めて見る顔の門番が立っていた。
だけど今いる2人は、私の事を知ってくれているみたいだった。何処かで会っていたりとか、さっき言ったロゴー・ハーオンとの試合などを見られていたって事なのだろう。
「あのー、それでちょっと聞きたい事があるんですけど」
「ああーー、すいません!! 失礼しました!!」
「申し訳ないです、アテナ様!! それで、我々にご質問とは、どのような事でありましょうか?」
ふう、やっと先に進んだ。
私みたいな他国の変な王女に対して、ファンって言ってくれている事は凄く嬉しい。だけど今は、早くヘーデル荒野の場所を聞いてそこへ向かわなければならない。
私は、2人の門番にヘーデル荒野の場所を詳しく知っていないか聞いてみた。




