第1081話 『これが私の最強パーティー』
パスキア王国、王都内にある王宮からも近い場所にある広場の1つに私達は寄って話を続けた。
これからの行き先について。ヘーデル荒野へこれから向かうにしても、王都内にいるうちに一旦ここで話を整理しておいた方がいいと思ったからだった。
対決については――、明日の8時までに目的地に着けばいい訳だしね。時間もあるし、急がなくても話は十分にする事ができる。ルシエルは、さっき言った事をもう一度聞いてきた。
「それで、戦闘になるのかよ。キャンプ対決だろ?」
「そう、キャンプ対決よ。でもトリスタン・ストラム卿が言っていたでしょ。旗の取り合いだって。あの後、再度ルールを確認する為に彼に聞いてみたんだけど、旗の取り合いとはその言葉の通り、相手の旗をゲットすれば勝ちらしい。そして相手の旗を破壊しても、同じく勝ちとみなされる」
「おおー、そうなのか。じゃあ、火を点けて燃やしちまっても勝ちになるって訳か」
「あはは、なんか物騒な言い方だけど、そうなるわね」
ルシエルは、はっとした。
「それなら、サッと相手の陣地へ行ってこっそりと近づいていって、火属性魔法でも放ってやったら余裕で勝て……なるほど、だからか!! だから、戦闘になるって言ったのか!!」
「その通り。それは、別にルール状問題ないはず。でも私はこんなでも一応王族だし、向こうも貴族令嬢とかそういうのだから、命のやり取りまではしない。そんなところね。ロゴー・ハーオンとのお手合わせ。あの時みたいな感じだと思えば、理解が早いかな」
ルシエルは、何度も頷いて拳をパンパンと鳴らした。
「そうかそうか。なら、二回戦はオレ達の得意分野だな。フヘヘ。こりゃ、余裕だぜ」
「それはどうかな」
「なにーー!! なんでそんな事をいうんだ!!」
ノエルの言葉に噛みつくルシエル。「こらこら、やめなさい」と私が間に入ると、ルキアが言った。
「そうですよ、確かトリスタンさんは、試練がって言っていました。旗の取り合い開始も、キャンプ設営から3日後の朝8時だって。だからそれまでは、その旗のある所でキャンプを設営して、そこにいなくちゃいけないって事なんですよね」
「それなら実際は、明日じゃなくてそこから3日後の朝8時に開戦なんじゃねーのか? ならそれまでにそこに行って、キャンプしている意味なくね?」
ルシエルのセリフに、フフっと笑う。ムっとするルシエル。
「トリスタン・ストラム卿が今回のゲームを仕切っている。そして試練という言葉。恐らく、明日の朝8時から私達は、その旗のある場所に辿り着いて、何かからその旗を守らなくちゃならないんじゃないかなって」
「えええ!! 守るって何から?」
「何かって言ったでしょ。それは実際行ってみないと解らない。でもそうじゃないと、明日8時にスタートっていう意味がないしね。トリスタン・ストラム卿は、試練とも言ったし、まず明日からの3日間は、私達は相手側と旗の取り合いをするというよりは、守り合い。つまりどちらが先に脱落するかの勝負になるって思っている」
頷いているノエルを見ると、私と同意見のようね。ルシエル、ルキア、クロエは驚いているみたい。
「よーーし、そういう事か!! なるほど、理解したぜ!!」
(※まだ、それ程ちゃんと理解していない。)
「それじゃ、確かに早い方が色々と準備できていいしな。もう旅だっちゃおうぜ」
「うん、そうね。でもその前に……」
クロエを見る。
「クロエは、本当に私達と一緒にこの対決に参加してくれるの?」
「え?」
「そんなの決まってんじゃんか!! 何を言ってんだアテナはーー? クロエはもうオレ達の仲間なんだぞーー、ってモガガ」
ルシエルの口を塞ぐルキア。私はクロエの手を優しく握ると、彼女を見つめた。
「パスキア最強と言われるあのトリスタン・ストラム卿が選んだ場所、ヘーデル荒野。きっとそれなりに危険な場所なんだと思う。私達は冒険者だしこういうのには、慣れっこだけどクロエは……もしかしたら、王宮でマリンやイーリス、エスメラルダ王妃もあなたの事を気に入っているから、彼女達と一緒に待っていてくれた方がいいかもしれない。どうする?」
「あ、あの……わたしは足手まといですか? それなら……」
「こういう事は、はっきり言った方がいいから言うわ。正直言うけど、クロエ。あなたはもう私達の仲間。だから足手まといなんて思わない。本当の事を言うと、一緒についてきてほしい。そして力になって欲しい」
「ち、力に……わたしがアテナさんの力に……わたし、目が見えなくて……なにもお役に……」
フルフルと頭を振るルキア。カルビも同じ風にしている。そうだよね。
「あのね、クロエ。別に腕っぷしだけが全てじゃないから。クロエには、クロエの力があるでしょ。それにもう私達にとっては、そこに……あなたが傍にいるってだけで、力になる」
「……そ、そんな事を言われた事……ないから」
「まあ、兎に角、足手まといなんて思っていないし、皆も思っていない。でも、これから先の安全は保障できない。だけど、正直な私の気持ちを言えば……一緒に来て欲しい。これは、マリンにも言える事なんだけどね」
「…………」
ルキアに口を塞がれていたルシエルは、彼女の手をべろべろと舐めて脱出する。
「モ、モガーーー!! ベロベロベローーー!!」
「きゃあああ、ルシエル!! やめてええええ!!」
「ウヘヘヘ、オレの口を塞いだりするからそうなるのだよ、ベロベロベロベロ、ヒヒヒ……思い知ったか。子猫ちゃんの味がしたぜ、ヘッヘー」
「怖いですよ、ルシエル」
「怖い? 何がだよ! いきなりオレの口を塞ぎよってからにー!! そっちのが、怖いわ! 窒息させらるかもしれんって思ったもん! ってそんな事より……クロエ」
「は、はい!」
クロエの両肩を、がしりと力強く掴むルシエル。
「要は、だな。アテナはおめえと一緒に行きたい。だけど怪我とかしたら、アレだしなーって言ってんだよ。簡単だろ? 早く答えてくれよ」
なんとも解りやすいというか、ざっくばらんなセリフ。でもそのセリフを聞いて、クロエはにこりと微笑んだ。
「そ、それでしたら、わたし……役立たずですけど、一緒に行きたいです。皆の仲間に入れてもらえるなら、一緒にこの対決に参加したいです」
「うん、解った。ありがとう、クロエ。皆もね」
「私達はいつも、アテナの味方ですから」
ルキアがピョンっと飛び跳ねて言った。カルビもその横で飛び跳ねる。
決まった。向こうはモラッタさんやデリザさんは、非戦闘員と言ってもいい位だし、キャンプなどのそういう知識もなさそうだから、30人マックスで挑んでくるとみて間違いない。そしてそのメンツは、誰もがそういう知識や技術のある者を選んでくるだろう。
対してこちらは、この6人。でもこれでいい。マリンがいたらより完璧だけど、これが私の今の最強パーティーなんだから。




