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第1077話 『やいやい!!』



「やいやいやい、この野郎!! 黙って聞いてりゃつけあがりやがってええ!!」



 全員がルシエルに注目する。騒ぎに気付いた衛兵達が、ルシエルを取り押さえようと近づこうとしたが、それをフィリップ王はやめさせた。私の大事な仲間だという事を知っているから。



「ノエルよ。ちょっと、いい?」


「なんだよ」


「ちょっと、いいかって言ってんだよ! なあ、いいだろ?」


「嫌だ! よせ、やめろ!! 嫌だってんだろ!!」


「アテナの為だぞ! 大人しくせい!!」


「ア、アテナの為なのか?」


「そうだぞ、アテナの為だ。ノエル、お前はアテナに借りがあるだろ?」


「な、なんだよ、借りって」


「何ってお前、どうしようもねー奴だな。忘れちまったのかよー、かよーかよーかよー」


「なんだそれ。もしかして、自分でエコーやってんのか」


「うるさい!! そんな事より、解らねーのか!! お前、ノクタームエルドでオレ達に牙を剥いただろ!!」


「それは……お前があたしの丹精込めて焼き上げた肉を喰ったからだ!!」


「ちげーよ!! その後だろ!! その後、お前はミューリやファムやギブンと一緒に、オレ達の前に立ちふさがった!! 違うか!!」


「うっ……こいつ、まだそんな昔の事を……」



 大勢のパスキアの偉い人達が集まるその中で、怖れも知らずルシエルと、ノエルのやり取りが続く。何、この三文芝居……


 フェッフェッフェっと、魔女のようにいやらしく笑いだすルシエル。お願いだから、もうそろそろ終わらして。パスキアの王族や貴族たちの目線が痛い。



「それで何が言いたいんだよ、お前は!!」


「あーーん、ノエルちゃんよ。簡単な事だよ。協力しろって言ってんだよ。いいだろ? お前の悪行を水に流して、仲間に入れてやったんだからよー。あーーん?」


「別にお前に水に流してもらう必要はない。それを言うなら、あの時の肉……」


「じゃあ、あれか!! アテナにも感謝はなしか!!」


「うっ……痛いところを……」



 そろそろこの三文芝居も終わりそう。早く終わってーー、凄い恥ずかしいし、この後の結末がどうなるか考えると怖くて仕方がないから。


 まあフィリップ王とメアリー王妃の事だから、笑って済ませてくれるとは思うけど。もし何かあっても、助けてくれそうなイーリスとカミュウがいるし……って、2人共顔が引きつっている。そりゃ、そうだよね、あははは……は。


 ルシエルは、ノエルの前に移動すると私の方を振り返った。



「よし、アテナ!! ノエルの肩に飛び乗れ!!」


「ええええ!! な、なんなの、それ? そんなの嫌よ!!」


「いいから、飛び乗れって!! なっ、ノエルちゃんも借りがあるよな。いいよな?」



 やらしい顔でノエルを見るルシエル。ノエルの顔を見ると、頷いている。えーー、ちょっとそれでいいの? ノエル。



「早くしろ、アテナ! ギャラリーもそろそろ痺れをきらしちまうぞ!!」


「それをあんたが言うのかーーーい!!」



 私は大声でルシエルを突っ込んだ。突っ込むと同時に、彼女達の方へ駆けて大きく跳躍。ノエルの肩に飛び乗った。なんだかよく解らないけど、もうどうにでもなれ!! ルシエルに何か考えがあるのかもしれないし。



「よっしゃーー!! それでいい、ノエル、アテナ!! ここから更にーーー、っとぅうううう!!」



 ルシエルは、一度私達から離れて距離を取ると、またこっち目指して全速力で駆けた。そして私に負けない大ジャンプ。ノエルより高く、私より高く……そして私の肩に飛び乗った。


 そう、ノエルの肩に私、私の肩にルシエルと、まるでトーテムポールのように……



「よーーーっし、これでこのダンスホールを隅々まで見渡せるな。オッケーオッケー。それじゃ、言わせてもらおうか」


「え? 何をよ」



 一瞬、何か嫌な予感がした。だけど、もうなんでか解らないけれど、ルシエルのノリに引っ張られちゃってトーテムポールまでやっちゃったから、後には引き返せない。向こうで心配そうにしているルキアとクロエが見える。助けてー。


 ルシエルは「ごほんっ」と咳払いをすると、大きく息を吸い込んだ。そして、モラッタ嬢達を指さして叫んだ。



「てめーーーらの血は、何色だあああああ!!!!」



 ええええ!! ど、どういうつもり!? ルシエルは、いったいどういうつもりなの⁉  意味解んない!!


 いつもルシエルと一緒にいる私でさえ呆気にとられているのに、デカテリーナさんだけは彼女の勢いに呑まれる事無く前に出た。



「赤色に決まっているううう!!!!」


「そうか、そりゃそうかーーーー!!!!」


 …………



 静まり返るダンスホール。本当に、そろそろ終わらせてもらいたい。このままルシエルを背負い投げて、気を失わせてダンスホールからはけるしかない。それしかないかもって思っていると、ルシエルがデカテリーナさんに指をさした。



「デカテリーナとか言ったな!!」


「そうだ!!」


「第一戦目は、お前らに有利なお料理対決だった!! 違うか!!」


「そうだ!!!!」


「やいやい!! その上、二戦目もまたお前らの有利なダンス対決などという勝負を突き付けてくるのか!! そんな卑怯な真似をして勝って、お前らはそれで満足なのかよおおおう!! おうおうおうおう……」


「そ、そう……」


「おらああ、そうだって言ってみろっつってんだ!! ああっ? ここにお集まりいただいているパスキアの皆さんも、本当にこれでいいと思ってんのか? 他国から来た王女によってたかって、無理難題な不利な勝負をつきつけてよーー!!」



 お料理対決自体は面白かったし、私の作るものが王族や貴族の口に合うかどうか解らなかっただけで、私は自分の事を料理はそこそこ得意だって思っているんだけど……まあ、今はちょっとルシエルが何を言い出すか解らないから黙っていた。


 でも皆の視線は、ルシエルとデカテリーナさんに集まっている。私達がこの対決、不利な条件を吞んで受けているって事は集まってくれた人達に強く伝わり始めたみたい。



「そんな事は関係ありませんの。二戦目は、ダンス対決、これはもう陛下にも申し上げさせて頂きましたし、決定し……」



 モラッタさんの言葉を、デカテリーナさんが遮った。



「ルシエルとか言ったな!」


「ああ、ハイエルフのルシエルちゃんだ」


「いいだろう、二戦目もどうせ私達が勝つ!! 何で勝負する?」


「ちょ、ちょっと待ちなさいデカテリーナ……うう!!」



 止めようとするモラッタさんの首を鷲掴みにして、それ以上発言させないようにするデカテリーナさん。ルシエルは、「とりゃ」っと言って私の肩から飛び降りると私を指さした。



「勝負しているのは、アテナだ。アテナに聞けばいいだろが。デカテリーナよ」


「ウフフ、確かにその通りだね。では、次の勝負はアテナ王女、あなたが決めてください。私達は、それを受ける。それでフェア」



 大歓声がダンスホールを包んだ。


 ルシエルのいきなりの登場で、ダンスホールが凍り付いた時は、一時はどうしようと思ったけれど、お祭り気分で集まっている王族や貴族の方々、それになんと言ってもフィリップ王やメアリー王妃からしてみれば、この展開は大興奮なものになったらしい。


 なんだかなー、もう。でも、こんな強引な方法でもっていくなんて、流石はルシエルってとこかしら。


 ルシエルに視線を向けると、それに気づいた彼女はこちらにウインクしてみせた。あれ、きっと私の真似をしている……って思ったけれど、自然と私の表情は笑顔になっていた。

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