表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1074/1212

第1074話 『お料理対決 その7』



 ドネルケバブ。鶏や牛、豚もいいとは思うけれど、大きく切り取った肉を大きな鉄串に刺して、常にゆっくりと回転させてじっくりと火にかけて焼き上げる料理。


 実はこの料理を作った事は、これまで一度もないし、クラインベルト王国でさえ見た事もなかった料理。それがドネルケバブ。


 そんなものをどうしてこの私が、知っていて作れるのかっていうと、以前に本を読んで知った訳で……あはは、ずばり答えを言ってしまうと見様見真似だと言っておこう! 人が聞けばこんな大勝負でまさかって思うかもだけど……えへへ、でも本当なんだ。


 ルシエル、ルキア、カルビ。4人で旅をした、何処までも荒野が広がるガンロック王国。その楽しかった旅の最後の方で立ち寄ったガンロックフェスは、最高だった。沢山のアーティストが集まり、そのアーティスト達が演奏する様々な音楽を聴きに更に沢山の人達が集まった。私達もそうだった。


 そしてガンロックフェスは何日か連日休みなく開催されていて、やってきた人達はテントを張ってキャンプをしていた。そういう人達をターゲットにして飲食の出店もかなり多く、ルシエルやルキアと色々と世話しなく回った。


 その時に、目にした料理。それがドネルケバブ。


 あの時は、ちらっと見つけて興味を持ったんだけど、買って食べる事はなかった。だけど後々、物凄く食べたくなって後悔したんだよね。その時の事を急に思い出して、この対決で実際に作ってみる事にした。


 あの初めてケバブを出していた屋台を目にした時に、珍しいものがあるとじーーって見ていた。だからある程度は、どういう料理かは解っているつもり。うん、実際作れるとは、思う。でもそのうち、チャンスがあればちゃんとしたドネルケバブを一度、食べてみたいけどね。


 私はフィリップ王、メアリー王妃の他、大勢のギャラリーが見守る中、手にしている大型の調理用ナイフで、こんがりとテリテリに焼けた牛肉の表面を削いだ。


 何度が肉を削ぐと、また回転させて削いだ部分に火を当てる。もちろん特製タレを塗るのも忘れずに。そして調理台へ移動すると、事前に用意していた角食パンを厚めにスライス。


 レタス、トマトを乗せて、ピクルスとチーズも乗せる。そしたらそこへマスタードやマヨネーズ、特製のソースをかけてさっき削いだ肉を乗せる。最後にもう一方のスライスしたパンを乗せてサンド。


 これで良し。調理している側である私のお腹が、物凄い大きな音で鳴ってしまいそうな位に美味しそう。

 

 私はまずそれを、フィリップ王に手渡した。続けてメアリー王妃の分もせっせと作る。



「おおー、これは美味そうだの」


「美味そうじゃなくて、実際に美味しいですよ、陛下」


「ふむ、サンドイッチのようじゃが、とてもボリューミーな見た目じゃな。ここは、ワイルドにガブリと噛みついてみるかの」



 フィリップ王はそう言って、皆の注目の中、私の作ったケバブサンドに豪快に齧りついた。



「モッムモッムモッム……うおおおおお!! こ、これは!! これは美味いのおおお!! 美味じゃ、とても美味じゃぞ!!」



 続けてメアリー王妃に手渡すと、陛下の言葉を聞いた他の人達が私に殺到した。



「私にも一つくれ!!」


「私もよ、私も頂戴!!」


「儂もだわい、儂も食べてみたい!!」


「私もだ! ここだけの話、私はこんな料理を食べる為に、この世に生を受けたのかもしれん! だから、よこせ!!」


「はいはいはい、ちょ、ちょっと待って!! 順番、順番だから!! あと、先に審査員の皆さんから配らないと駄目だから、ちょっと待ってね!!」



 どうだ、これは美味しいでしょ! フッフッフ!


 また肉を削いでは、サンドを作る。ケバブサンド。審査員の皆さんにも行き渡ると、私達も食べてみたいと、更に周囲の人達が押し寄せてきた。



「ちょ、ちょっと待って!! 順番につくるからーー!!」


「押すな押すなー!! 私が先だぞ!!」


「いえ、わたすぃーが先でザマースヨ!」


「こりー! 押すでないわい! わすからじゃぞえー!!」



 想定していたよりも大人気。モラッタさん達を見ると、3人共ちょっと悔しいという顔をしている。


 モラッタさん達は、審査員だけに料理を振る舞っていたけど、私はダンスホールに集まってくれた人達全員に振る舞っているからね。ちょっとこれは、卑怯かもしれない。だけどここは、モラッタさん達のホームなんだし、これ位は多めに見て欲しい。味方を多くつけるのも、私の戦法の一つ。


 審査員のディディエもこのケバブサンドを食べて、何度も頷いている。フィリップ王とメアリー王妃は、もっと食べたいとお代わりを言ってきた。フッフッフ。これは、もしかして……勝ちをもらったかもしれない。


 実際、王族や貴族なんていうのは、モラッタさんが作ったような上品なものは食べなれている。でもそういう料理のスキルは、私はモラッタさん達に遠く及ばない訳で、対抗するにはこういう王族や貴族が食べなれていない新鮮な、目新しいもので勝負するしかないと思った。そう、インパクトね。結果、大成功かな。



「これは牛肉であろう? 余はこのような牛肉は食した事がない。実にまったりとして、なんとも言えない味じゃ。美味である」


「フフフ、そうは言いますけど陛下。この牛肉はパスキア産……つまりこの王国の牛肉なんですよ」


「ま、まことか⁉ だが余は、このような牛肉を知らんぞ」


「それはそうかも。なにせ、このお肉はタレをまんべんなく丁寧に塗って、焚火にかけてゆっくりじっくり焼く――というだけではなく、美味しくなるように準備も欠かしてませんから」


「つまり、特別な下準備とな?」


「はい。ドネルケバブに合った上質な美味しいお肉を選び出し、それを特製のヨーグルトと数種類のスパイスと、一緒に大きな樽へ入れて漬けこむ。それがまたこのお肉を更に美味しくする(すべ)なのです」


「ヨ、ヨーグルトとスパイスをか」


「そうです。因みに、本当はもっと長い時間、漬けこんだ方がもっと良質な旨味を引き出す事ができるんですけどね。それはまた次の機会ですね」


「ほ、ほう!! 大した手間暇がかかっておるな! なるほど、確かアテナは冒険者というだけでなく、料理人としての才も秀でているみたいじゃな」


「お褒め頂き、嬉しく存じます」



 ルシエルにルキアにクロエ。皆、手伝ってくれて、ようやくこの中庭に集まってくれた全員に料理が行き渡った。もちろん、モラッタさん達にもね。


 でも私達の腕の見せ所は、まだ終わらない。これはまだ一品目だからね。ノエルの方へ眼を向けると、彼女は串に一つ一つ丁寧に鶏肉を刺したものを、焚火でじっくりと焼き上げていた。


 焼き鳥――その数、100本以上。ケバブに続けてお肉が続くけど、これでいいはず。今、皆が飲んで楽しんでいるドリンクにもこれがよく合うから。



「アテナ、焼けたぞ!」


「ありがとうノエル。それじゃ、まずは陛下とメアリー王妃に。続いて審査員の皆さんにいきわたったら、どうぞ他の皆様もお召し上がりください」



 ケバブの次は焼き鳥。今度は焼き鳥をせっせと焼き上げるノエルの前に、大勢が押し掛けた。


 当初はダンスホールで行われたお料理対決。コース料理に始まり、今は中庭に移動してお祭りのようになっていた。私達の使用してる調理台は、まるで屋台のようになっている。


 フフ、でも屋台で買って食べるのって、とっても美味しいし、楽しいよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ