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第107話 『ガンロックの書店』 (▼アテナpart)






 サナスーラの村から巨大なロック鳥に乗って、ガンロック王国の王都に到着すると、私は早速ルキアと一緒に書店に向かった。オロゴの村でナジームからもらった手紙を見つめる。



「うーーーむ」


「悩んでますねー、アテナ」


「うーーむ、悩んでいるよ」



 隣にいる小さな猫娘は、私と同じように眉間にしわをよせた。


 王都には、ナジームの知り合いの書店屋さんがいるという。そこでこのナジームからの手紙を見せれば、もしかしたらリンド・バーロック著者の『キャンプを楽しむ冒険者』という本の第2巻が手に入るかもしれない。今、持っているのはリンドが旅したクラインベルトからガンロックの王都までを記した1巻のみ。だからもし2巻が入手できるなら…………うーーん、欲しい。


 ルシエルとヘルツは、書店には興味がないらしく王都に着くなりカルビも加えて、3人でちょっと街を見てくると言って何処かへいってしまった。なので、ルキアと二人でその書店を探しているんだけど――――流石、王都。人も多いけど、店も沢山あるし、書店だって1店舗だけじゃないはず。


 困ったな――、いったい何処から探せばいいのか。


 まあでもヘルツの話ではガンロックフェス開催は2日後かららしいし、それだけ時間があれば探し出せるかな。


 ええいっ! めげていても仕様がないのだ。とりあえず、片っ端から見て回ろう。


 ――――3店舗目を回った所で、ルキアが何かに気づいた。その小さな可愛らしい手で私の腕をポンポンと叩いてくる。



「アテナ、アテナ!」


「うん? なにルキア?」


「ナジームさんから頂いた手紙なんですが、開けて見ちゃだめですか?」


「え? どうして?」


「あの、もしかしたらですけど……それを見れば、ナジームさんが言っていた書店の場所が解るんじゃないですか?」



 ナジームからの手紙の内容を見る? あっ!!



「ああああ!!!!」



 急に大声をあげてしまって、周囲の人達がみんな何事かと振り向く。私は、思い切りルキアを抱きしめて頭を撫でた。



「ふあっ!」


「ありがとうルキア!! ほんに、この猫娘っ子は賢い子じゃ!!」



 確かに考えてみれば、その手があったよ。完全に盲点だった。早速、ナジームの手紙を開けて内容を確認する。あった! 確かにそこにはナジームによって書かれていた。書店の名前がちゃんと記されている。



「ありましたか? アテナ?」


「うん。あったよ、本当にルキアのお手柄だね」


「えへへ」


「イスラ・エルーク。なるほど、この人ね。よーーし、早速このイスラさんのお店に行こう」


「はいっ」



 周囲を見回す。私は人混みの中から、近くにいた巡回中のガンロックの王国兵士を捕まえて、イスラさんの書店の場所を聞いてみた。そして運よくその兵士は、お店の場所を知っていた。


 ――――お店の場所を聞いた所から、徒歩20分程の距離の場所に、そのお店はあった。私は、ルキアと顔を見合わせたあとその書店に入ってみた。



 カランカランッ



 店の扉に取り付けられたベルが鳴った。


 店に入ると、外の活気溢れた王都内の雰囲気とは違って静寂に包まれていた。そして、紙とインクのかおり。無意識に深呼吸をしてしまう。私は、この本のにおいが大好きだ。ふとルキアを見ると、ルキアも鼻をクンクンとさせている。やはり獣人は、ヒュームより嗅覚も鋭いのかな。



「本のにおいっていいですね」


「うん。紙とインクのにおいだね。私も大好きなんだ」


「わ……私も好きかもです」



 店の中を見渡すと、書店というだけあって色々と数えきれないほどの本が置いてある。棚に収納されている本、これから整理されて棚に陳列するのか山積みになっている本。


 奥の方の角の方に、お客さんらしい人が一人、本を手に取り読書している。その更に奥にカウンターがあって、そこにも人がいて椅子に座っている。あの人が店主……つまり、イスラさんだろう。


 私は、店主に話しかけようとすると、そこで読書していたお客さんが、先に店主に話しかけて1冊の本を購入して去っていった。



「すみません。イスラ・エルークさんですか?」


「おお。儂がそうじゃが、なんじゃね?」



 私は、ナジームからの手紙をイスラさんに手渡した。そして、リンド・バーロックの『キャンプを楽しむ冒険者』の2巻を探していて、それが欲しい事を伝えた。



「ふむ、なるほど。この本なら、あるよ。」


「本当に!! やったーー!」


「やりましたね、アテナ」



 嬉しさのあまりルキアと両手を合わせる。イスラさんにその本がある場所に案内してもらった。



「ふーーむ、確かここにあるはずなんじゃが……ちょっと待ちなされよ……」



 探してくれている。…………あれ、この場所は?



「残念じゃが、売り切れてしもうたようじゃ」


「ええーーー⁉ 嘘でしょー!! ちょっとどうにかなりませんか?」


「何冊かはあったんじゃがそう言えば、残り1冊になっていたようじゃ。それをさっきのお客さんが買うていってしもうた。残念じゃが……もう一足、早ければ……」



 さっきのお客さん! さっきお店で読書していたお客さんが、読んでいた本がそれだったんだ! 



「アテナ……?」


「ルキア! 急いでさっきのお客さんを追いかけよう!」


「は……はい!!」



 私とルキアは、慌ててお店を出てさっきのお客さんを探した。まだそれほど、遠くへは行っていないはず。 


 踊り子みたいな肌が露出したセクシーな服装に、長い髪。綺麗な女性だった。王都内は人でいっぱいだけど、あの目立つ服装なら、そこにいればきっとすぐ目がいくはず。

 

 私とルキアは、必死になって周囲を見回して、さっきのその女性を探し始めた。

 







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

物語の主人公。クラインベルト王国の第二王女で、ランク冒険者。その強さは、Dランクどころではない。キャンプが趣味で冒険者よりもキャンパーと名乗りたがっている。キャンプの他に食べる事、冒険が大好きで仲間と共にクラインベルトからガンロック王国へ旅をする。カッサスというガンロックにあるクルックピーレースが盛んな街でレースに出場後、義理の母であるエスメラルダ王妃の追手を回避しつつもガンロック王都を目指す。サナスーラ村に王都までの移動手段があると聞いてやってくると、ロック鳥に乗って王都までひとっとびした。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナの仲間で一緒にパーティーを組んで旅を楽しんでいる。知的で同族以外の者とあまりかかわりをもたないハイエルフとは対照的な性格をしている。ガサツで粗暴な印象もあるが、実は優しくて情に厚い。弓の名手で精霊魔法も使える。カッサスの街でのクルックピーレースではアテナや現チャンピオンを抑えて優勝した。Fランク冒険者。


〇ルキア 種別:獣人

カルミア村出身の猫の獣人。家族や同じ村の人達を盗賊団に殺され、奴隷にされかけた所をアテナに助けられる。それからアテナの仲間になり、一緒に冒険をする。とても優しくて、まっすぐな女の子。文字に戦闘にと日々鍛錬を重ねるが、まだ幼い。でも、きっとこれから成長をしていくのだろう。アテナに憧れている。


〇カルビ 種別:魔物

子ウルフ。ニガッタ村に移動中、ルシエルと知り合い使い魔となった。それからは、アテナ達と行動を共にする。ルシエルの使い魔という事になっているが、ルキアといいコンビだったりする。名付け親は、ルシエル。


〇ヘルツ・グッソー 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、ボウガンを得意とする【アーチャー】。ルシエルとは狩り友で、以前アテナ達とキャンプもした事がある。彼は狩りだけでなく、ギャンブルや音楽など色々と多趣味。


〇ナジーム・フムッド 種別:ヒューム

行商人。アテナ一行がガンロック王国に入国したての頃、この土地の事をあまり知らず遭難し命の危険に瀕した。その時にナジームと出会い、彼に救ってもらった。ルキアはナジームを見て、なんとなく父親に似ていると思って重ねて見ていた。


〇リンド・バーロック 種別:ヒューム

約150年前に実在した冒険家。アテナは、彼の残した冒険譚が記された本の愛読者で、彼の訪れた場所に興味がありトレースしようとしている。


〇イスラ・エルーク 種別:ヒューム

ナジームの友人で、ガンロック王国の王都内で書店を営んでいる。ナジームの話では、彼の店に行けばアテナの探している本が見つかりそうだという事だが……


〇サナスーラの村 種別:ロケーション

カッサスの街から近い位置にある村。馬やクルックピーなら簡単に行ける。この村にはロック鳥がおり、運賃を支払うと王都までひとっとびに送ってくれる。アテナ一行は、この方法で鎖鉄球騎士団を振り切ってガンロック王都に到着した。


〇オロゴ村 種別:ロケーション

ナジームに助けられたアテナ達がその後、ナジームと共に立ち寄った村。旅人がこの辺は多く、村でも店が豊富にある。


〇ガンロック王都 種別:ロケーション

アテナ一行の現在地。広大なガンロック王国内では西側に位置する王都。もちろんこの国を統べる王族が住んでいる場所。

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