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第1066話 『集まってくれた皆』



 正直言うと、私もそう思ったんだけど……ちょっと図々しいかなと思って言えなかった。するとルシエルが代わりに、なんか食べたい、それに喉も乾いたと言い出してくれた。


 ルシエルの事を、まったくお行儀悪いと思う自分と、でかしたって思っている自分がいる。多分、後者が本当の私だろう。


 イーリスはまだ早朝なので、軽めがいいと言ってメイドさんに全員分のサンドイッチと紅茶を用意してくれた。更にクッキーも。これには、ルシエルよりもルキアとクロエの方が嬉しそうな声をあげた。


 イーリスに御礼を言った後に、サンドイッチを頂く。紅茶を飲みながら、クッキーを手に取った。そしてとても上質なゆったりとした大きなソファーに腰をかけつつも、イーリスに問いかけてみた。



「イーリス」


「はい、アテナお姉様」


「それであなたは、どうして私達にここまでしてくれるの?」



 イーリスは、ウフフと笑った。



「モラッタさん達には、セリューお兄様とダラビスお兄様が力を貸すらしいですわよ」



 セリューは、第二王子でダラビスは第三王子。因みに第一がエリックで第四が、私の縁談相手になっているカミュウ。



「…………ふーん、そうなんだ」


「あら、なぜって言わないのですのね」


「まあ、だいたい予想はできるから。セリュー王子のパスキア四将軍、その一人であるロゴー・ハーオンと悶着があったのは確かだし、それで嫌われているみたいだから。だから敵意を向けられる理由としては、ガスプーチンの言った事ではなく、そっちかなってね」



 ガスプーチン。パスキアの宮廷魔導士である彼は、パスキア王家の行く末について常に繁栄と平和をもたらす術を考え、王家の者を導かなくてはならない。それは解る。彼の本来の務めだから。でも彼は、その事でカミュウとの縁談について、口を挟んできて対抗馬まで出してきた。


 パスキア王国の者は、大昔に魔王を退治したという、選ばれし伝説の勇者一行の血を受け継いでいるらしい。ガスプーチンは、その血統かそうでなくとも、パスキア人同士で結ばれなければならないと言った。


 正直、あの場にいたフィリップ王やメアリー王妃も、ガスプーチンの言葉に感銘を受けているような感じだった。


 つまり選ばれし伝説の勇者一行の血を、一切引き継いでいないだろうクラインベルト王家のこの私は、パスキア王国の王子に相応しくないのではと。


 勇者一行の誰かはちょっと思い出せないけれど、その誰かの血を引いているというパスキア王家の者は、同じパスキア人と結ばれるべきではないのかと考えているのかもしれない。そうね、きっと相応しくないと心の中では、思っているのかも。そういう事だと思う。


 まあ、理由はどうであれ、この縁談に反対してくれているのなら、行きつく先の望みは私と一緒なんだけどね。


 だけどそう言えばこの件に関して、二点ばかりの問題がある。


 一つは、エスメラルダ王妃との話。エスメラルダ王妃は、謁見の間でガスプーチン、それにフィリップ王にも恥をかかされたと思っている。だからそれに対して、今までこの縁談を成功させる為に色々と手を尽くしてきたみたいだけど、怒りが勝ってしまってこちらからこんな縁談は、反故にすると言い出してしまった。だけど反故にするにしても、売られた喧嘩は買いたいのだという。


 だから急に私の対抗馬として現れた3人のお姫様、モラッタさん達と勝負をする気になった。そしてその勝負に勝った上で、この縁談を白紙にして、クラインベルトへ帰りたいと言っている。


 (まつりごと)というのは駆け引きらしい。私にはよく解らないけれど、こういうエスメラルダ王妃のやり口も、その類いだと思う。


 まあ、要は私が勝った上で、この縁談の話を叩き返せば、私達が軽んじられて凄く怒っているという意思も強く伝わるし、エスメラルダ王妃の気も晴れるという訳だろう。結局は、気持ちが収まらないからやり返したいみたいなもんだとも思うけど。


 そしてもう一つだけど、あのガスプーチンという宮廷魔導士についてだった。


 フィリップ王やメアリー王妃は、あの男の事をそれなりに信頼している様子だけど、私にはかなり胡散臭く見える。まだ先入観だけだけど、あの手の者は、なーんか何か良からぬ事を画策しているかもしれないと思ってしまう。


 何を根拠にって思うかもしれないけれど、あんなタイミングで対抗馬を出してくる上に、私達を半ば馬鹿にしているような態度。それだけも十分だけど、そういう雰囲気もあった。エスメラルダ王妃もそれについて、何か感じているかもしれない。


 イーリスは、紅茶を一口飲むとこちらを向いた。



「実はわたくし、ガスプーチンやお兄様達とは考えが違いますの。ミネロッサお姉様もメリッサお姉様も、わたたくしと同じ考えなんですが……うん、ずばり申しますわ! アテナお姉様には、わたくしの本当のお姉様になって頂きたいの!」


「そ、それって」


「そうですわ。わたくしは、カミュウお兄様とアテナお姉様が結ばれる事を、心から願っていますの。ですから、わたくしはこのモラッタさん達との対決に置いて、全力でアテナお姉様のサポートを務めさせて頂きますわ。ミネロッサお姉様とメリッサお姉様は、わたくしのように全面的なバックアップはできませんけど、思いは同じですわ!」


「そう、それでここまでしてくれるんだ。ありがとう。でも私、カミュウ王子との縁談をこのまま進めるつもりは……」



 イーリスは、にこりと笑いクッキーを手に取り、それを私の唇に当てて言葉を遮った。つい反射的に、喋っている途中だというのに、クッキーを齧ってしまった。美味しい。



「もっぐもっぐもっぐ……んんーーー!!」


「ウフフ、そんなに結論を急がないでもらえますか? とりあえず今は、モラッタさん達に勝利する事だけを考えましょうよ! 他の事はその後ですわ」



 確かにその通りだと思った。


 もともとこの勝負は、売られた喧嘩を私とエスメラルダ王妃が買った的な事だもんね。


 まずは、これから間もなく行われるモラッタさん達との対決。それに勝つ事だけを考えよう。じゃないと、協力に応じて早起きまでしてこうして集まってくれた皆には、申し訳ないもんね。うん。

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