第1060話 『勝負内容とは』
「勝負は、先にお伝えしましたように三本勝負。そして一本目は、お料理対決です。二本目以降の対決方法は、また順にお伝えしますわ」
「二本目以降の勝負方法については、一本目の勝敗で変えるという訳か」
ノエルの呟いた言葉に、ルキアが反応する。
「そ、それってどういう事ですか?」
「つまりこういう事だ。フィリップ王やメアリー王妃は、かなりのお祭り好きと見える」
「祭りはいいぜ! オレも祭りは大好きだ。ワッショイ、ワッショイ! エルフの里にも一応そういう祭りみたいなのはあってなー、でもすんげーしんみりした祭りでよ。はっきり言ってオレ好みでないのよ。オレ的にはこう、なんてーの。デカい丸太に跨がって崖を滑り落ちていくみたいな、豪快な奴とかいいよな」
ルシエルの言葉を無視して、ルキアと続けて話すノエル。ルシエルは、誰に話しているのか解らない感じで、エルフの里の祭りについて語っていた。だけど直ぐにはっとして、黙った。誰も聞いてないと、気づいたらしい。
「王様と王妃様は、お祭り好きなんですね」
「そうだ。でも祭り好きというか、余興好きなんだろうな。このお嬢さん達が、ガスプーチンと共にアテナの縁談に割り込めた理由だが、その代償として王様達をそれなりに楽しませなくてはならないんだろう。つまり、アテナを下してカミュウ王子の縁談相手としての権利をむしり取った後に、王様達に――ホラ、私達のお陰で楽しかったでしょ? いい余興になって良かったでしょ? だからカミュウ王子の縁談相手として、私達を認めてくださいねって言うつもりなんだろーよ」
「な、なんですか、この口の悪い小さな娘は⁉」
「ノエル・ジュエルズ。ハーフドワーフだ。あと小さいは余計だ」
「ド……ドワーフ……どうりで……」
ルシエルが口を抑えて笑いを我慢している。モラッタさんの言葉の後に、小さいって続くと予想して、的中したからなんだろーけど。
だけどいつもは、ノエルもそれに気づいて怒るのに、今は大事な話をしているからかルシエルに喰ってかからない。モラッタさんを睨んでいる。
「王様達を楽しませたうえで、アテナになんとしても勝つ。だから自分達に有利な場所と、勝負方法を選ぶ。だけど、ただ勝つだけでは駄目だ。王様達を楽しませなくちゃならないからな。つまりは、そういうことだろ?」
ノエルの言葉に唇を噛むモラッタさん。
「くっ……そんな訳はありませんわ。わたくし達は、正々堂々とアテナ王女に勝負を挑んでいるのですから。ですが、ノエルさん。あなたの言い分もまあ解ります。あなた方側からそう見られても、確かに仕方がない事なのかもしれない」
ルシエルが、口を挟む。
「しかもここは、ホームだ! お前達に有利この上ない!」
「ですから、これも先に言いましたが、わたくし達3人に対してアテナ王女おひとりでお挑みになるというのは、流石に無茶というものですから、助っ人をつけてもいいと条件をださせてもらいました。そして更にその助っ人の人数は、アテナ王女がお決めになる。それでよろしいでしょう」
「そう、なら私が本当に決めていいの?」
頷くモラッタさん。
それならお言葉に甘えて……さて、どうしようか。
助っ人の人数を……例えば100人って増やしても、それならモラッタさん達も同数出してくるだろうし……そんなワチャワチャした勝負になっても困る。もっと人数を減らせと、フィリップ王にも言われるよね。私もそんな人数で、勝負なんてしたくないし……
なら――
私は、今この部屋にいる仲間達に目を向けた。
ルシエル、ルキア、ノエル、カルビ……カルビはきっと認められないよね。だったら……クロエとマリンも加えて6人……ってちょっと多いか。
もし二戦目の勝負が剣での決闘とかになったらアレだし、そうなったらクロエを参戦させるのは危険かもしれない。マリンも、随分と王宮の書庫に、ご執心みたいだから協力してくれるかどうか……
まあ言えばきっとマリンの事だから協力はしてくれると思うけど、流石にちょっと人数が多いかなと考える。あれこれうーんうーんって唸り、いつまでも考えている私を見て、モラッタさんは言った。
「いいですわ、それじゃ5人にしましょう。どうですか?」
「ご、5人!?」
「駄目ですか? ではとりあえず、一回戦のメンツは、5人まで。それでメンバーチェンジは、今後の対決も勝負が始まるまでは、基本的に認めるものとする。それでどうかしら」
なるほど。つまり、勝負中でなければいつでもメンバーは、好きにチェンジしていいって事ね。ちょっと引っかかるものはあるけれど、面白そうだからこれでいいかな。
「解ったわ。じゃあ、それで。最後に確認だけど、本当に私の味方してくれる他の4人は、誰を選んでもいいのね」
「いいですわよ。ですが、これは女同士の勝負ですから、殿方の参戦は認めません。無粋ですからね。後はお好きに、オホホホホ」
ふむー。なるほど。
「あと最後の最後にもう一つ。明日のお料理対決。どういった内容で行われるのか教えてくれないかしら?」
「あら、どうしてですか?」
「どうしてって……そちら側で勝負内容やルールを決めるのであれば、先に知っている方が準備や対策ができて有利でしょ? だから」
「それは明日、改めてお話しますわ。それでは、今日はこの辺でごきげんよう。カミュウ殿下、またいつでもいらしてくださいね。さあ、皆様お帰りです。お見送りを――」
こうしてモラッタさんに、私達は館から無理矢理追い出されてしまった。
うーーん、どうあっても自分達に有利な勝負にしたいのね。まあ、勝ちたいのなら解るけど。
ルシエルが言った。
「いいのかよ、あんなんで?」
「うん、いいのいいの。聞きたい事と引き出したい事は、できたし。皆、大変申し訳ないんだけど、明日は私に力を貸してください!」
「もちろんです、アテナ!」
ルキアの返事を皮切りに、ルシエルとノエルも任せろと腕を高く突き挙げてくれた。