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第106話 『大浴場 その2』





 確かにそう考えれば考える程に、物凄くしっくりとくる。そもそもリアたちの村が賊に襲われた理由は、賊が商品となる奴隷を手に入れる為だったはず。だから、リアは商品として価値があり生かされていたのだ。


 そうなると、リアのお姉さんもやはり生かされていて、リア同様に、妹は死んだと言い聞かせて希望を奪い去り、奴隷にしているという可能性は極めて高い。…………そう考えれば考える程に、そうなんだと確信に変わっていく。


 私の心の何処かにまだ、ぽっかりと空いた穴がある気がしていた。それがなんなのだろうかと考えていたけれど、その穴の正体は、実はこれだったのかもしれないと思った。



「承知しました。ルーニ様! その件、このテトラ・ナインテールにお任せ下さい! 私が責任をもってリアを、リアの村へ無事に送り届けます。そして、リアのお姉さんの何か手がかりがないか、調査もしてきます。私、絶対にリアのお姉さんは生きているんじゃないかなって思うんです!」



「やっぱりそうだよね! そう思うよね!!」


 

 ルーニは、興奮してお風呂の中で立ち上がり飛び跳ねた。それを見たセシリアが慌てふためく。



「ルーニ様! いけません! お風呂の中で、そのように飛び跳ねますと転んだりするかもしれませんし、危険です!」


「アハハ。ごめんなさーい、ルーニ、興奮しちゃった。それでね、リアからあれこれと話を聞いているうちに、ルーニもそうなんじゃないかなって思って」


「私にお任せ頂ければ、喜んで引き受けさせて頂きます!」


「うん! ありがとう、テトラ!」


「ありがとうございます! テトラさん!」



 ルーニ様に続いて、リアもお礼を言った。セシリアも何か言おうとしたけど、私は思わずそれを制してしまった。セシリアの事を思っての行動だった。セシリアが声を発する前にルーニ様に申し上げる。



「ですが、セシリアは国王陛下直轄の王室メイドです。基本的には、陛下の命なくしては勝手な事はできません。それが第三王女からの命であってもです。ですが、私は王宮メイドと言っても下級メイドですので、メイド長に事情を話せば、リアをリアの村へ連れて行く事も、リアのお姉さんの生死を確認する調査をする事も可能だと思います」


「テトラ……あなた……」


「解ってますよ、セシリア。私一人でも、大丈夫です。セシリアは、陛下のおそばでセシリア本来の使命を果たしてください」



 セシリアにはセシリアの望んでいる世界がある。私は微笑んでそう伝えると、セシリアはそれ以上何も言わなかった。


 ルーニ様は、そんな私とセシリアの顔をキョロキョロと交互に見た後、頷かれた。

 


 


 ――――翌日、私は陛下に呼び出されると、驚く程の高額の恩賞を賜った。


 恩賞を持つ手が、震えている。もしも今すぐメイドの仕事を辞めたとしても、食べて生きていくのに不自由ない位のお金。


 更に陛下は、「何か望みがあれば何でも言うがよい」とおっしゃってくださった。


 早速私は、昨日大浴場でのルーニ様とリアの話をした内容について申し上げた。リアと共にリアの村へ行って、その奴隷商に焼き払われた村の調査をしたい。調査して、何か解決できる事があるのなら、それを解決したい。



「テトラ・ナインテール」


「は、はい! 国王陛下!!」


「お前は折角の自分への褒美を、そのように他の者のために使いたいと申すのか?」


「は、はい。恐れながら、陛下もご存じだと思われますが、私の育ったフォクス村も以前、多くの者に襲撃されました。賊ではなく、ドルガンド帝国にですが、私も含め村人達は酷い思いをしました。ですから、リアのように同じような境遇の者が一人でもいるのだとしたら、私は放ってはおけないのです。私があの時、助けてと何度も叫んで祈り、やがてそれが絶望に成り果てた時、最後の最後で陛下とモニカ様が救ってくださった事、私は忘れられません。今度は、私が誰かを助けたい」


「…………フォクス村。なるほどな。お前がそれで良いと言うのならば、いいだろう。余も、このクラインベルト王国からそのような賊を討伐し尽くす事に日々尽力してはおる。立場は違えど、お前と気持ちは同じじゃ」

 

「ありがとうございます! 陛下!」



 その申し出を聞いた陛下は、快く許しを下さったが、欲が無さすぎると笑っておられた。


 陛下との謁見を終えた私は、早速リアと共に荷物をまとめて王宮をあとにした。目指すは、リアの住んでいた村。



「セシリアさんには、何も言わなくて良かったのですか?」


「はい。いいんです。セシリアのお仕事は、下級メイドの私とは違って、本来は王宮の華やかな場所で陛下や王妃様、王族を支えるお仕事だから。ちょっと寂しいけど、セシリアにとっては王宮で陛下のおそばにいる方が幸せなんです、きっと」


「そうですか……でも、差し出がましいかもしれませんが、行ってきます位は伝えた方が良かったんじゃないでしょうか……」


「………………はい。でも、いいんです」




 ――強がりだ。


 本当を言うと、凄く寂しい。私の全ての物語の始まりは、セシリアと共に始まったから……もっと、セシリアといたかった。もっと一緒に冒険したかった。セシリアがいたから、どんな苦難も乗り越える事ができた。


 ルーニ様を救出するべく、王都を出発して旅した事や、キャンプして沢山お喋りした事は忘れられない。また一緒に旅をして色んな冒険をして、もっとお喋りたい。


 …………でも、仕方がない。セシリアには、セシリアに合った一番良い幸せがあってそれを掴んで欲しいから。それが、親友としての私の気持ち。


 だから、私もいつまでもくよくよしていないで前に進まないと――――


 王宮に戻れば、セシリアとはいつでもまた会えるんだし…………



「じゃあとりあえず、あれですね」


「あれですか?」


「はい! リアの暮らしていたカルミア村までは、何日かかかりそうだからテントや食糧などを買いに行きましょうか?」


「はいっ! 解りました」



 こうして、リアと出発した。ザック背負い、城門をくぐる。



 ――――風。



 …………刹那、城門の外に綺麗な黒髪をした、眼鏡の女性が立っていた。彼女はメイド服を着ていて、背中には私と同じ……というか、見慣れたザックを背負っていた。それを見た私は、あまりの驚きに声が詰まる。



「セセッセセセ……!!」


「なに? そんなに驚いた顔をして、何かあったのかしら? それはそうと、私もちょっと思ったのだけれど、リアの村を調査をするなら少しでも人手があった方がいいでしょ? それに何か手がかりが残っているかもしれないと言うのなら、出来る限り急いだ方がいいかもね。だから、急ぎましょう」


「せせせ……セシリア? なんで? どうして?」


「え? ああ。私も、あなたと同じように陛下から恩賞を頂いたのよ。それで、慈悲深さに溢れる陛下はその上で更に私に、何か望みは無いかっておっしゃってくださったの。だから私は、ルーニ様とリアの助けに私もなりたいとお願いしたのよ」


「ででで……でも!! そそそ……それじゃあ、セシリアは!!」


「五月蠅いわね。もう、決定したことなのよ。諦めなさい。フフ。さあ、行きましょう」


「そそそ……そんなあーー。ちょっとセシリア、待ってください!! リア、急いでー!」



 セシリアのあとを私とリアは、慌てて追いかけた。セシリアの行動は、全く予想ができなくて一瞬どうしようかと不安になってしまう。しかし、暫くして私は自分自身が笑っている事に気づいた。


 そう言えばマリンも、王宮の書庫の本を読み終えたらまた何処かへ旅立つと言っていた。


 私とセシリアの旅も、まだまだ終わらない。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇モニカ・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国の第一王女。アテナ、ルーニ、エドモンテの姉。類いまれな才能を持っていて、剣の腕は天才的。現在は、ドルガンド帝国との国境付近の城で防衛の任務にあたっている。昔、王宮にいた頃はテトラを誘って一緒に武術の稽古をしていた。テトラは主従関係を大切にし、モニカのよき稽古相手になれればと日々思って精進したが、モニカからすれば同じくらいの可愛い女の子の友人が欲しかっただけなのかもしれない。


〇リアの住んでいた村 種別:ロケーション

カルミアという村。現在アテナと行動を共にするルキアも、カルミア村で産まれて育った。

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